ここ数年、落雷による電子機器の被害が増加している。気候の温暖化などが原因で落雷が増加、雷の電流に敏感な電子機器が影響や被害を受けているもので、これに伴い雷害対策機器の市場が急速に拡大している。雷害は、雷が直撃する直撃雷と、直撃電流の誘導電流による誘導雷があり、誘導雷は建物の通信設備に電圧異常を起こし、電子機器に被害を与える。誘導雷による被害額は年間2000億円にも上ると言われ、深刻な状況になっている。さらにPV(太陽光発電)設備や、風力発電設備なども落雷による被害が増加しており、防雷・避雷の対策ニーズが急速に高まっている。最近、世界規模で異常気象が発生、落雷のほかに集中豪雨や竜巻の発生が多発しており、こうした自然災害への対策が急務とされている。日本列島も、もともと落雷が多い地域であるが、近年は気候温暖化などの要因が重なり、全国各地で落雷が増加している。
落雷に伴う災害も増加しており、人への直接的被害のほか、停電や火災、コンピュータなど低電力で動作する半導体機器への被害が深刻化している。制御機器業界では、屋外に設置されている配電盤やキュービクルを、天災から守る制御機器やシステムが多数開発されており、特に、雷害対策機器の需要が増加、市場拡大につながっている。
誘導雷被害は年間2千億円
落雷被害による建物の通信設備に電圧異常を起こす誘導雷の被害額は、年間2000億円に上るとも言われている。このうち最も被害が多かったのは工場となっている。
落雷のメカニズムとして、落雷時の電圧は200万~10億V、電流は1000~50万Aにも達する。大電流自体が被害を与えるのはもちろんのこと、大電流により発生する強烈な電磁や蓄積された電荷により、電気・機械・通信設備や装置などが損傷、さらに大電流に伴う二次的な被害も増加している。
落雷の種類は、電流発生メカニズムの違いにより直撃雷、誘導雷に大別される。直撃雷は、雷雲から物体に直接放電が生じ、直撃電流が流れる。さらに直撃を受けた物体の近くにある別の物体に再放電を生じ、電流が流れる場合を側撃雷という。
誘導雷は、直撃電流の電磁誘導作用により誘導電流が流れるケース、または雷雲に蓄積された電荷変動により、地面側に蓄積されていた逆電荷が電流になるものを指す。
パソコンのデータが消失
近年の電子機器の被害状況では、通信線から雷の高電流(雷サージ)が侵入し、パソコンなどのデータが消失する被害が目立つ。こうした被害は、インターネットの普及に伴い拡大する傾向にあるが、地球温暖化の影響で雷の発生日数も増加しており、一般家庭のパソコン被害も拡大している。
パソコンは、高密度かつ省電力型の電子精密機器で、一般の家電製品と違いごく僅かな電流の変化で電気信号が流れ誤作動を起こしたりする。パソコンが故障する原因として、落雷によるものは、夏季(7~9月)が全体の約40%、年間でも約20%に達している。さらに、落雷時に誘導雷がコンセントなどから侵入した場合、過電流がパソコンの電源ユニットを経由し、CPU、メモリー、さらにモニターやプリンターにまで被害が及ぶ可能性がある。
落雷の被害を避けるためには避雷針を設置するほか、大規模な工場では低圧避雷器の取り付け、建物の外部から内部へ引き込む通信線や信号回路・制御回路用には耐雷機器、過電圧に敏感な機器は耐雷変圧器の取り付けなどの対策が行われている。
セクションごとに対策機器
雷害対策機器メーカーでは、様々な落雷被害を想定し、系統安全、外部雷保護、内部雷保護というように、セクションごとに雷害対策機器・システムを用意している。
系統安全では、直流回路の地絡を検出し、極性の判別を高精度・高感度に行う直流地絡継電器や、プラグイン式の分離型直流地絡電流継電器、多回路型同継電器、回路ごとの絶縁抵抗値を計測し、同値が低下すると警報で知らせる直流回線別絶縁監視装置、直流漏電警報付き配線用ブレーカ、往復の負荷電流の僅かな差電流を検出する貫通型直流地絡変流器、作業者の安全用に交直両用検電器などの製品をラインアップし、安全な電気の流れを制御・監視、機器を点検する役目を果たしている。
外部雷保護に関しては、例えばPV(太陽光発電)システムについては、直撃雷からPVモジュールを守るための、PV専用避雷システムが普及している。PVから派生する雷被害について、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の2008年の調査によると、PVの被害件数は全体の約28%が雷に起因するものとなっている。
被害受けやすい気象観測装置
PVシステムは、非常に広い敷地や建物の屋上に太陽光の遮へいとなる構造物がない場所へ平面的に配置されるケースが多いことから、落雷時における電位差が発生しやすい環境にあると言える。PVシステムは、ソーラーパネル、接続箱、集電箱、PCS(パワーコンディショナー)、受変電設備、売電・買電メーター、表示盤、気象観測装置、監視カメラ、SPD盤などで構成されている。中でも被害を受けやすいのが、PCSや気温・日射計などの気象観測装置で、特にPCSは高額設備の上、破損すると発電停止につながるため、十分な対策が必要となっている。
PVシステムの内部雷保護は、システムの直流側設備(接続箱、パワーコンディショナーなど)を、雷の被害から保護するために、太陽光発電システム用SPD(サージ防護デバイス)や、信号回線用SPD、太陽光発電装置免雷接続箱、磁気カードに落雷電流を記憶させる雷記憶カード、キュービクル用アレスタ、RS485回線用SPDなどの製品提供を行っている。
PVシステムは、DC(直流)とAC(交流)が混在使用されていることから、SPDもそれに合わせて使い分けが必要になる。
特にDCはACより高圧遮断方法が難しく、雷サージによる動作頻度が多い時や、過電流が大きい場合はSPDの内部素子が劣化し、短絡に繋がる恐れが出てくる。
また、PVシステムは発電容量、日射量、短絡故障個所など条件によって故障電流が大きく異なり、短絡電流も数A(アンペア)の小電流から発電最大電流まで範囲が広いため、想定短絡電流の全領域にわたって遮断できるシステムが必要になる。これを実現するためにはSPDと保護協調のとれた外付け分離器の遮断領域連携が必要で、短絡電流が日射量によって可変するPVシステムでは重要になってくる。
PVシステムのDC回路でSPDが短絡故障すると、SPDに系統全体の短絡電流が流れる恐れ出てくるだけに、SPD固有の定格短絡電流とSPD専用分離器の組み合わせによる短絡保護システムの構築が必要だ。
PVシステムでの直流系統におけるSPDの使用数は、接続箱1台(10kW前後)あたり1台が設置され、メガワットクラスPVでは接続箱が100台以上設置される。NEDOによると、国内のPVの設置は30年までに10GW以上を計画していることから、今後もSPDの需要が相当数見込まれる。
SPDの取り付け基準緩和
07年に建築設備設計基準が大幅に改定され、SPDの分電盤などへの取り付け基準が緩和されたことで、SPDの需要増加につながっており、雷害対策機器の市場拡大の大きな要因となっている。
この改定では、避雷器のSPD最大連続使用電圧量が、従来の200Vクラス対応から500Vクラス対応までに拡大。従来250V対応機器を2台使用していたケースでは、500V対応機器1台で対応できるようになり、使用者側のコスト削減につながっている。
避雷器の雷サージのカウント機能と、SPDの寿命を予知する機能を一体化した電源用SPDも販売されている。従来、現場での判断が難しいとされていたSPDの寿命判定機能を設けることで、効率の良いメンテナンスが可能となり、安全性と保守性双方の向上が図れる製品として注目されている。
SPDの接地線に流れたサージ電流レベルや日時などのデータを記憶して、詳細な劣化日時を記録・表示することができるものもある。
「雷ナウキャスト」の提供開始
気象庁は落雷による被害軽減のため、10年5月から詳細な落雷予報である「雷ナウキャスト」の提供を開始している。雷発生の可能性や雷の激しい地域の詳細情報、さらに1時間先までの予報を行うもので、雷の活動度を最新の落雷の状況と雨雲の分布により報知している。
03年に設立された産官学の雷関係者でつくる「雷害リスク低減コンソーシアム」は、雷害リスク低減へ向けた活動を、国全体のプロジェクトとして実践し、06年に設立された日本雷保護システム工業会(JLPA)は、各種の雷害対策機器関連の工業会が中心となり、機器の普及拡大へ向けPRや啓蒙活動を行っている。
雷が引き起こす社会的損失は、直接的にも間接的にも大きいが、雷の発生を防げない中で、現在は被害を最小限に防ぐ手法しかない。避雷器の果たす役割はますます高まっている。