混沌時代の販売情報力 黒川想介 有効な情報は顧客の中にある

勝負には「攻め」と「守り」の二つの形式があることを考察してきた。戦いの攻防に打ち勝って領土を増やすことが最終的な勝利である。現代の企業間の戦いも同様に、市場における攻防に打ち勝って、より多くの顧客を獲得することが勝利につながっていくのである。

これまで、攻めの形式に比べると、守りの形式の方が強い形式であることを考察してきた。また前回では、現代の企業間の争いは広大な時空間での戦いであるから勝ち負けは今ひとつ明白でない。そこで期間や市場、顧客を限定して白黒つけていることに言及した。それでも各販売員個人は自分が攻めているのか、守っているのかが曖昧なまま営業活動をしていることにも言及してきた。曖昧というのは市場や業界の成長期に攻めの手段として行ってきた新商品紹介やアプリケーションの紹介が、今日では攻めの活動とは言いきれないケースが多くなっているからである。

顧客側では、販売員が行うサービスの一環くらいにしか思っていないということなのだ。販売員の攻めの活動があまり利いていないと感じている会社は、守りが主たる活動であるサービスを会社レベルで強化し、守りから一転して反撃的な攻めのサービス体制を敷いて、顧客獲得を図るようになった。しかし、攻めの活動のメーンは販売員がやらなければならない。

そこで、今日の販売員が行っている営業活動をざっと考察してみる。販売員は生真面目で一生懸命活動をしているが、攻めているとか守っているなどの意識は明確に持っていない。しかし、今やっている活動は攻めなのか守りなのかの意識がなければ、当月や当期の売り上げ目標に対して現状の活動が適切な活動になっているかどうかチェックできないはずである。言い換えれば、売り上げ目標はあっても目標達成のために商品紹介やアプリケーション紹介をやっているとの反論があるかもしれないが、それらの活動が売り上げに寄与していなければ、それらの行為は自分の顧客を他人に取られないように守っているサービス活動にすぎないのである。

また販売員は売り上げを伸ばすため新規の見込み客を発見し、顧客化しようとがんばる。そこでも新商品やアプリケーションという武器をもって見込み客に斬り込む。守りは堅く、販売員は成功の確率が低いことを感じているが他の攻めの手段を模索してはいない。なぜなら、そのやり方で偶然にも成功することがあるからだ。実際のところ、そのやり方でも新規顧客獲得が成功しているのはおおむね入手困難な商品を探している見込み客か、一円でも安く買おうと待ちかまえている見込み客に当たったくらいのものなのだ。ということは、販売員はそのやり方で狙った見込み客を顧客化できていないのが現状だ。

以上のように、今日の販売員の活動は顧客に対しても、見込み客に対しても、攻めとして有効な活動になっていないから大半の活動は守りに徹しているように見える。しかし、いかなる勝負も攻めと守りのバランスで勝利するのであれば、この時代のこの業界でも有効な攻めのやり方を模索しなければならない。

有効なそのやり方は端的に言ってしまえば、顧客や見込み客に利く武器を持つことである。販売員の持つ武器は情報である。有効な武器とは何か、それを知るには情報というものに対する意識を変えなければならない。これまで述べてきたように新商品や知られているアプリ情報ではない。有効な情報は顧客の中にあることに、まず気づかなければならない。
(次回は11月6日掲載)

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