勝負には「攻め」と「守り」の2つの形式がある。前回述べたように「守り」の形式は「攻め」と比べてみると、とても強い形式なのである。実際の戦争やスポーツの勝負では、勝ち負けの概念はとても単純な故に分かりやすい。したがって、クラウゼヴィッツが戦争論で述べている通りに守りの形式は強いということが容易に分かるだろう。
しかし現代の企業間の競い合いは時間と空間が広大なところで行われているために、戦いは複雑な様相を呈することとなる。だから各人は今どこで戦っているのか場所すら明確に分からず、ただ目の前の競合が見えるだけの場合が多い。
それに一体全体、勝っているのか、負けているのか、はたまた攻めているのか、守っているのか、はっきり分からずに日々激しく戦っている。そこで、期間や業界、エリアや顧客を限定して自分達が戦っている位置を確認するようになる。そのような限定の範囲の中で自分達は勝っているのか、負けているのかを判断するのは割と容易である。しかし勝ち、負けは分かっても、現在の自分達は攻めているのか、守っているのかという感覚はかなりあいまいなものになっている。
ここで営業活動における前線部隊の攻めと守りについて考察してみよう。販売員が攻めると言えば、まず頭に浮かぶことは顧客に向かって商品を積極的に売り込んだり、商品を紹介して競合を発見し、何とか切り替え活動にもっていく時であろう。販売員が思っている攻めの手段も時代によって変化してきた。
市場の成長期には色々な商品が次々と創出された。その時代には次々と出現する商品をユーザー側でどんな使い方をしているのかをまとめたアプリケーション集をつくり、攻め込んだ。市場の成長期も後半になってくると技術的にも進み、商品が複雑になり電気的にもむずかしくなってきた。それらに対処するために商品に関する技術力を身につけて攻め込むようになった。
成長期が終わり、やがて成熟期に入ると顧客満足営業が標榜され顧客満足を得るための仮説を設定し、その解決策を提案する手段で攻め込んだ。成熟した市場ではやがて大競争を呼び込み、その結果、現在の営業は競合打破を念頭に置いて、商品のPRを中心にアプリケーション紹介、仮説提案などの手段で攻め込んでいる。攻めとは対局にある守りはどうだろうか。一般的に言うところの売り込みが攻めの活動なら、守りの活動はサービス活動であろう。
サービスにはプレサービス、都度サービス、アフターサービスの3つに分類される。販売員がやっている営業活動のうち、圧倒的に時間を費やしているのは都度サービスである。新商品が発売されると、「こんな物ができました」などと言って紹介がてら訪問するのは攻めというよりはプレサービス的活動と言える。アフターサービスは商品を買ってもらった後の不動作や修理に対応することであるが、成熟期にある商品は多機能化、複雑化しているために使い方の説明や相談に応ずるアフターサービスが多くなっている。
販売員は、これら3つのサービス活動で顧客に逃げられないように守っている。
しかし厳密に言えばサービスでも顧客を獲得することができるのだから、サービスは攻めの要素をもっている。さしずめ攻めのサービスはクラウゼヴィッツの言う反撃に相当するが、これは個人の活動ではなく、会社が組織的に行う活動である。会社が守りの強い形式をうまく活用している例である。
(次回は10月23日掲載)