オートメレビュー7月17日付で、(1)小形モータの市場動向(2)知能化モータの構成と集約化(3)レアメタル(アース)レスモータ(4)モータの高効率化(IE2、IE3)規制(5)産業モータトドライバは一心同体(6)最近のリニアモータ(7)電動モータ化航空機、などを紹介した。読者諸氏に近未来モータ/モーション技術・ビジネスの課題を抽出してもらうことが目的であったが、いくつかの重要なテーマが落ちていた。
そこで今回はその2として、(8)制御技術の進歩とレアメタル問題で利用範囲が広がっているリラクタンスモータ(9)計装/プロセス業界とモータ/モーション(10)超伝導モータ(11)超音波モータ、などについて紹介する。
100年以上も普及しなかったリラクタンスモータが、入手困難な永久磁石を用いないモータということだけではなく、永久磁石モータや誘導モータとの融合により信じられない進化と普及を見せている。従来はモータ/モーション切り口で語られなかったPA(プロセスオートメーション)市場での利用や、超伝導技術、超音波技術を用いたモータなどについて触れる。
8.制御技術の進歩とレアメタル問題で利用範囲が広がっているリラクタンスモータ
リラクタンス(Reluctance)とは磁気抵抗のことである。電気の世界のオームの法則:E(起電力、電位差、電圧)=R(抵抗)×I(電流)と同じに、ホプキンスの法則が成立する。Fm(起磁力)=Rm(リラクタンス、磁気抵抗)×Φf(磁束)
リラクタンスモータは回転子に永久磁石を用いないで、強磁性体の芯で出来ていて、固定子に巻かれているコイルとで磁界の吸引力のみで回転する。
永久磁石を用いず磁石の飛散がないので安価で高回転に向く半面、回転軸と直角方向に吸引力が働き、振動や騒音や回転変動が多く、開発以来130年もの間普及しなかったが、パワーエレクトロニクスの進化による課題解決、永久磁石モータ(PM)と融合した永久磁石リラクタンスモータの開発、永久磁石の高騰、電気自動車用モータ等の需要が急増し、本格的な普及がはじまった。
図7は各種のリラクタンスモータの相関図である。
■スイッチドリラクタンスモータ(SRM)
永久磁石を用いない可変リラクタンス型ステッピングモータ(VR)に位置センサを付け、励磁位置を切り替えてブラシレスDCモータと同様な駆動を行い、平均トルクを最大にしたモータ。単純構造で安全なモータであり、産業モータの中で最も製造費用が安い。洗濯機やエレベータ、原子炉などに用いられている。位置により励磁を制御するので、印加波形は純粋な正弦波にはならない。
■シンクロナスリラクタンスモータ(SynRM)
誘導モータより効率の良いモータとして開発されてきたモータで、永久磁石レスで、SRMに較べて振動が少なく、回転が滑らか、商用3相電源、誘導電流が流れず高効率で、工作機械、コンプレッサなどに用いられている。
■永久磁石リラクタンスモータ(PRM)
ブラシレスDCモータ(PM)にはロータの表面磁石形と内部埋め込み磁石形の2種類がある。表面貼り付け形は高速になると遠心力で永久磁石飛散の可能性があり、これを防止するために表面にかぶせるステンレス管の鉄損がある。IPM
(Interior
Permanent
Synchronous
Motor)は図8のように棒状の永久磁石を埋め込んでいる。
同期モータ(SPM)は、ロータ磁石とステータコイルの磁力トルク(吸引力と反発力)のみで回転するのに対して、IPMは埋め込み磁石が矩形なのでロータの位置によってリラクタンス(磁気抵抗)が変動してリラクタンストルクも発生し、磁気トルクより大目のトルクを発生でき、小形軽量、高効率、大出力、高回転のモータになる。しかし複雑でレアメタル磁石が必要で高価である。
IPM形ブラシレスDCモータ(PM)は、永久磁石リラクタンスモータでもある。初期のハイブリッド自動車用モータや遠心分離式掃除機などに使用されブレークしてきた。
■ハイブリッド可変磁力モータ(HVMF)
永久磁石を用いたモータは回転数が上がると、誘導電圧(発電電圧)が上がり、供給電源電圧の上限に達し、回転数を上げられなくなる。このため高速域では永久磁石の磁束と逆向きに磁束を発生させる電流を流す「弱め磁束制御」が必要である。結果として高速時のトルク低下と効率低下を招く。PMモータの最大の欠点である。永久磁石リラクタンスモータはこの欠点を克服したモータであり、もっと(20%以上)効率を上げたいという市場(HEV、EV、家電他)の要望にも応えたのが、永久磁石の磁束を制御できないか、であった。
誰もが永久磁石は鉱物で磁束など制御出来ないと思い込んでいた。しかしHDD(ハードディスクドライブ)ではディスクの微細永久磁石群の磁極、SとNを0と1、または1と0として自由に制御し、組み合わせたデータを記憶している。永久磁石の磁束の制御は可能で、磁石はほとんど(長期間)劣化しない。このロータ側の永久磁石を固定子側に設けた可変磁場コイルで効率に関係しない短時間に保持力を超える磁場を作成するHVMFモータがハイブリッド自動車(HEV)、電気自動車(EV)の主流になっている。しかし、HVMFはまだ開発の第一歩で課題は多い。
9.計装/プロセス業界とモータ/モーション
モータといえばFA業界・市場というイメージがあり、日本のPA・計装業界ではモータ(制御)を切り口にした提案・設計がほとんどみられない。しかし、金属、鉱業、セメント、石油、ガス、水、排水、製紙などのモーション機能・監視が必須で膨大な機械投資、高効率化や運用の効率化が必要なPAシステムはモータ系と緊密な統合システムである。
世界の著名なPA企業はすでにモータ/モーション切り口のPA・統合ビジネスが重要戦略になっている。世界的な電力技術とオートメーション技術会社ABBは2010年11月に北米の産業用モータ業界のリーダ、バルトー社(7,000人)を買収した。最大のPA企業の一つ、ロックウェルオートメーションはメインのPA(PlantPAX)に、モータ/モーション関連事業の資産を単一のプラットフォーム統合する大きな投資を2011年に行っている。(写真5)
10.超伝導モータ
超伝導とはある物質(超伝導物質)が絶対温度近傍(〓196℃でビスマス系など)になると電気抵抗がゼロになる現象。この現象は、1911年にオランダの物理学者のカマリン・オンネス氏により発見(1913年にノーベル賞)された。超伝導にはもう一つ重要な物理現象で、臨界温度以下にすると物質の内部に磁束が入れなくなる量子力学現象(マイスナー効果)が起きる。磁気浮上といっている。この2つの現象は、今日でも物理学/工学の重要課題の一つである。
これを用いたコイルで、図9の構成のモータや発電機を作ると、従来の銅線モータより1桁優れた小形軽量で高トルクのモータができる。冷却やコストの問題でまだスタート段階であるが、風力発電機などに用いられている。
11.超音波モータ(U〓〓〓〓S〓〓〓〓M〓〓〓〓:USM)
人間が認識できる音声は20KHzまでと言われている。これ以上を超音波と言っている。超音波(縦波、疎密波)を直動力/回転力に変換したものが超音波モータで、図10のように圧電素子を複数用いて、ずれた縦波を楕円運動で(固定されている)ステータと接触しているロータに直動力や回転力を与える。
■電動モータとの比較
(1)停止時や低速(数100Hz)で高トルクなので減速ギアやブレーキがいらない。高速で大パワーのステッピングモータと言える。
(2)ギア機構がないことや垂直方向の磁気による振動がないので、稼働時に静かである。大量につくれば安価なモータができる。
(3)構成がシンプルで小型軽量、超小型モータができる。すでに血管内に入れて、血栓をとる回転直動超音波モータ(TRモータ…後述)が開発されている。
(4)磁気が発生しないので、電磁波や磁気を嫌う環境のモータができる。
また欠点としては、
(5)摩擦が大きいので耐久性に劣る。現状では5,000Hzぐらい。
(6)高速回転(500Hz~)に弱い。
■超音波技術市場
BCCリサーチ社(US)の調査によると、超音波技術製品市場は13年には約200億ドルになると予想している。このうち医療診断・治療関係が約60億ドルと、3分の1を占めるという。
モータとしては、デジタルカメラのレンズ自動焦点や手振れ防止、医療のMRI関連、携帯電話の振動モータなどに用いられている。
■超音波モータ製品例
・キヤノンプレシジョン:マイクロモータ
低電圧駆動/静音、高応答性、停止時の無通電(省電力)、500Hzで15mN・mの高トルクが特徴。(写真6)
・豊橋技術科学大学:回転直動超音波モータ
立方体の金属(ステータ)に穴が開いていて、その穴にシャフトが通っているモータ。ステータの周囲に貼られている圧電素子(4×2)に与える電圧の位相と時間差で、回転と直動が得られる。(写真7のモータは14mm×3.5mm)
また東京農工大学大学院でもこの回転直動超音波モータを小型化して、脳内血管の血栓をとるフレキシブルモータの開発をしている。
(写真8)