「ビックデータビジネス」本格普及へ」 電機大手も体制整備、ニュービジネス創出に期待

「ビッグデータビジネス」が本格的に普及しそうだ。政府はビッグデータ活用促進のため、個人情報を第三者に提供できるように法律で定める一方、プライバシー保護への措置も検討するなどのインフラ整備に着手した。すでに大手企業を中心にビッグデータの活用が進んでおり、今後は民生・一般分野へのサービス普及も予想され、ニュービジネス創出につながると期待されている。市場リサーチ機関によると、ビッグデータビジネスの市場規模は2016年に国内で約800億円、世界全体では約2兆2600億円に拡大すると試算している。すでに大手電機・情報通信メーカーでは、ビッグデータビジネスの普及に向け、体制固めを本格化している。
 
ビッグデータは、従来のデータベース管理システムなどでは、記録や保管、解析が難しい巨大なデータ群のことである。明確な言葉の定義はないが、企業向け情報システムメーカーのマーケティング用語として多用されている。

多くの場合、ビッグデータは単に量が多いだけでなく、様々な種類・形式が含まれる非構造化データ/非定型的データであり、日々膨大に生成・記録される時系列性・リアルタイム性のあるようなデータを指すことが多い。

従来のシステムでは管理しきれないことにより、見過ごされてきたようなデータ群についても、記録・保管して即座に解析することで、ビジネスとして成
立したり、社会に有用な知見となるなど、これまでにないような新たな仕組みやシステムを産み出す可能性が高い。

総務省では、ビッグデータを「事業に役立つ知見を導出するためのデータ」としている。さらに、ビッグデータビジネスについては「ビッグデータを用いて社会・経済の問題解決や、業務の付加価値向上を行う、あるいは支援する事業」と定義している。ビッグデータが、どの程度のデータ規模かという量的側面だけでなく、「どのようなデータから構成されるか」、あるいは「そのデータがどのように利用されるか」という質的側面において、従来のシステムとは違いがあるとしている。

ビッグデータの量的側面については、典型的なデータベースソフトウェアが把握、蓄積、運用し、分析できる能力を超えたサイズのデータを指している。ビッグデータとして成り立つために、どの程度の大きさが必要であるかについては流動的な定義になっているが、多くの場合、「数10テラバイトから数ペタバイト(1ぺタバイトは1000テラバイト)の範囲に及ぶ」という見方を示している。

一方、質的側面については、ビッグデータを構成するデータの出所が多様である点を特徴として挙げている。すでに、活用が進んでいる例では、ウェブサービス分野でのオンラインショッピングサイトやブログサイトなど、蓄積される購入履歴やエントリー履歴のほか、Web上の配信サイトで提供される音楽や動画などのマルチメディアデータ、さらにソーシャルメディアにおいて参加者が書き込むプロフィルやコメントなどのソーシャルメディアデータなどが挙げられる。

様々な分野のデータ活用
これらに加え、今後、活用が期待される分野として、GPS(全地球測位システム)、ICカードやRFIDで検知される位置・乗車履歴、温度などのセンサデータ、CRM(Customer Relationship Management、顧客関係管理)システムで管理されるダイレクトメールのデータや会員カードデータ、カスタマーデータといった様々な分野のデータ活用が想定される。さらに個々のデータのみならず、各データを連携させることで、さらなる付加価値の創出も期待されている。

また、質的側面の第2点として、ビッグデータは、データの利用者(ユーザー企業など)と、それを支援する者(ベンダーなど)との間で、それぞれの観点が異なっているという点である。

データを利用する者の観点からは、ビッグデータに求める特徴として、(1)「高解像」=事象を構成する個々の要素に分解し把握・対応することを可能とするデータ(2)「高頻度」=リアルタイムデータなど、取得・生成頻度の時間的な解像度が高いデータ(3)「多様性」=各種センサからのデータなど非構造なものも含む多種多様なデータ、という3点を挙げることができ、これらの特徴を満たすため、結果的に大量のデータが必要となってくる。

これに対し、データ利用者を支援するサービス提供者の観点からは、大量のデータ量に加え、同サービスが対応可能なデータの特徴として、複数のデータソースにも対応可能な「多源性」、ストリーミング処理が低い遅延時間で対応可能な「高速度」、さらに構造化データとともに非構造化データにも対応可能な「多種別」が求められている。
多量性・多種性・リアルタイム性

このように、ビッグデータの特徴として、データの利用者とそれを支援する者の観点は異なっているが、共通する特徴として多量性、多種性、リアルタイム性などが挙げられる。ICT(情報通信技術)の進展に伴い、このような特徴を伴った形でデータが生成・収集・蓄積されることが可能・容易になってきている。

一方、ビッグデータを活用するビジネスの概念は、ニュース、個人情報を含め、日々生成されるあらゆるデータや、多様で膨大な情報を収集・分析することで、幅広く活用していくことにある。
 
すでに、大手企業を中心に社内業務の効率化やマーケティング、新商品、サービスの開発などのほか、交通、気象など各種情報サービスとしてもビッグデータは活用されてきたが、より的確な分析と幅広い分野への活用を図るには、個人情報の収集、分析が不可欠だった。
世界では2兆2600億円

このため、政府では個人情報を匿名化し、本人の同意なしに第三者に提供できるように法律を定めた。またこの一方で、個人を特定できないよう技術的な措置を事業者に義務付ける方針も固めた。今後も、運用を監視する第三者機関を設け、消費者のプライバシー保護への精度を整えるという。ビッグデータの市場規模は、ある調査期間によると、国内では2016年に約800億円、世界全体で約2兆2600億円に拡大すると予測しており、ビッグデータは本格的な普及期を迎えたといえるだろう。

こうした状況下、コンピューターシステム構築や、データ通信・分析で非常に高い技術を持つ国内の大手電機メーカーでは、ビッグデータ関連ビジネスの本格的な普及に備え、体制を整えている。

例えば、NECでは、多様化する情報のアクセス方法を統一する収集基盤を整備するとともに、情報の収集・可視化を実現している。さらに、データの中から規則を自動的に発見する「異種混合学習」や、通常と違う挙動を発見する「インバリアント分析」など、多様で大量のデータから予知・予測を実現する技術力を駆使し、ビッグデータ活用の独自のソリューションを展開している。

富士通では、「FUJITSU Big Data Initiative」として製品・サービス群を体系化するとともに、ビッグデータ活用を支援する「ビッグデータイニシアティブセンター」を開設。顧客や協業パートナー、ベンチャー企業向けにそれぞれの「データ活用価値創造支援プログラム」を整備し、ワンストップでサービスを提供。

日立製作所は、ビッグデータからイノベーションを創出する独自のアプローチ「イノベイティブ・アナリティクス」を推進している。ビッグデータ活用に関する専門家集団が中心となり、ビッグデータの中の価値あるビジネス構造を抽出。データ活用ビジョンからシナリオ策定、実用化検証、システム導入までをトータルで提供している。

東芝は、グループ企業の東芝ソリューションが、大量・多種多様・高頻度なビッグデータを、適切にハンドリングするミドルウェアを「統合ビッグデータ・プラットフォーム」として提供。例えば、渋滞予測や機械故障の予測、さらに自分好みのお店からの割引クーポンの案内といった活用を図っている。

一方、リサーチの野村総合研究所では、ビッグデータを活用し顧客企業の業務改革を支援してきたが、ここにきて新しいビジネスの創出手法を提唱し始めており、データ活用検討の支援から分析結果の考察までトータルにサポートしていく構えを取っている。

電子商取引とネットワークシステム運用・保守のソフトバンク・テクノロジーは、企業のビッグデータ活用を推進するSaaS型のビッグデータ・プラットフォームサービス「4D Pocket」を開始した。
ユニークなビジネス登場

最近では、ビッグデータへの認識が広がり、活用へ基盤が整ってきたことで、ユニークなビジネスも登場している。

SNS、ネット掲示板投稿監視のイー・ガーディアンは、人によるデータ目視、分類を高速で実現する「E―Trident」システムによる教師データ作成支援業務を展開している。教師データとは、機械学習の仕組みを構築する際の初期学習データ。同社のデータ収集や分類・分析技術を駆使した、ビッグデータ活用のオペレーション事業で、低コストで高品質な教師データ作成支援サービスを実現している。

マーケティング戦略とウェブサイト構築運用のネットイヤーは、企業が持つ顧客データと商品データ、さらにソーシャルメディア上で流れる口コミ情報などを収集、分析し、マーケティングオートメーションツールとして活用を行っている。
 
今後もビッグデータは、利用者個々のニーズに即したサービスの提供や業務運営の効率化、さらに新産業の創出も含め、大きなビジネスに成長するテーマとして注目を集めていくだろう。

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