ここ数年、地球温暖化などの進展もあり、落雷が増える傾向にある。落雷による電子機器への被害も増加しており、社会問題化している。雷は、雷が直撃する直撃雷と、直撃雷の誘導電流による誘導雷があり、誘導雷は建物の通信設備、電子機器に電圧異常などの大きな被害を与える。特に、電子機器は雷の電流に敏感なことから影響を受けやすく、対策が進められている。すでに、屋外に設置される配電盤やキュービクルなどは、雷などから守る機器やシステムが多数開発されているが、最近設置が増えているPV(太陽光発電)設備や風力発電設備なども、落雷による被害が増加しており、各種の雷害対策機器が採用されている。
落雷による被害は年々拡大している。世界規模で地球温暖化が進み、異常気象が多発していることが原因とされている。特に日本列島は、もともと落雷が多い地域であるが、近年は温暖化などの要因が重なり、全国各地で落雷が増加している。落雷に伴う災害も増加しており、人への直接的被害のほか、停電や火災、コンピュータなど低電力で動作する半導体機器への被害が深刻化している。
2006年に気象庁が行った誘導雷による国内の業種別の年間被害金額アンケート調査では、物的被害と補修金額を合計した被害額として、1位が工場の390億円(全被害額中61・9%)、以下、一般住宅126億円(同19・9%)、電力会社32億円(同5・1%)、オフィス31億円(4・9%)、通信事業者14億円(同2・2%)となっている。これに落雷による2次被害を加えた金額では、1000億円に達するとしている。
こうしたことから、屋外に設置されている配電盤やキュービクルなどについて、雨風や雷などの天災から守る制御機器やシステムが多数開発され採用が進んでいる。中でもここ10年間は、雷害対策機器の需要増加とともに、市場も急拡大している。
雷害対策機器市場は、公共・民間の新築物件への新設分野と、既存物件のメンテナンス需要に大別される。さらに機器の設置工事やメンテナンス需要などもあり、これらを加えると製品市場の約2倍から3倍の市場規模を形成しているとする見方もある。
さらに、PVや風力発電など、屋外に設置される再生可能エネルギーシステムの普及とともに、落雷による被害が急増しており、この分野での専門的な雷害対策機器・システムも数多く開発されている。
落雷時の電圧は、200万~10億V、電流は1000~50万Aにも達し、大電流自体が被害を与えるのはもちろんのこと、大電流により発生する強烈な電磁や蓄積された電荷により、電気・機械・通信設備や装置などが損傷、さらに大電流に伴う二次的な被害が加わる。
■直撃雷と誘導雷に大別
落雷の種類は、電流発生メカニズムの違いにより直撃雷、誘導雷に大別される。直撃雷は、雷雲から物体に直接放電が生じ、直撃電流が流れる。さらに直撃を受けた物体の近くにある別の物体に再放電を生じ、電流が流れる場合を側撃雷という。誘導雷は、直撃電流の電磁誘導作用により誘導電流が流れるケース、または雷雲に蓄積された電荷変動により、地面側に蓄積されていた逆電荷が電流になるものを言う。
昨今の電子機器の被害状況は、通信線から雷の高電流(雷サージ)が侵入し、パソコンなどのデータが消失する被害が目立つ。こうした被害は、インターネットの普及に伴い拡大する傾向にある。地球温暖化の影響で雷の発生日数も増加しており、それだけ雷被害が発生する頻度が高まっている。
■電子機器のトラブルに
パソコンは、半導体を使った精密機器の代表的製品であり、重要なデータを内蔵し処理している。それだけに一般の家電製品と違い、ごく僅かな電流の変化でも誤作動を起こしたりする恐れがある。パソコンが故障する原因で落雷によるものは、夏季(7~9月)で全体の約40%、年間では同約20%を占めている。
さらに、落雷時に誘導雷がコンセントなどから侵入した場合、過電流がパソコンの電源ユニットを経由し、CPU、メモリー、さらにモニターやプリンターにまで被害が及ぶ可能性がある。
落雷の被害を避けるためには避雷針を設置するほか、大規模な工場では低圧避雷器の取り付けのほか、建物の外部から内部へ引き込む通信線や信号回路・制御回路用には耐雷機器、過電圧に敏感な機器には耐雷変圧器の取り付けなどの対策が行われている。
雷害対策機器メーカーでは、様々な落雷被害を想定し、系統安全、外部雷保護、内部雷保護など、それぞれの個所で雷害対策機器・システムを用意している。
系統安全では、安全な電気の流れを制御・監視、さらに機器を点検する役目を果たす各種の機器がある。
具体的には、直流回路の地絡を検出し、極性の判別を高精度・高感度に行う直流地絡継電器や、プラグイン式の分離型直流地絡電流継電器、多回路型同継電器、回路ごとの絶縁抵抗値を計測し、同値が低下すると警報で知らせる直流回線別絶縁監視装置、直流漏電警報付き配線用ブレーカ、往復の負荷電流のわずかな差電流を検出する貫通型直流地絡変流器、作業者の安全用に交直両用検電器などの製品がある。
外部雷保護では、例えばPVシステムについては、直撃雷から太陽光モジュール設備を守るための専用避雷システムなどの耐雷保護対策製品があり、専門メーカーでは設置工事も手がけている。
内部雷保護については、PVシステムの場合、PVの直流側設備(接続箱、パワーコンディショナなど)を、雷の被害から保護するためのPVシステム用SPD(サージ防護デバイス)や、信号回線用SPD、太陽光発電装置免雷接続箱のほか、磁気カードに落雷電流を記憶させる雷記憶カードや、キュービクル用アレスタ、RS485回線用SPDなどの製品もラインアップされている。
■SPDの需要が拡大
SPDに関しては、07年に建築設備設計基準が大幅に改定されたことで、分電盤などへの取り付け基準が大幅に緩和、SPDの需要が拡大しており、雷害対策機器の市場拡大につながっている。
さらに、建築設計基準改定に伴い、避雷器の電源用SPDにおける最大連続使用電圧量が、従来の200Vクラス対応から500Vクラス対応までに拡大された。従来250V対応機器を2台使用していたケースでは、500V対応機器1台で対応できるようになり、使用者側のコストダウンに繋がっている。
最近の製品傾向は、雷サージのカウント機能と、SPDの寿命を予知する機能を一体化した電源用SPDなどが開発されている。従来、現場での判断が難しいとされていたSPDの寿命判定機能を設けることで、効率の良いメンテナンスが可能となり、安全性と保守性双方の向上が図れる製品として注目されている。
さらに、クラスⅡSPDの動作状況を把握し、SPDの接地線に流れたサージ電流レベルや日時などのデータを記憶できる装置がある。SPDは、雷サージなど過渡的な過電圧を制限し、サージ電流を分流する機能を持つ。この製品は、雷サージ侵入の有無を把握する従来のサージカウンタとは異なり、SPDに直接接続することで詳細な劣化日時を記録・表示することができる。
電池駆動で停電時も使用でき、雷被害要因の特定や事故原因の調査、新たな雷サージ対策、SPDや設備のメンテナンスの効率化など、SPD動作の見える化を実現している。また、SPDの劣化接点端子を接続することで、同端子が動作した時刻も記録するほか、SPDの動作頻度や状況も把握でき、太陽光発電システムや風力発電システム用、水処理施設用、データ監視、遠隔監視など、幅広い用途に採用されている。
■雷対策のコンサルタントも
雷害対策機器の市場拡大に伴い、雷被害の実態把握と、雷害対策機器・システムのさらなる普及を図るための取り組みも活発化している。蓄積した雷対策の知識と経験、ノウハウを生かし、雷対策相談ホットラインを開設し、雷対策のコンサルタントなどを行っているところも増えている。
また、雷害対策機器関連メーカーでは、自社で試験設備を備えてあらゆるシーンを想定した開発を進めている。電気関連試験だけでなく、塩害などの自然現象も対象にしている。
一方、産官学の雷関係者を中心に組織された「雷害リスク低減コンソーシアム」、雷保護機器のPRと工事の設計施工を行う企業団体「日本雷保護システム工業会」(JLPA)など、雷被害対策と雷保護システムの普及活動、さらに規格類の制定などに向けた活動も活発化している。
雷による被害が増えるにつれ、雷対策への理解も深まってきている。また、雷の発生を人為的に防げない中で、いかに最適な対策でこれからの被害を防ぐかが求められている。電子機器の普及に比例して、雷対策関連機器の市場も広がることが見込まれ、今後も着実な伸長が続きそうだ。