サーボモータの市場が急ピッチな回復を見せている。2012年の大きな落ち込みの反動があるものの、3直体制に近いフル生産を続けているサーボモータメーカーも出てきている。先行きの市場見通しも明るい材料が多く、しばらくは上昇基調で推移しそうだ。製品も高速化や精度の向上に加え、さらなる使いやすさを追求して専用ニーズ品の品ぞろえや、モーション制御機能との一体化、エンコーダレス品やレアアースレス品の開発などが意欲的に取り組まれるなど活発な動きが見られる。生産と販売のグローバル化も進展しており、大きな盛り上がりを見せている。
サーボモータ市場は、工作機械、半導体・液晶製造装置、産業用ロボット用、自動車生産設備などを中心に急速な回復を見せている。2012年は欧州と中国市場の不振、国内でも半導体製造装置や液晶製造装置の停滞でサーボモータの生産は大きく落ち込んだ。
日本電機工業会(JEMA)がまとめている産業用汎用電気機器出荷実績によると、12年度(12年4月~13年3月)は1223億円(前年度比76・9%)と大きく落ち込んだ。しかし、13年度第1四半期(13年4~6月)は340億円(同102・9)とプラスに転じており、先行きの受注も見通しも明るくなってきている。
この需要を支えているのが、スマートフォンやタブレットPC関連だ。4~6月はスマートフォンやタブレットPC関連の生産増に対応した工作機械や電子部品実装機、ロボット、それに自動車生産設備の生産に対応した設備投資が牽引し、サーボモータの生産増につながった。このプラスの影響が半導体や電子部品の生産増に波及し7月以降、半導体製造装置の受注増、電子部品の生産増が顕著になっている。
「シリコンサイクル化」懸念の声も
スマートフォンやタブレットPC関連の需要増の恩恵は、日本だけでなく、韓国、台湾、中国などグローバルな形で広がっており、円安効果もあり、サーボモータ各社の生産は完全に元に戻っている。中には、3交替の生産体制でフル生産を行っている所もあり、今年度のサーボモータの売り上げを20%増で計画しているメーカーもある。
14年度の年明けには、再度の生産設備投資が出てくるという見方もあり、先行きへの期待が高まっている。
ただ、スマートフォンやタブレットPC頼みは、新機種モデルの売れ行きによってサーボモータの需要も大きく左右されることから、「サーボモータのシリコンサイクル化」を懸念する声も聞かれる。過去の需要傾向を見ても、サーボモータの山谷の差が大きく、サーボモータ各社はそのたびに生産計画を大きく狂わされてきた。最近はこの影響を少しでも避けるために、人手作業の部分を極力減らし、ロボットや自動機などを活用した生産へ移行しつつある。サーボモータは用途によって使い分けされることから少量多機種化の強い製品のひとつ。自動化と人手作業をうまく使い分けながら、こうした需要変動に対応しようとしている。
新エネルギー関連も堅調
こうした主力需要分野に加え、PV(太陽光発電)などの新エネルギー関連、電池や充電器などの環境関連、それに3品(食品、薬品、化粧品)関連なども堅調で、需要を支えている。
さらに、今後期待の分野が医療分野だ。医療機器、介護機器などでは人手に代わる形でロボットなどサーボモータを活用した機器の需要が確実に増加することが見込まれている。サーボモータの特徴を生かした機器が今後、色々な形で役割を果たしそうだ。
このほか、駅ホームの安全ドア開閉や自動改札機、乗り物シミュレータなどのアミューズメント関連、回転鮨のベルトコンベヤ制御などでも採用が進んで、新たな市場を形成している。
中国市場も回復基調
海外市場は、欧州がまだ本格回復に至っていないが、北米が自動車製造関連や、シェールガス開発関連などを中心に堅調で、中国市場も回復基調に入っている。中国は、工場作業員の人件費の高騰を背景に、作業員を削減して生産の自動化に移行する動きが加速しており、ロボットや実装機の需要が拡大、サーボモータの需要増を支えている。製造した製品の品質の安定にもつながることから、今後ますます自動化が進むものと見られる。サーボモータメーカー各社は、中国市場でのニーズやコストに配慮した特別仕様品の投入も行いながら、積極的な営業展開を行っている。
一方、モータの磁石に使用されるジスプロシウム(Dy)やネオジウムなどのレアアース問題は、ここにきて状況が大きく変化している。技術が大きく進展して、レアアース使用量の削減や、レアアースを使用しないサーボモータの開発を積極的に進めた。価格もこうした需要減もあり、一時の高止まりからは大きく下がっている。サーボモータ各社は、代替技術と価格の動向を見ながら、レアアースへの対応を図っている。
サーボモータ各社は、使いやすさに重点を置いた製品開発を進めている。複雑な制御調整が簡単にできるオートチューニング機能、機械の振動を抑えながら短時間で位置決めを行う制振制御技術、作業の安全を確保するセーフティ制御技術、さらに効率的な生産を進めるネットワーク化対応などが開発のポイントとなっている。さらに近年の機械・装置の小型化に伴い、サーボモータでも小型・軽量化が進んでいる。
オートチューニングでは、ワンタッチで機械の共振制御などにも対応できるよう、各社が独自の機能を搭載している。制振制御技術ではアーム先端の振動に加え、装置本体の残留振動も抑制できる低周波抑制アルゴリズムを搭載し、さらなる高精度調整を可能にしている。
高速化では、速度周波数応答2・5kHz、22〓ロータリーエンコーダーの標準搭載で、400万〓/revを超える高分解能製品もラインアップされ、位置決め整定時間を大幅に短縮し、高精度な位置決めや微細加工を可能にしている。整定時間を短縮することは、業務の効率化に繋がり、機械・システムの生産性が向上する。
また、サーボモータの制御に関しては、指令応答特性を高めるフィードフォワード機能(FF機能)と、外乱抑制特性を高めるフィードバック制御(FB制御)があるが、FF制御とFB制御を完全に分離して制御を行うことができる、2自由度制御方式を搭載したサーボモータも発売されている。
両制御を完全に分離することで、より高速・高精度なモータ制御が実現する。例えば電子部品実装機では、部品搭載ヘッドの振動を抑えた高速実装タクトの実現や、金属加工機では、摩擦や粘性の影響を少なくし、切断面を滑らかにするといった高精度な加工が実現できる。
ネットワーク対応では、EtherNet技術をベースに、通信速度100Mbps全2重の高速独自ネットワークを駆使し、リアルタイム通信性能や、自由度の拡大が図られている。
また、オープンとクローズなネットワーク団体がグローバルな活動を続けている。対応製品も年々増加しており、ユーザーにとっても使いやすさがさらに増すことになる。
セーフティ化では、サーボモータに関連する規格として、ISO13849―1、IEC61508シリーズ、IEC62061、IEC60204―1、IEC61800―5―2などがある。このうちIEC60204―1は、機械の電気装置に関する要求事項を定めた規格で、停止の制御機能について定義されている。
セーフティ規格を搭載
可変速ドライブシステムの機能安全規格であるIEC61800―5―2への対応も行われている。現在はこの2つのセーフティ規格を搭載したサーボモータが発売されているが、今後、国際標準化に準拠したセーフティ機能の拡大が予想される。そのほか、厳しい環境下でも使用できるよう保護構造IP65などを標準採用したタイプやIP67対応品も増えている。
低剛性の対応もポイントで、特に高速応答の必要なマシンボンダーや、低剛性メカニックを低振動で高速駆動したい取り出しロボット、多関節ロボットなどで重要視されている。
小型・軽量化の例では、サーボドライブが必要とするトルクを直接供給するようにすれば、機構が単純になってコンパクト化が可能となる。故障の発生や外的トラブルの要因も減らせ、低コストや省資源というメリットにもつながる。機器の小型化では、リニアサーボモータの動向も注目されている。回転型サーボモータとボールねじとの組み合わせに比べ、推力が大きく、短ストローク移動で加減速の繰り返しなどに強みを発揮できる。特に、小型で速い動きが求められている機械などに最適である。
「オールインワン・サーボモータ」として、ドライバ、エンコーダ、モーションコントローラ、シーケンサ、ネットワークまでを1台に収納した製品は、配線作業が不要で、省スペース化とともにトータルコストダウンが図れる。
搬送機械、繊維機械などでは、1台のマシンに使用するモータ数が多く、特にサーボアンプの小型化や各軸のゲインチューニング工数の短縮が求められる。このため、回路基板をワンボード化するなど、高密度実装と最適放熱設計での超小型サーボアンプもある。
エンコーダレスに注目
今後注目されるのが、エンコーダレスサーボモータの動向だ。エンコーダなしで電圧および電流からモータの速度と位置を検出して、高精度な速度制御や位置決め制御が実現でき、しかも負荷変動(0~100%)に関係なく安定した速度で運転や位置決めを実現でき、位置決め精度も高い。エンコーダを使用しないため、小型化が可能で機械の省スペース化にもつながる。また、部品点数が少なくなることで、メンテナンス性も良くなる。
このところの円安傾向から、輸出環境は好転しているものの、サーボモータ各社は「地産地消」の姿勢を崩しておらず、海外生産はさらに増加が予想される。アジア市場を中心に、生産と販売の両面でサーボモータを取り巻く環境は激しい動きが続きそうだ。