産業用トランスは、FA分野、ロボット・工作機械分野、医療機器分野、発電関係、アミューズメント分野など、幅広い分野で使用されている。最近では、電源関係やPV(太陽光発電)システムを昇圧・変圧させる機器としても大きな市場を形成している。製品は軽量・コンパクト化が一層進み、ねじアップ式端子台や通電時のLED表示、ドライバーでの取り付け作業が容易になるなどの工夫が施されており、トランスの原理を応用したリアクトル製品の需要も拡大している。省エネ技術を採り入れたトップランナー方式の変圧器は普及が進んでおり、今後は、スマートグリッド技術などによるきめ細かな電力供給に対応する、専用トランスの開発などが期待されている。
■専業メーカーがフル生産
産業用トランスは、電圧や電流を変化・安定させる重要な機器として、大きな市場を形成している。FA分野からロボット・工作機械分野、医療機器分野、IT分野、発電関係、アミューズメント分野など、幅広い分野で活躍しており、電力系統に使用される大型タイプから、受配電盤、電子機器・装置に組み込まれる小型タイプまで、多種多様な製品があり安定した市場を形成している。最近は電力関連やインフラに絡むエンジニアリング関連で需要が拡大している。PV分野では、昇圧や変圧用途で需要が拡大している。特にメガソーラーは、国内外問わず建設が進んでおり、これ向けの大型トランスは、専業メーカーがフル生産体制で需要に対応している。
標準変圧器の市場規模は、経済産業省の機械統計によると、2013年度の出荷金額は742億7600万円となっている。また、産業情報調査会の調査による、世界のコイル・トランス出荷金額は、11年は前年比2・6%増の1兆1717億円、12年はスマートフォンやタブレット端末向け需要、自動車やエネルギー関連での需要拡大で同2・6%増加の1兆2019億円、13年も好調で、9・3%増の1兆3137億円となっている。
■特注品の比率高まる
国内市場では、特注品やカスタムメードトランスの比率が高まっている。同じ大きさで容量の違うトランスや、同じ容量でサイズが半分のトランスなど、顧客からの製作依頼は様々となっている。専業メーカーでは各種のニーズに合わせた改良・工夫を行っており、こうしたことが新たなアプリケーション拡大に繋がっている。特注品は、組み込む機器・装置、設備に合わせて容量、サイズまで特別に製作するため、トランスメーカーにとってコストや納期面での負担が大きいが、巻き線工程から含浸・乾燥工程まで一貫生産ができる最新鋭の機器を導入し、コストの低減と納期の短縮化を図っているメーカーも多い。
トップランナー方式普及
一方、06年度の油入変圧器に対する省エネ法特定機器規制開始により、変圧器の省エネ化が進展し、トップランナー方式変圧器の普及が進んでいる。14年度からは変圧器の省エネ基準が見直され、新しい省エネ基準である「トップランナー変圧器の第二次判断基準」が導入された。新基準のトップランナー変圧器は、JISC4304(1981)規格値とのエネルギー消費効率と比較し約40%、JISC4304(1977)との比較では、約60%もの省エネ効果がある。
■販売ルートを拡充へ
国内での変圧器稼働台数は10年度時点で約260万台(油入235万台、モールド25万台)と推計され、このうち更新推奨時期である20年を超過している1991年以前の変圧器は約100万台を占めており、新基準のトップランナー変圧器へのリプレイスにより、大きな省エネ効果が期待できる。
専業メーカーの営業戦略では、各地域において新規に販売代理店を獲得するなど、販売ルートの拡充を進めている。特に首都圏の営業拡充や地方の主要都市での拡販が行われており、大手の新規顧客開拓に繋がっている。市場の大きい首都圏は、関東以外のトランスメーカーにとっても重要な地域で、営業所などを強化するとともに地域に強い商社と販売提携し、営業活動を活発化させている。最近では、通信販売会社による売り上げが増加しており、メーカー側でも積極的にPRを行っている。
また、物流体制の整備や、ネット販売進展などの観点から、全国的な販路開拓に取り組むメーカーも増えている。大型を中心とする産業用トランスは重量が重いので、輸送コスト面から、ユーザーに近いところで生産するなど、地域密着型での製造・販売が増加している。
トランスの原材料価格については、銅相場がここ数年キロ当たり600円から700円前後で推移していたが、13年ぐらいから円安の影響で800円弱で推移しており、現在も強含みで推移している。一方、鉄の価格はトン当たり6万円台で推移している。
樹脂や石油化学製品の価格も、円安を背景に塩ビ、ポリエチレンなどが若干強含みで推移している。トランスの材料に使用される石油系製品では樹脂のほかにワニス、テープ類などがあるが、トランスは本体の原材料の約80%が鉄や銅で占められ、製造原価に対する材料費が30~45%と高く、銅や鉄の価格動向が製品価格に反映されやすい。
通電表示を工夫・改良
トランスの製品傾向は、軽量・コンパクト化に加え、接続方法の簡易化など作業性の向上、マルチタップ化、LEDによる通電表示などの工夫・改良が進んでいる。
取り付け作業の効率化を図るために、結線の作業性・信頼性の向上、デザイン面などの観点から結線部への端子台の採用が一般化している。タブ端子台を採用しねじを使わず、リセプタクル端子をタブに差し込むだけで結線が完了するタイプや、アップねじの採用でねじを緩めることなく丸型圧着端子の接続ができるタイプが主流となっており、結線作業の効率化が大幅にアップしている。
最近では、単線や棒端子は差し込むだけで結線が可能なプッシュイン式端子台を備えたトランスも発売されている。このトランスは、屋内配線用のビニル電線(IV線)についても、マイナスドライバーでばねを押して差し込むだけで結線が可能で、さらなる結線作業の効率化、時間短縮が図られている。さらに、トランスの筐体に改良を加えることで、ドライバーでの取り付け作業も容易になっている。
マルチタップを採用した製品は、1次側(入力)とともに、2次側(出力)にもマルチタップを採用することで、1台のトランスで12種類の電圧に対応することができ、入出力の電圧変更が簡単にできる。ねじアップ式端子台にLEDを搭載し、通電中はLEDが点灯し通電状態が一目で確認できるタイプも好評。
絶縁紙の使用枚数削減
軽量・コンパクト化への取り組みとしては、絶縁紙の使用枚数削減がある。
これは環境対策面でも効果的で、絶縁種別をB種、巻線仕様をノーレア方式にすることで、従来品と比べ20~40%の軽量化を実現。これにより、1kVAクラスの場合、約3キログラムの減量となる。サイズも10~30%コンパクト化が図られている。
中型単相、三相トランスでは、新しい形状の成形ボビンを採用することで、コイルをレヤー紙巻からレヤーレス巻きにすることも図られている。層間紙を入れずに完全整列巻線を行うことができ、導体熱が直接伝わり放熱効果が向上するとともに、大幅な小型・軽量化に繋がっている。さらに、コイルの上下面の線輪間を完全に覆うことで、ホコリやごみ、湿気などからコイルを守り、絶縁不良の事故を防ぐことも可能になっている。
コイル巻線の工夫、鉄心の改良については、複数巻線シングルコアに対して、複数コアのシングル巻線にすることで大幅に薄型化することができる。近年では、巻線の自動化技術も進み、独自の自動巻線装置を使うトランスメーカーが増えている。
民生用途の小型タイプなどでは、既に巻線の自動化がなされているが、大型タイプが中心となる産業用トランスでは、まだ手作業で行っているところが多い。自動化は、同じ巻線数でも手作業などの従来方法よりコンパクトに巻け、小型・軽量化とともに、作業の時間短縮化につながっている。
巻線の自動化が進む
トランスの巻線作業はある程度熟練が必要で、ベテラン職人の減少や人件費対策などのコスト面からも、巻線の自動化が進んでいる。コイルボビンにノーカットの鉄心を巻き込んだタイプは、鉄心の有効断面を均一にすることができ、磁路の短縮が図れる。コイルボビンと鉄心の一体化構造で、高い絶縁性と正確な形状を実現、自動巻線も使えるといった特徴がある。
トランスにノイズ対策機能を付加した製品も増えている。ノイズ対策には一般的にノイズ対策専用トランスを採用するが、トランス自体がノイズ対策機能を持つことにより、ノイズ対策専用トランスが不要となり、コスト、スペースなどでメリットがある。
■耐雷トランスの需要拡大
さらに、日本は雷の発生が多く、特に山間部や日本海沿岸部などで雷被害が拡大している。近年は温暖化現象などで都心部でも落雷による被害が急増しており、雷対策用として耐雷トランスの需要が急速に拡大している。また、太陽光発電システムの普及に伴い、太陽光発電用のパワーコンディショナが落雷により被害を受けるケースも増えており、これらに対応する耐雷トランスも発売されている。
安全重視の観点から、焼損事故の再発を防止するため、自己保持型サーマルプロテクタを内蔵したトランスも好評だ。所定の動作温度に達すると、トランスや電源機器の電源が切れるまで接点を開放し続ける。
成型前のガラス繊維などに熱硬化性樹脂を染み込ませた、金型レスのプリプレグ方式のモールドトランスも伸長している。通常の乾式トランスに比べ、導電部の絶縁や保護に効果を発揮し、難燃性や耐湿性に優れる。金型レスのため、ユーザーが求める様々な容量・電圧に対応するトランスの製作も可能である。
トランスの技術を応用したリアクトルや給電システムなどが開発され、新たな市場を形成しつつある。特に、汎用インバータ用交流・直流リアクトルは、入力力率を改善するとともに高調波電流を阻止するもので、コンデンサの焼損を防止し、電流の脈動を平滑化させる機能があり、需要が拡大している。
高周波リアクトルは、小型でありながら低損失、低騒音で、電流特性に優れ、太陽光発電システムのパワーコンディショナ向けに需要が伸びている。PV分野以外にもUPS(無停電電源装置)や、バッテリチャージャー、各種のコンバータ/インバータや、各種の電源装置にも応用でき、今後のアプリケーション拡大に繋がるものと期待されている。
今後の産業用トランスは、より一層の省エネ化・高効率化を図るため、鉄心や巻き線の材料の開発や、トランス自体の構造の改良などが進むものと予想される。最近では、電力会社間での電力融通の必要性が高まっていることから、長距離送電のための高電圧の需要増が予想され、これに対応できるトランスも必要になってくるだろう。さらに、スマートグリッド技術によりきめ細かな電力供給が進むものと予想され、こうしたニーズに対応するトランスの開発が期待される。”