電子機器から発する熱対策への取り組みが活発化している。発熱を抑えることは電子機器の寿命と信頼性、さらにはエネルギーの効率活用にもつながるからだ。発熱を抑えたり、冷やしたりと色々な方法が取られており、関連市場も増加傾向を見せている。
工場で稼働する各種機械や装置には、PLCやPCをはじめ、モーターやインバータ、スイッチ、センサーなどたくさんの電子機器が使われている。また、データセンターではコンピュータやサーバーなどが24時間稼働している。これらで使用される電子機器からは多少を問わず熱が発生している。
特に最近は、電子機器・装置に内蔵されたコンピュータや半導体などから発生する熱が増えており、熱対策が求められている。コンピュータの頭脳であるCPUなどの半導体は、年々高速化・高容量化しており、これに比例してそこからの発熱量も増えている。同時に、電子機器そのものは年々小型化傾向を強めていることで、機器内部の実装密度が高くなる傾向にあり、熱を取り巻く環境は悪化しているといえる。
電子機器・装置に使用されている半導体やコンデンサーなどの電子部品は熱に対して非常に弱く、部品寿命が短くなったり、信頼性が発揮できなくなる恐れがある。
■温度上昇で故障率高まる
アレニウスの法則では、温度25℃では故障率は0(ゼロ)以下であるが、温度40℃では故障率が1、それが60℃になると10倍~30倍に増大、80℃では一挙に100倍~300倍まで高まると言われており、温度上昇による電子部品の故障率は飛躍的に増加することが判明している。一般に、電子部品の「10℃半減則」として、温度が10℃高くなると寿命が半減、逆に10℃下がると寿命が2倍に伸びるとしている。したがって電子機器・装置の寿命を延ばすには、適切な温度管理を行うことが大きなポイントになってくる。特に、FA機器や産業機器は、温度管理が十分に行われるところで使用されることが少ない。むしろ温度の上昇・下降が激しかったり、水やほこりの飛び交う過酷な使用環境が多い。しかも、24時間連続稼働といった停止が許されない用途も多く、どんな環境でも安定して動くことが求められる。
熱対策は、電子機器本体の冷却と、その電子機器が収納された制御盤やラックなどの冷却の2つの面から必要になる。
PLC(プログラマブルコントローラ)やFAコントローラ、インバータ、UPS(無停電電源装置)などの電子機器は、本体に冷却ファンを内蔵して、本体内の電子部品やデータを冷却し保護している。厳しい周囲環境での使用を前提にしていることから、使用周囲温度も40℃前後、製品によっては50℃前後の使用にも耐えられるような設計になっている。しかも、長期間使用されることが多いことから、熱に強い電子部品の採用と、最適な冷却とメンテナンスしやすい構造を採用して、信頼性を高める設計にしている。
しかし、これらの電子機器を単体でむき出しの状態で使用することは稀で、ほとんどが装置や制御盤などに組み込まれての使用になる。密閉された装置や制御盤、ラック内の温度は、室内に比べると大きな差があり、これに機器から発生する熱も加わり温度がさらに上昇、内部温度が50℃を超えることも起こり得る。
■DCでは収納ラック内も冷却
データセンターでは、サーバーやスイッチングハブなどの通信機器からの排熱が多いことから、収納ラック・キャビネット内は非常に高温になる。データセンターでは室内を冷却しながら、さらに収納ラック・キャビネット内も冷却している。高速なコンピュータシステムが稼働している大規模な研究所などでは、室内やラック内の温度を〓〓0・2℃の範囲で制御していると言われ、それだけ熱が研究結果の信頼性に影響を与えている。
データセンターは部屋全体の冷却と収納機器の冷却が必要なことから、外気や地下の活用、涼しい地域への設置などエコに配慮した対応が進んでいる。中でも床下空調活用が進んでいるが、床下のスペースがある程度限られることや、ラックの前から吸って後ろから排気するという基本的な方法は変わっていない。従って、データセンターの熱対策は、ラック、空調、電源、サーバーなど総合的に設計する必要がある。
データセンターの部屋を小さくし、空調費と設置スペースを削減するために、サーバーや電源の小型化と、必要に応じて組み合わせ使用できるモジュール式も提案されている。冷却方法も空冷式、水冷式などを発熱量に応じて使い分け、局所的な冷却、稼働率に応じた冷却などで効果的な熱対策を行っている。
一般的に、データセンターなどでのラックに内蔵するサーバーなどの消費電力が2kW以下は自然空冷でも大きな問題はないが、2~3kWではファンなどを使った強制空冷が、また10kW以下ではクーラーなどが必要となってくる。
最近は10kWを超えるサーバーを使うことも多くなっており、水冷式の冷却が増えている。水冷式は配管が伴うものの、冷却効率が高く、消費電力も抑えられる。冷却装置を長期間使用すると交換が必要になるが、モジュール式構造にすることで交換作業を容易にする設計になりつつある。
同時に冷却対策の一環として、ラック表面の開口率を高め、換気性を良くする動きも目立つ。従来40~50%ぐらいの開口率のラックが多かったが、開口率が80%を超えるラックも増えている。開口する穴の形状も、丸から六角形にすることで、丸穴よりたくさんの穴を空けることができ、開口率が高まるという工夫も見られる。開口率を高めると一方では、ラックの強度とも関係してくるため、これを両立させるのも技術的な見どころだ。
データセンターほど厳密な室内の温度管理がされていない工場には、作業に伴う粉塵やオイルミストの飛散、製造物から発生する輻射熱などがある。
機械・装置の制御盤の熱対策には一般的に、換気扇、熱交換器、クーラーなどが使われている。
制御盤の設置される周辺環境にもよるが、熱交換器や換気扇は、使用機器周辺の温度の影響を受けることや、ファン、フィルタの目詰まりなどで性能低下や内部への塵などの侵入が懸念される。
■密閉性に優れるクーラー採用
最近の電子機器は発熱量の増大が著しく、部品の寿命を確保するためにも冷却性能が高く、密閉性に優れるクーラーの採用が増えている。工作機械などの制御盤はほとんどクーラーになっている。
一般的に電子機器を収納した制御盤やラックなどの熱対策は、発生する熱と使用機器の周囲環境によっていろいろな方法が使い分けされている。
最も一般的なのは、自然放熱・換気である。筐体の表面から放熱させる自然放熱は、筐体内部に塵や湿気が入らないことで密閉性を確保でき、騒音もない。排熱の少ない用途で使用される。
筐体上部に換気口(ルーバー)を付け、温められた空気をそこから排出する自然換気は簡単で騒音もない。
こうした自然な排熱方法に対して、強制的に熱を外に排出する方法が最近は増えている。換気扇を使った強制換気は、筐体の換気口から強制的に放出する方法で、自然換気に比べ、放熱量ははるかに多い。換気扇の羽の形状も斜めにすることで、空気の流れをより広く均一に拡散するようにして、ホットスポットの発生を防止する工夫も行われている。
換気扇の代わりに熱交換器を使う強制放熱は、筐体内の温かい空気と筐体の外の冷たい空気をファンで強制的に熱交換器に取り込み、熱の吸収と放熱を同時に行う。密閉性が高く、放熱量も多いことから、主流となっている。熱交換器の冷媒も温室効果ガスを発生することを防ぐために環境負荷の少ないものが志向されているが、最近は自然冷媒CO2使った完全ノンフロン製品も開発されている。
これと原理的には多少似ているのが強制冷却で、筐体内の温かい空気をクーラー内部の循環ファンで冷却部(冷却ファン・蒸発器)に送風して冷やし、低温空気として筐体内に戻すもの。筐体内の温度を外気温度より低くでき、内部に塵や湿気なども入らず密閉性が確保できる。放熱量も多い。
■水冷熱交換方式が増加
これに対し最近は、大型プレスマシンや工作機械の制御盤、大型データセンターのサーバールームなど、熱の発生量が多いところで採用が増えつつあるのが、水冷熱交換方式である。筐体内の温かい空気をファンで水が循環している冷却部に送風し、そこで冷やして低温空気として筐体内に戻すもの。冷却水の配管が必要になるが、冷却能力が非常に高く、高温の排熱環境でも使える。
クーラーを稼働させるための消費電力を低減するための改良が進み、ファン、コンプレッサー、熱交換器などの最適な配置と、エアフロー吹き出しの工夫などで効率的な冷却を行い、冷やしすぎないようなエコモードによるインテリジェントな運転機能でエネルギーコスト削減を実現している。さらに、メンテナンスコストを減らすために、凝縮器に汚れや水が付着するのを防止する技術も採用されている。
熱対策は、機器の機能を最大限引き出し、無駄なエネルギーの消費を防ぐ効果も生み出して、電子機器の長寿命化などで、トータルコストを下げることにもなる。最適な熱対策が高い生産性と確かな品質、信頼性の高い情報化社会を築くことにつながっているといえるだろう。