混沌時代の販売情報力 黒川想介 現場知ることが商談につながる

物づくり大国である日本はどこへ行ってしまったのか、などと囁かれだしてずいぶん経つ。物づくりの主流は新興国に移ったという印象があって、活気ある製造現場はいまや新興国だという風潮がある。もし販売員がそんな風潮に飲み込まれているなら、営業活動をしていても意気は上がらない。海外向けの件名をもつ顧客には力が入るが、そうでなければリニューアル的な件名を追うか、競合との勝負に力をつくす営業が主流になる。

そのような考えに立つ根底にあるのは、日本には工業化時代に培われた技術でつくられたものがあふれていて、物づくりの製造ラインの増設はあまり期待できないことが分かっているからだ。つまり工業化時代に築いてきた路線の拡大はないことが分かっているのだ。それなら従来路線にノスタルジアを感じる余裕などないはずだ。営業も従来路線のやり方から離れて違ったやり方を主流にする時期にきている。とは言っても月々の売り上げ数字が現実に迫ってくれば、これまで行ってきた従来路線の営業がしたくなる。販売員は、これまで追いかけてきた需要は猟犬のごとく嗅ぎわけることはできる。ベテランになればなるほど同じ臭いしか嗅ぐことができなくなる。だから従来からの需要を追って売り上げを上げようとする。しかし前述の通り従来需要の大半は海外へ移っていったし、それを知っているなら、新しい需要を追いかけて商談に結びつけるやり方に変えなければならない。

新しい需要は今まで経験してないのであるから、これを追いかけて商談までにたどりつくには、当然のことながらどこにそういう需要があるのかを探さなければならない。そのためには製造業の機械化・自動化の創業期のように、あせらず顧客の全体像を把握するところから始めればよい。自分の顧客なのだから、俗な言葉で言えば「飯の種」なのである。もっと大事に見つめ直してみるのだ。自分の利益になる商品にだけ関心を持って、何が売れるのかという目で見るのではなく顧客そのものに関心を持つことだ。関心があれば知りたいことも多く出てこよう。取引している事業には何人くらい働いているのか、その事業所を運営している技術者は何人くらいいるのか、を聞く癖をつけることだ。

昨今はホームページなどで調べて、知ったつもりになっているが、いまや日本の製造業も変わろうとしているから現場の動きも激しい。技術者は部門によっては増えたり、減ったりしている。新人は増えているのか、プロジェクトチームは発足してないか、電気系の人や機構メカ系の増減などを常に気にかけていなければならない。

前述しているように成熟社会に達している日本では、従来路線を深く追求しても量的拡大をしないことは分かっている。したがって顧客は何か新しい製品などの試みをしているはずだ。しかし成長時代のように華やかに登場してはこない。地味に見える製品が多いだろうし、製造の仕方も同様に大型設備、全自動機で生産するものばかりではない。小つぶながら販売員にとっては微妙な設備が増えていくだろう。だから、製品の開発設計者の増減や、開発設計にはどんな技術を持った人が増えているのかなどに気を配っておく必要がある。

それに製造現場においても、これまで大いに関係のあった生産技術の人が増えているのか、減っているのか、製造現場には他に部門が誕生していないかなどの変化を逐一とらえることが新しい需要の商談にたどりつく一歩なのである。
(次回は1月8日掲載)

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