かつては漢字の社名の会社が多かった。最近では圧倒的にカタカナを社名にする会社が多くなっている。漢字で社名を表していた時代には社名を見て、何をつくっているか、だいたいの予想がついた。しかし、最近のカタカナの社名からは何をしている会社か、何をつくっている会社か想像がつかないことが多い。バブル経済がはじける前後から、社名を漢字からカタカナに変える会社が多くなった。当時の若者気質が漢字よりカタカナを好み出したせいもあって、リクルートの関係からカタカナに変えた会社が多かったようだ。
今ではこの傾向がすっかり定着し、電気・電子の業界も立石電機はオムロンに、和泉電気はアイデックに、松下電器はパナソニックに、早川電機はシャープに、山武ハネウェルはアズビルに変わっている。
ただ日立、東芝、三菱、富士といった重電機をつくっているメーカーは当初から変わらず漢字のままである。重電機という性質上、鉄鋼、非鉄金属のように日本の産業のインフラをつくり続けていることが背景にあるのかもしれない。カタカナの社名の会社は何をつくっているかわからないと言ったが、現在の日本の会社はカタカナの社名であれ昔からの漢字の社名であれ、実際に中に入ってみなければどんなことをやっているのか、何をつくっているのか、明確にとらえることはできない。
すでに成熟社会に入っている日本では成長時代につくってきたモノの生産が横ばいや下降するのは誰もが想定していることだ。だから継続して成長を維持しようとする企業は従来からやってきたことやつくってきたモノとは別の何かをやっているか、新しい何かをつくることになる。20世紀までにつくり上げてきた成熟社会から21世紀には次の社会に向かって様々な産業ができるのだろうが、現在は色々な産業が立ち上がる揺籃期なのである。したがって営業のやり方も根本的に変えなければならない。
どのように変えるのか、わかりやすくひとことで言えば成熟期においては職人的気質でよかったが、揺籃期においては商売人気質に戻さなければならないということになる。職人的気質とは取り扱い商材のアプリ、商材の詳しい知識など時間や経験とともに神業的になっていくことである。成熟時代の成熟分野の営業ではまさに職人的気質が販売員に求められた。取り扱い商材をもっていかにお客様に役立てられるかが販売員の優劣を評価する基準であったのだし、見込み客にアプローチする時に「何かお困りごとがありませんか」という言葉を発するか発しないかは別として、そのような気持ちでアプローチしてきた。お客様からどのような難題を言われても、取り扱う商材の範囲内なら何とかやれる腕があると自負するのはまさに職人的気質と言える。成熟期にある成熟分野の営業では、販売員は職人的気質営業を目指してきた。それが合理的だったからだ。
揺籃期では営業の原点にある商売人気質の営業を積極的に取り入れなければならない。商売人気質とは相手の実態を詳しく探って、それに合った売り方を考えることである。相手から難題を与えられて動くのではないところが職人と違うところである。揺籃期の揺籃分野では先手必勝である。揺籃期にある製品や製造手段やシステムはいずれ育って目に見えるようになる。その時に参戦しても遅い。なぜなら、その時はすでに勝負は決しているからだ。商社や営業の規模ではなく商人気質の販売員がいるかいないか、それが次の代の発展につながってくる。
(次回は4月30日付掲載)