勝負には「攻め」と「守り」という形式がある。勝負に勝つためには守っているだけでは勝てない。しかし一方的に攻めているだけでも最終的な勝利を得ることはできない。攻めと守りの絶妙な組み合わせが必要である。19世紀にナポレオンと戦って、連戦連敗した後に最終的に勝利を収めたプロイセン軍の参謀であったクラウゼヴィッツは攻撃よりも防御の方が強い戦争形式だと言う。防御の目的は保持することなのに対し、攻撃は獲得することである。保持することは獲得することよりも容易である。それ故に防御の方が形式としては強いと言う。
保持することが獲得することより有利な理由は(1)攻撃者が何もせずに、ただ黙って見過ごしている時間はすべて防御者の利益につながる。攻撃者の誤った見解や未知な相手を不安がったり、怠慢による攻撃の見合わせはすべて防御者を利することになるからだ。(2)もう一つの理由は、戦う場所である現場の地形を防御者の方がよく知っていることである。一方、攻撃者は相手の陣営に攻めこむのであるから、現場の状況を捕捉し種々の手段を講じなければならないので大きな戦力を消耗することになる。一般的に防御と言えば何か後手に回る弱者の立場のように見えるが、防御はただ守りをもっぱらとする盾とは違って反撃という攻撃要素をもっている盾なのである。だから相手の戦力より強力なら現状を維持するという消極的な目的を捨て、反撃に打って出て勝利を収めることができるのである。以上のように考察すると、防御という戦いの形は攻撃という形より強力と言うことになる。
ところで、彼我の戦いにおける勝敗の証しは領土をどれだけ取って、どれだけ守っているかである。現代の営業上による争いも同様のことが言える。見込み客をどれだけ取って、どれだけ守っているかと言うことになる。つまり見込み客を積極的に訪問活動して顧客という資産にどれだけ登録できる営業をしているか、なのである。
見込み客の資産化が思うようにいっていない現状を見ても、攻撃よりも防御の方が強い形式であることが実感できるだろう。それ故に攻撃側は防御側と同等程度の力では勝てないのだ。もしも売り込む商品を前面に出して成功させたいのなら、見込み客がビックリするような商品でなければ、勝って顧客としての登録は無理である。リニューアル商品程度で多少価格が安くなっているからといっても勝てないと言うことなのだ。
営業にかけるエネルギーも防御側に比べれば何十倍の消耗を覚悟しなければならない。覚悟のないままに思いつく商品や改善品でもって戦いをしかけても勝てない。クラウゼヴィッツが論じている通り、大差がなければ防御の形式の方が強いからだ。
それでは同等程度の商品しかないのにどうやって攻めればいいのか。前述の通り、正攻法的に自社の商品の優位性を真正面からぶつけてもしょうがないことはわかったと思う。ここでは商品の力でなく販売員の力に頼らなくてはいけない。
実際の戦さで、戦力的に劣勢である場合に真っ先にやることは相手情報の徹底した収集である。密偵や偵察隊を出したり、捕虜を尋問して相手の戦力や司令官の性格を知って、敵軍の戦術や動勢を詳しく探れば勝つチャンスは見えてくる。
営業もまた然りである。ホームページ等の事前情報でわかったつもりでは勝つチャンスは訪れない。時間をかけてこつこつと詳しく情報入手に努める販売員の力が、強い防御を打ち破るのである。
(次回は10月2日掲載)