混沌時代の販売情報力 黒川想介 顧客の全体像を把握し直す

販売員にとって、見込み客を探して飛び回っている時は疲れる上に精神的につらい時間である。しかし商談にたどりつき、打ち合わせが開始された時は疲れは吹っ飛び、うれしい時間となる。日本の産業が十分な生産力を備えるまでの成長期には、販売員にとって上記のつらい時間とうれしい時間が交錯していた。必要な物や欲しい物が一応そろっている成熟社会になっている今日、生産力は十分にあり、マクロ的に見れば過剰設備状態である。

この時代の販売員にとって、営業がつらい時間とうれしい時間がはっきり区分されていない。なぜなら、成長期には商談や新規客をはじめとして、いつも何かを追いかけてきたが、生産力が十分となり大競争時代となっている今日では、顧客からは案件の打ち合わせや納期に追われ、扱いメーカーからは競合切り替え要請に追われ、いつも何かに追われる営業が主力になっているからである。

追う、追われるは気持ちの問題でもあるが、追うというのは何か新しいことを行う時、つまりチャレンジ的な場合である。追われるというのは従来から行ってきた仕事の延長線上で忙しくこなしている場合である。

毎日の営業活動を忙しく淡々とこなしてばかりではめりはりがなく、営業のおもしろさが分からない。追っている時はつらい時も多いが、うれしい時もある。しかし追われている時は、つらい時ばかりなのは世の常である。

営業は、人とのかかわりによって色々なことを発見し経験できる世界である。人とのかかわりのある仕事だから大変なのだ。大変だから大変さをフォローしてくれるうれしさがないと精神的に疲れる。今日の販売員が無感動であったり少々疲れ気味で不満が多かったりするのは、いつも同じような光景の中で営業をしているのであって追う営業がなくなっているせいである。販売員の生命とも言われる商談でさえ、追っているように見えているが、実際は毎度の顧客から課題を与えられて奔走しているのが実情である。日に日に競争が激化する大競争時代であるが、混沌とした様相を呈した新時代でもある。販売員にとってうれしい時代なのだ。

なぜならば皆が追われている時に新時代を感じた販売員は自分を発奮させて、追う営業ができるからである。追う営業をすればいいと言うが、俗に言う案件ではないなら何を追えばいいのか、それは新しい需要である。隠れていた市場や成熟社会が欲する市場の中にある需要である。

案件という形をとって表れる場合もあるが、販売員が狙って見つける需要であるから、販売員が多くの現場を経験して見つけ出す需要である。時間をかけて経験することだから営業教育的ハウツーで簡単に見つけることができる。しかし、それほどむずかしいものでもない。

一般的にセールスの世界では、売り込む相手に関わる全体をとらえてから徐々に核心に迫って販売を成功させる。電気部品やコンポを売り込む相手は、個人とちがって全体をとらえるのは大変だし時間がかかる。だから大競争時代の今日では販売員は手っ取り早く、案件が向こうからやって来るところで勝負しているし、すでに使われている部品、コンポを見つけて自前の部品、コンポに強引に替える活動をしている。

そんな時代だからこそ、セールスの常道に戻り、現在の顧客を一から知ろうと試みればよいのだ。顧客の全体像をより具体的に把握し直すことが、新たな需要を発見し商談まで持ち込む第一関門となる。
(次回は12月4日掲載)

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