爆発危険性の高い設備の安全を確保する防爆関連機器は、石油化学プラントを中心に、食品・薬品・化粧品などの3品分野、エネルギー分野、半導体製造装置分野などで市場が拡大している。同時に、プラントや施設の老朽化などに伴い、リニューアル需要も活発化している。FA分野における防爆関連製品は、コントロールボックス、バリアリレー、照明、プログラマブル表示器(PD)、バーコードリーダ、各種センサ、無線機器など多岐にわたるが、最近ではネットワークの普及に伴い、防爆ネットワーク製品やWebカメラなどの需要も増えている。さらに、アプリケーション面では、水素ガスによる爆発事故が増加していることから、水素ガス雰囲気で使用できる本質安全・耐圧防爆構造の表示器も発売されている。
石油化学プラント、LNG基地、石油・天然ガスの備蓄貯蔵場所、塗装工場、火力発電所、トンネル掘削工事現場などの爆発危険場所では、可燃性ガスや引火性液体などを使用することから、爆発の要因となる電気機械器具を使用することについて、法律で防爆構造の機器を使用することが義務付けられている。
近年では、プラントなどを管理・保守する熟練者の減少などで、管理・保守業務を外部に委託するケースが増加、社員が設備の状況を把握していないケースも多く、設備が老朽化した現場ではトラブルや爆発事故の原因になっている。こうしたことを背景に、安全確保の観点から防爆関連機器に対する関心が年々高まっており、同機器の市場拡大につながっている。
防爆機器には様々な規格があるが、厚生労働省では防爆構造規格に関して、2010年に「防爆性能基準」と「型式取り扱い」の通達を出した。さらに、1988年以来IEC規格基準として「技術的基準」があったが、10年の通達で廃止され、同日付で「国際防爆指針」に適合するものが構造規格に適合するとして扱われるようになった。
国際防爆指針の検定増やす
防爆性能基準の内容は「電気機械器具防爆構造規格における可燃性ガス、または引火性の物の蒸気に係る防爆構造の規格に適合する電気機械器具と同等以上の防爆性能を有するものの基準等について」で、型式取り扱いの通達内容は「防爆構造電気機械器具の型式の取り扱いについて」である。
この通達により、防爆機器メーカーでは市場のグローバル化に対応するため、国際防爆指針の検定を増やす傾向にある。この動きに呼応して欧州防爆指令(ATEX指令)に適合した耐圧・安全増防爆構造のコントロールボックスも市場で出てきている。
また、防爆構造基準に関しては、「電気機械器具防爆構造規格」と「国際規格(IEC規格)」の2つの体系が実質的に存在している。10年の通達では防爆構造規格は1つとされているが、規定の規格に適合しない電気機械器具についても、IEC規格準拠のものは適合すると見なしている。
一方、防爆関連機器を必要とする危険箇所について、08年3月に労働安全衛生法で「爆発のある濃度に達するおそれに」という文言が追加された。
これに伴い、大規模な工場から半導体製造工場、燃料電池関連などの事業所、ガソリンスタンド、LNG・LPG充填所、塗装作業所、有機溶剤の取扱所まで、危険物や可燃性物質、高圧ガスなどを取り扱う様々な事業所が法改正の対象となり、防爆関連機器の需要拡大につながっている。
さらに、同法改正により、危険場所の区分が法的にも義務付けられ、既存のプラントも法改正の影響を受けることになった。
このような危険箇所では、爆発事故などを防ぐため電子・電気機器を隔離しなければならない。危険箇所では石油などは常温でも気化し、その蒸気や温度によってはスイッチなどの開閉に伴う微小の電気火花や、静電気による火花で引火や爆発する恐れがある。加えて、設備の更新遅れや熟練保守点検要員の退職といった理由から、高圧ガスの製造事業所での事故件数が増加しており、こうした観点からも防爆対策に対するニーズが急速に高まっている。
半導体製造関連分野や有機溶剤を取り扱う自動車塗装関連分野などでは、本質安全防爆機器の採用が広がっている。さらに、食品業界や薬品業界といった3品業界でも安全確保の観点から防爆関連機器採用の動きが活発化している。
対象多いFA制御機器分野
防爆関連製品は、FA制御機器分野、モータ分野、照明分野、計測機器分野の4つに分かれる。このうちFA制御機器分野の市場規模は80億円前後とみられている。
FA制御機器以外のモータや照明、計測機器などの防爆製品については、それぞれが関係する工業会が対応を行っており、モータなどは日本電機工業会(JEMA)、測定器などは日本電気計測器工業会(JEMIMA)、照明器具は日本照明器具工業会(JLA)などで、各工業会の間でも連携して活動している。
FA制御機器分野の防爆機器は、日本電気制御機器工業会(NECA)が関わる製品が多く、コントロールボックス、バリアリレー、PD、リミットスイッチ、各種センサ、回転灯、バーコードリーダ、グリップスイッチ、ソケット、パソコン、ケーブルグランドなど多岐にわたる。
最近では、IT機器の普及と防爆製品の需要増を背景に、防爆型の広域アクセスポイントや指向性の遠距離タイプ、無指向性のアクセスポイントなどの製品が発売されているほか、無線LANによる防爆ネットワーク構築や、インターネットに対応する防爆WebカメラやIP電話、さらに防爆型ハブなども発売されている。
注目されるDART技術
一方、新しい電気防爆技術では「DART」が注目されている。DARTは、断線した際に発生する電流値の変化を、数マイクロ秒(マイクロ秒は100万分の1秒)レベルで検知し、電源を5マイクロ秒で遮断、スパークが誘引されて爆発が起きないように防御する。
これにより、これまで大容量の電源が必要な機器を危険場所で使用するには制約が多かったが、こうした制約が解消されるほか、接続できる機器数の増加やケーブルが長くできるなどの利点があり、本質安全防爆性能を備えたフィールドバス機器などが製品化されている。
防爆構造の種類では、「耐圧防爆」「内圧防爆」「油入防爆」「安全増防爆」「本質安全防爆」「粉体充填防爆」「樹脂充填防爆」「特殊防爆」などがある。
「耐圧防爆構造」は、防爆性能を備えた容器の中に着火源となる電気機器を入れることで、容器内部で爆発が生じても容器の外部に爆発が及ばないようにした構造。内部爆発に十分耐える強度をもち、容器の接合面の隙間から通じて火炎が外部へ着火しないことが要求される。
容器が性能を満たすものであれば、内蔵する電気機器には制約はない。照明器具などの場合は、容器の一部にガラスなどを使用する。
「内圧防爆構造」は、容器の内部に空気、窒素などの不燃性ガスを加圧して満たし、容器外部の可燃性ガス・蒸気を着火源から隔離する方法。保護ガスの内部圧力に耐えること、保護ガスの漏洩が少ないこと、内圧低下時の保護装置を備えていることなどが要求される。内蔵する電気機器に制約はないが、保護ガスの供給設備、保護装置が必要で、小型の電気機器には経済的に適していない。
「油入防爆構造」は、着火源となりうる部分を絶縁油に浸すことで、着火源を可燃性ガス・蒸気から隔離する方法。絶縁油が外部からの塵埃、湿気などにより汚損されないように全閉構造であることが要求される。油を使用していることから、メンテナンスに難があり、変圧器などの用途以外はあまり使用されない。
「安全増防爆構造」は、正常時の運転・動作時は、着火源として作用しない電気機器のみに適用する防爆構造。通常は着火源として作用しない電気機器でも、種々の環境で使用し続けると絶縁不良などで、電気火花などの着火源となりうるので、そうした着火源を生じにくいように安全度を増したものを安全増防爆構造という。
適用対象となる電気機器には制限があり、例え通常時に着火源とならないものでも、安全度を増すことができない電気機器には適用できない。
「本質安全防爆構造」は、計測・制御・通信・警報などの低圧電気機器にのみ適用され、これらの電気回路で発生する電気火花には着火源として作用しないか、あるいはある限度内で作用しないように抑制されるもの。即ち本質的に危険な火花そのもの、あるいは高熱を発生しないようにしたものである。
「粉体充てん防爆構造」は、正常動作時に着火源を有しない電気機器に対し、着火源となりうる部分を石英粉やガラスの粒子などの充てん物で完全に覆うことで着火を防止するもの。日本では法規上認められておらず、特殊防爆構造として扱われる。
「樹脂充てん防爆構造」は、着火源となりうる部分を絶縁性のコンパウンドで包み込み、ガス・蒸気と隔離したもの。この防爆構造も日本では法規上認められておらず、特殊防爆構造として扱われる。
「特殊防爆構造」は、特定の防爆構造によらず、可燃性ガス・蒸気に対して防爆性能を有することが試験などで確認された構造。これは既存の防爆構造以外に、新しい原理による防爆構造・構成・材料などの技術を取り入れた防爆構造の採用への道を拓いておくためのもの。
このほか、「バリアリレー」は本質安全防爆構造の一種のリレー中継装置。爆発危険箇所にあるリミットスイッチや押しボタンスイッチなどのON/OFF信号を、非危険場所へ中継させる。爆発性ガス雰囲気の中で、汎用のリミットスイッチや押しボタンスイッチが使えるとともに、危険場所に配線する本質安全回路の断線・短絡・地絡や、非本質安全防爆回路のトラブルの波及など、あらゆるトラブルが生じても安全性を確保する。
最近は、国内防爆検定取得と機械安全規格認証を受け、防爆安全と機械安全両方を満たした「防爆機械安全」というセーフティリレーバリアが登場した。機械安全と防爆安全が確保されたシステムで、爆発性雰囲気内での安全システム構築に対応する。例えば、このリレーバリアに非常停止用押しボタンスイッチや安全スイッチなどの安全入力機器と、安全規格に適合したコンタクタを接続することで、防爆安全と機械安全の双方が実現できる。燃料電池の防爆対策も進展
NECAでは、防爆電気機器の点検や保守の促進、啓発を目的とした「防爆安全ガイドブック」の発刊や、機械運用安全で設けているセーフティアセッサ資格認証制度を防爆電気機器分野でも設けている。「セーフティベーシックアセッサ」(防爆電気機器安全資格制度、SBA―Ex)は、防爆電気機器を使用する現場設備の安全パトロールや点検を行う設備の運用者、管理者、オペレータ、保全関係者などを対象に、IEC60079―17に基づき、防爆電気機器に対する正しい基礎知識を持ってもらうことを狙いにしている。
爆発には、ガス爆発のほか、空気中に漂った小麦粉や砂糖などの粉塵で起こる粉塵爆発、二つの物質を混ぜ合わせた際の衝撃で起こる混合爆発、高温の金属と水が接触し、水が水素と酸素に分解してその水素に点火し爆発を起こす水蒸気爆発など様々なものがあり、最近は燃料電池などの普及により水素ガスの爆発事故も増えており、水素ガス雰囲気で使用が可能な本質安全・耐圧防爆構造のタッチスイッチ付き表示器も発売された。燃料電池は、環境に負荷のかからないクリーンエネルギーとして注目されており、防爆関連機器のアプリケーションも拡大することが予想される。