新年明けましておめでとうございます。2014(平成26)年の年頭に当たり一言ご挨拶を申し上げます。「東日本大震災」、それに伴う東電の「福島第一原発事故」の発生から早くも3年の歳月が過ぎようとしています。昨年の11月に30~40年の長期戦を覚悟しなければならない廃炉に向けた未知との闘いが漸く始まりましたが、国内外の技術と英知を結集し、あらゆる手立てを尽くし、国も全力を挙げて支援し、復旧・復興が加速されることを願って止みません。
さて、昨年の我が国の経済環境を顧みますと、いわゆる「アベノミクス」は円安や株高をもたらし、昨年の11月に内閣府が発表した月例経済報告でも、「国内景気は緩やかに回復しつつある」との基調判断が示されています。実際に、円安による輸出環境の改善という追い風に加え、公共投資による押し上げ効果、消費増税による駆け込み需要などの内需の回復で上場企業の13年4~9月期の経常利益(連結)は前年同期に比べ42%増加し、14年3月期も前期に比べ28%増加すると予想されています。このように、新興国の景気減速などで下方修正した企業もありますが、企業全体では業績回復が鮮明になってきています。しかし、先行きは海外景気の下振れが国内景気を下押しすることも懸念されていますので、民需の回復力には未だ不安が残され、「輸出や生産が拡大して企業収益も改善し、設備投資や雇用が増加して賃金も上昇する」という成長サイクルが確立されつつあるとは言い切れません。
このような懸念を払拭し、民需主導の景気回復を本格化させ、成長の恩恵を企業から家計に波及させるためには、財政出動や金融緩和などの各種政策だけではなく、成長戦略の第2弾、即ち日本の立地競争力を高める法人税の実効税率引き下げに加え、企業の投資を促す設備等投資促進税制の創設、研究開発税制の拡充・延長などの「税制の改革」、雇用条件を柔軟に設定できる労働法制などの「規制の緩和」、そして関税を撤廃することで広域・多国間の自由化を促進するだけではなく、開放することで日本の産業を強化・再生する構造改革にもつながる環太平洋経済連携協定(TPP)の締結などを始めとする「通商政策の転換」が必要であります。同時に、昨年の10月に閣議決定された消費税増税による反動減を緩和するための5兆円規模の対策とともに、消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保するための実効性のある対策も不可欠ですが、これらの諸施策の早期の実現と確実な実行を大いに期待するところです。
ところで、昨年は著名なホテル、レストラン等の虚偽表示で消費者の信頼を裏切り、日本が世界に誇る「おもてなし」を揺るがせる不祥事が相次ぎました。経営者は「意図的に表示を偽って利益を得ようとした事実はない」と釈明していますが、価格競争が激化する中で企業の本来の目的や公正さを忘れ、目標の利益を達成しようとする余り、安価な食材を使いながらも、故意にメニューの表示を偽ったとしか誰の目にも映りません。
企業は常に利益の最大化を追求していかなければなりませんが、利益は企業にとって人体の血液のようなものであり、存続し成長していくためには欠くことのできないものであります。しかし、利益は飽くまでも目標であって目的ではありません。二宮尊徳翁は「経済なき道徳は寝言である」と述べている一方、「道徳なき経済は罪悪である」とも述べていますが、企業は利益だけを追求するのではなく社会の公器としての公正さも求められています。中国の戦国時代の著名な儒学者であった荀子の「義を先にして利を後にする者には栄えあり、利を先にして義を後にする者には辱めあり」という名言がありますが、これは正しい理念で経営に当たれば、利益は自ずとついてくるということを示しています。
フルードパワーは社会の「安全」や「安心」などの一翼を担う重要な産業であります。このフルードパワー産業に携わる企業は、変化が激しく混沌として先行きが不透明な状況にあっても、品質を重視するなどの変えてはならない普遍的な価値を「義」として守りながら、時代や社会の求めに応じて変えるべきものは革新し、新たな付加価値を持続的に創出することで長期的な成長を実現し、公正さにも配慮しながら企業価値を高めることで顧客、従業員、取引先、株主、被災した地域など、より広範なステークホルダーの要請に応え社会に貢献していくという本来の目的を希求していく使命と責任があります。利益にとらわれ過ぎ本来の目的や公正さを失えば、企業は必ずや社会からの信頼を失墜し存亡の危機に直面することになります。
最後になりますが、本年は午年であります。「人間万事塞翁が馬」の諺のように、先行き何が起きるかを予測できたとしても、それが「いつ」起きて「どう」転ぶかを予想することは殆ど不可能であると言っても過言ではありません。日本フルードパワー工業会の会員各社様には、厳しい現実にしっかりと向き合い、環境を冷徹に見つめ、不測の事態に備えながらも内部留保を厚くするだけではなく、投資すべきものは投資し、健全な競争と協調のなかで共に成長・発展し、雇用の増加や賃金の上昇などをもたらす本格的な景気の好循環に寄与することが望まれています。これを実現するためには、各需要業界の皆様方のご支援が必要不可欠でございますので、更なるご協力を切にお願い申し上げ新年のご挨拶とさせていただきます。