顧客の資材担当者とは納品、見積もりなどの打ち合わせに訪問することが多く、商品の紹介を兼ねた新たな売り込みは開発技術部門、製造技術部門である。日頃、彼らからの用件がない限り会いに行くことはまれであるから、いざ販売強化を言われると、意を決して技術者に会ってテーマ情報を取ってこようと立ち上がる。日頃、資材部門を訪問するのとは気持ちの張り方が違う。資材は打ち合わせありきだから気持ちが楽である。よく会っているから雑談の糸口も簡単に見つかる。
それに反して技術者への積極的訪問は勝手が違う。緊張してしまうから相手に先を越され、『今日はどんな用事で』などと言われると売り込みの商品を出して話し始めてしまう。こういうやり取りの情景は一般的に多いのではなかろうか。さらに相手に嫌われないように、相手が気に入って喜んでくれるように手の内にある良いことをしゃべり出す。納期・価格・商品の長所・売れ行きなどである。それでも関心を示さないとさらに輪をかけて、気に入ってもらえるように力説するか、今後ともよろしくお願いしますというセリフを後に残し退散する。このような情景は人の普遍的な心理を無視するからである。
まず嫌われないようにするということは好かれることである。好かれるようにしようと焦るから、大切な手の内をいとも簡単に話してしまって玉砕するのである。人に好かれるには、その人を好きになるのが近道なのだ。その人を好きになるためには先ずその人に興味を抱くことである。自分のことは後回しにして、相手に興味を持ち知りたいことを質問することである。その興味が下心なく純粋に感じられたなら、相手は悪い気がしないものだ。それがたとえ拙い質問であってもである。ところが前述したように好かれようとして、人の普遍的心理を無視してしまうから結果的に関心を持ってもらえないことになる。
したがって販売員は普段から顧客に関心や疑問に思っていることを質問し、顧客から学ぶ姿勢を持ち続けなければならない。そうすれば質問する能力は次第に上がる。質問の熟練効果はただ単に技術者に好かれるということだけでなく、多岐にわたるものである。
(1)対話する顧客の人柄を見抜く力が向上する。相手の短所を見て、長所を見つけることができるし、その反対もまた可である。たとえば無口な人でも会ってくれているのであれば、嫌われてないということを感じられるようになる。やさしい人は自分にだけでなく、誰にでもやさしいということが分かるなどである。
(2)人間関係づくりが上手になる。相手のどこかに興味を見つけるのが上手くなるし、話題が豊富になってコミュニケーションがスムーズになる。
(3)顧客情報の入手が幅広くなる。興味を持って質問しているうちに業界の知識が増えていくし、顧客の仕事がより鮮明になる。また分からない専門用語の理解が深まり、ニーズらしきものが見えてくる。
(4)積極性が身につく。販売員は積極果敢に商品やアプリケーションを売り込むことが積極販売だと思っているのだろうが、実はよく分からない相手に自分本位の戦いを求めているようなものであり、もしそれが成されたとしても蛮勇のそしりを免れないものである。相手が分かれば商談の主導権は取れるし、やみくもに行うのではなく考えてやるので思考力がつき、顧客に必要性を気づかせる質問が上手くなる。顧客をその気にさせる質問は、最高の質問となる。
(次回は9月25日掲載)