人間の欲は際限なきもの、というフレーズがある。このフレーズは宗教的意味が含まれている。仏教では無欲を善とし、修行によって無欲に近づくことを推奨しているところから『欲は際限なきもの』という悪者になったのだろう。日常用語としての欲とは、人が何かを欲しがったり、何らかの行動がしたいということである。したがって人の欲は、人を行動に駆り立てるものである。
人は若い時には欲しい物や、したいことがたくさんあるが、年齢を経るにしたがって欲しいものやしたいことが減ってくる。年齢とともに欲しいものは手にしているから、欲しいものが減ってくるし、肉体的に弱ってくるから、したいことも減ってくる。
国の場合はどうだろうか。新興国は若者に相当するので、欲しいものがたくさんある。需要は旺盛だ。成熟国日本は、これまで色々な物を手に入れてきたから欲は少なくなっている。しかし、国を構成するのは個人と別に法人、つまり会社がある。個人は年を経るにしたがって物が増え、肉体は衰えるから欲求は減るが、法人は欲求の点では永遠に衰えない。永遠に成長したいという欲は、法人なるがゆえに持つことができる。成熟国の個人は大方の欲しい品々を持っているので新興国の個人の欲のように旺盛な欲はないが、法人は成熟国でも倒産したくないという飢餓のような欲求を持つのである。したがって、成熟国でも法人は成長したいという欲求の具現化のため設備投資を必要とする。その設備投資の旺盛さが国の若さを取り戻すことになる。
成熟国でも、個人の消費が国の成長を支える大きな柱であることに変わりはないが、法人の欲求を具現化する設備投資意欲が現実的には、これまで以上に大きな役割を担うことになるのだ。
設備投資の中でも部品や機器の営業にとっては生産力増強、品質向上のための工程の自動化が大きく寄与してきた。その自動化も国内では一服感がある。それでも法人は、他の法人に勝って存続するために、何らかの設備投資は必要なのだ。非製造業においても製造業においても、そこに新たな需要が発生する。
昨今はサービス産業である非製造業の設備投資の方が製造業より総額は多い。昨年あたりから一気に増えているコンビニ向けのコーヒーサーバーや、レストランなどで使われるフードプロセッサーや洗米機、あるいは介護や老人ホームに入る新たな機器類などのように、今後ますますサービス産業では快適・便利さを求めて多くの機器開発向け投資が活発になる。製造業の設備投資では、生産力強化のための自動化投資は以前に比べると一服感はある。しかし物づくりにとって生産効率や品質確保は永遠のテーマであるから、そこに投資が生まれる。
特に電力効率は大きなテーマであり、各種の機器が誕生するであろう。例えば金属加工工場で金属部品を洗浄するが、その際に超音波洗浄装置を使う。この装置は電力を消費するが多くの工場で使っている。そこで洗浄時間を短縮するために洗浄する水や溶剤から気泡を抜くようなオプション機器は、新たな需要になる。
その他にも効率を求めてパソコンが工場内にどんどん入ってくるだろうし、パソコンを使った機器が増える。パソコンは情報機器であるから、パソコンと通信する有線・無線のネットワーク機器が生まれる。そうなれば生産工場内に管理する市場が広がっていくことになる。成熟社会なるがゆえに環境や安全に配慮する投資が需要を呼ぶ。成熟社会で、しかも少子高齢化社会の個人消費は見えにくいが、法人の消費、つまり需要は待ったなしにやってくる。
(つづく)
(次回は8月6日付掲載)