サンセイテクノス ミュージアム開館1周年で来場者早くも2500人超す 本物通じ人格形成に貢献

サンセイテクノス(大阪市淀川区西三国1―1―1、TEL06―6398―3111、浦野英幸社長)が昨年7月に開館したサンセイミュージアム(堺市美原区平尾3300―1、TEL072―363―8831)がこの7月で1周年を迎えた。完全予約制ながら来場者は早くも2500人を超えた。労働と憩、思考、芸術の3部作からなる、「生」の喜びを体験するコミュニティエリアの集大成として完成したミュージアム。通常の記念館では、来場者は客観的な感覚を働かせ鑑賞するが、サンセイミュージアムは来場者に”体感による観照”のひとときをもたらしたいとする開設者の意志が投影されている。一連の施設は人格形成に大きな影響を与える、「社会経営」の新モデルとしても価値がある。

昨年は、タクシーの運転手に行き先を告げると「工業団地ですね」との返事であったが、今回は「農園、ミュージアムを持つ会社ですね」と答えていた。

創業者の郷里である堺市美原区に開館したミュージアムは「人間社会では取り組むテーマが10年、20年で変わるものではない。ミュージアムは父と私の100年のエネルギーの集大成」(浦野英幸社長)として昨年完成した。

エントランスは、池を連想させる玉砂利、周辺の木々を眺めながら進む。渡りきったところで後ろを振り返ると、景観が一変しており、地面のわずかな窪みがなだらかな渓谷を歩いてきたように変わる。「彫刻」「絵画」「考古」「陶芸」のテーマで構成される別世界の館に足を踏み入れる雰囲気を醸し出す。

童たちの輪舞曲の像「夢~ロンド」がミュージアムへ誘う。

「彫刻」は、子供をテーマにした玉野勢三の作品集である。館内中央に置かれたブロンズ像は、母親となる女性が生命を宿った林檎を両手のひらでそっと支える。そして、作品「すこやか」「緑の風」「しあわせの詩」「おしくらまんじゅう」「あおぞら」など多くの作品をていねいに眺めるうちに、想う、好奇心、無邪気さ、あかるさなど愛らしさが来館者の心に移り咲く。

彫刻から「絵画」へと館内を移動すると、童から大人へ、好奇心から情熱へと場面が変わる。

里見勝蔵作品群が観ている人の熱情を蘇えらせるのだろう。

「睡蓮と緋鯉」「アジサイ」「ノートルダム寺院」など一連の絵画からあふれでる情熱、葛藤や力強さの気が充満している。絵画の展示は、大阪の信濃橋洋画研究所の小出樽重、黒田重太郎、国枝金三、鍋井克之作品へと続く。そして「考古」の世界へ。

浦野社長の父親で創業者の正一氏が蒐集した古代の瓦が並ぶ展示室の入り口に、そっと守り本尊が置かれていた。社長の英幸氏のはからいである。展示室に掲げられた中国、朝鮮、日本の歴史略年表で、瓦の出現が紀元前11世紀頃、日本には588年、百済から渡来したなど初めて知る。中国の唐や漢、韓国、日本の飛鳥・平安時代、鎌倉時代などの瓦を始め、経文焼成の瓦経、壺、鏡、塼などの展示品は芸術品としても評価が高いといわれるが、工作の歴史の重み、素材の渋みが滲み出て、人間の営みの凄さをも感じる。

古代瓦の魅力は、いやおうなく楽陶庵と名付けられた次の「陶芸」への関心を高める。

人間国宝といわれる方々の大小の壺、皿、水差、花瓶などを一点ずつじっと見ていると、ときに引きずり込まれる。飽きることのない光彩を放ち、その場に立ち竦む。

陶芸の余韻が残るなか扉を開き、階段を上っていくと、堺市出身の歌人、与謝野晶子像が出迎える。三十六歌仙屏風、紀伊国屋文左衛門像、弁慶像などを鑑賞する目に、「次世代の子へ」「世界の子へ」の文字と彫刻、写真が入る。子供への愛情が込められている。

サンセイミュージアムの思想は、童、飛び立ち、情熱、懐古、心眼、再び次の世代の子供たちへ作品の連続性を通して、らせん階段を上る重要性を来館者にそっと気付かせてくれる。

そこには、あたかもサンセイテクノスのメインテーマ「顧客感動」10年の計の今年のサブテーマ「温故知新」が詰まっている。古い事柄も新しい物事もよく知っていて初めて、人は心を揺さぶり感動を味わい成長しえる。

■社会企業として経営形態に一石

【編集後記】サンセイミュージアムは、テニスコート、ファーム、庭園、多目的施設に続いて、人間性復活、人格形成の環境の総仕上げとして昨年完成した。企業の役割は社員の物心の幸福と社会貢献といわれる。その実現は、当然のことながら、財政が伴う。

サンセイテクノスは、生を受けた人間が夢を育み希望を持つ悠久のモデル社会を作りながら、2013年純資産84億円、自己資本比率79%、そして今年3月期は同95億円、80・5%に高め、さらに来年3月期には101億円、82・5%(見通し)と財政面でも強化してきている。

このように、単なる利己的な企業経営とは異なり、社会経営のモデルともいえる。それを可能にしたのは、浦野社長が子供の頃から、父親の正一氏が蒐集した本物の瓦と芸術品に囲まれて育ってきた影響が大きい。

浦野社長は、そうした環境を社員、取引先、地域の人たちと共有したいとの想いをこめてファームや庵、ミュージアムを建設した。だから、会社の歴史資料館ではない。

2世代にわたる100年の計の実現は、後世に人格形成の社会企業として、経営形態に一石を投じるのではないだろうか。

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