世の中の経済は、需要と供給の関係で成り立っている。景気が悪いのは需要が足りないのに供給が余っているために起こる。失われた20年と言われる以前にも供給が需要を上回り不景気がたびたびあった。しかし在庫調達と少しの生産調整で再び需要が供給を上回り、不景気に終止符を打った。今から思えば当時の景気のサイクルは単純なものであった。つまり、人口が継続的に増加して新たな需要者が増加していたことが大きく起因していたのである。
もちろん、それだけではない。裕福になった国民が、必要以上の豊かさに合った需要を追い求めたからである。しかし裕福に合った需要も、突き詰めれば当時の必要性のある製品を少しばかり高級にしたものであった。それでも人口増と裕福に合った需要を追いかけた健全な需要者に助けられ、当時の社会では、ある見方をすれば健全な景気のサイクルをくり返してきたことになる。バブル崩壊後の強烈な円高やインフレ抑制政策などにより、健全な需要は低迷してしまい、輸出企業を中心に海外生産を加速させた。国内で経済活動をしている人々はかつてのような健全な景気サイクルを肌で感じることができなくなり、不透明感という会話が日常的に交わされていた。
1990年代の後半になりIT技術によって新しい需要が生まれる素地ができたので、ようやく景気の健全なサイクルに戻れるかもしれないと思い始めた頃、リーマンショックと東日本大震災が時を置かず起こってしまった。同時に起こった超円高の流れはますます生産の海外展開を加速させ、少子高齢化と相まって国内生産にダメージを与えている。国内生産が上がらなければ、業務用や生産用向けの物づくりをしている顧客が相手である営業は、これまでの需要が減っていくことになるから売り上げは上がらない。
こんな沈帯ムードを一掃したのがアベノミクス経済戦略であった。株価は高くなり企業が息を吹き返した。特にグローバル企業は軒並み好決算を発表している。その要因は海外の工場が稼いだ利益の日本本社への送金が、円安のために大幅に増えたことによるものだ。国内の輸出企業はどうかというと円安効果で輸出しやすく利益も増えているが、これまでのように大幅な伸びがなくなっている。思ったほど輸出が振るわない要因の一つは海外工場が調達する加工部品を日本から輸出するのではなく、現地で造って調達する環境ができ上がっていたことである。それでも昨年の後半から電気部品や制御機器の国内販売は伸び始めている。
どのような形で設備需要が伸びているかというと、主として次の三つになる。(1)輸出が伸び始めたことによってリニューアルや増産のために行う積極的な設備改善。(2)海外に工場を持って好決算で湧いている企業が、海外工場のさらなる利益確保のため自動化を積極的にやろうとしている。その際の自動化設備が国内の需要として発生。(3)近年、国内工場の生産技術者は近隣の治具装置メーカーと組んで生産性アップのためのローコストな生産設備を造っている。そのようなローコスト生産設備を、海外の工場向けにも国内工場の生産技術者が中心となり造っている。それらの物件需要。
これら三つが円安効果によって伸びている需要である。これら三つの需要は、いずれも外需にからむ需要である。しかし、これからも健全な景気のサイクルを望むなら国内需要の創造は欠かせないことになる。これからの国内の需要の根底にあるのは少子高齢化と成熟国家ということであるから、製品もつくり方も外需とは違ったものになるはずだ。
(次回は3月26日付掲載)