3Dプリンターは、医療用などでの利用に期待が高まっている。経済産業省も2014年度予算で「三次元造形技術を核としたものづくり革命プログラム」として計上するなど、新たな需要拡大につながるものとして注目されている。
■大きな波及効果
3Dプリンターの市場(製造装置本体、材料、消耗品、保守サービスなど)は、20年には世界で約1兆円を超えると言われている。3Dプリンターで製造した製品市場、生産性の向上などによる寄与額なども合わせると、その波及効果は20兆円を超えると予想されている。3Dプリンターの用途は、産業用だけでなく医療用など幅広い領域に広がりつつあり、アスペクトの早野誠治社長は「従来できなかったことができる新しい文化を創造するツールである」と語る。
産業用途では「型を製造せずに造形ができる」というメリットを生かした活用が進んでいる。たとえば「3次元的空間配置の金型製作」により、従来の金型では実現できなかった隙間を製作し、製品性能向上を実現。
■金型と使い分け
また、固定概念を覆す新しいものづくりの方法として「金型を破棄すると製品が作れない」という意識を捨て、「金型保管コストを低減する」という考えもある。具体的には、製品立ち上げ時は金型で量産し、製造数が極端に低下した段階で金型を廃棄。その後、受注が発生したら3Dプリンターを用いて必要数量を製造するという流れだ。3Dプリンターの普及でこうした選択肢も生産現場で増えてきそう。
産業用途以外では、医療向けが脚光を浴びている。普及が進んでいる用途としては、耳の穴に入れて使用する補聴器が挙げられる。リオンは一人一人の耳型を3Dデータ化し、3Dプリンターによる直接造形で補聴器を製造している。世界の補聴器市場は年間1000万台で、うちオーダーメードタイプは20%という調査もあり、今後も普及が進みそうだ。また、3Dプリンターはメッシュ構造を作ることができるため、骨組織との親和性を生かした人工骨の製作などが今後伸びていくと想定されている。
また、歯科矯正用マウスピース用途も増えそうだ。特にEU諸国では04年以降に歯科医療での公的負担が縮小されたため、義歯、クラウン(冠)について海外への外注化が進んでいる。すでに中国などでデジタル技術を駆使した巨大歯科技工所も誕生している。
また、米アライン・テクノロジー社では、3次元データをもとに、形状を少しだけ変えたものを効率的に造形できるという利点を活用し、少しずつ形状を変えて造形した透明なマウスピースを用い、患者が目立たず快適に歯列矯正ができるシステム「インビザライン」を開発し、普及が進んでいる。
■不正使用対策を
しかし、その一方で不正使用の危険性が社会的な問題になろうとしている。不正使用に対する対策として、大日本印刷は「規制が必要なデータをブラックリスト化し、3Dプリンター本体との照合で動作が停止する仕組み」や、米・オーセンタイズ社の「一度印刷したらデータが破損する仕組み」などがある。しかしいずれもコスト負担の問題、著作権を持つ企業・製作者との協力、データや3Dプリンターの違法改造によるすり抜けなどの課題があり、実際は利用者のモラルに依存する状況が続いている。
■標準化へ取組み
3Dプリンターの製造で日本は、累積出荷台数が全体の約3%と大きく出遅れている。しかし、国籍別の国際特許出願件数は、欧州が約40%、米国が29%、日本22%と3位につけている。
ISO(国際標準化機構)では、ドイツを幹事国に、日本、米国を含む16カ国が参加して技術委員会を設置。
用語の定義、製造過程、試験手順などの標準化について議論が進められている。
■健全な発展飛躍
経済産業省も14年度予算で「三次元造形技術を核としたものづくり革命プログラム」として約40億円を計上しており、技術開発について支援を決定している。
日本のものづくりを健全に発展させるために、政府の後押しを活用し、3Dプリンター業界のさらなる飛躍が期待される。