温度調節器(計)市場は、需要先分野の動向に左右されながらも、おおむね安定した動きで推移している。半導体・液晶製造装置やソーラーパネル関連、食品や包装関連、さらには自動車やスマートフォンなどの生産拡大で成型機など、温度調節器(計)の主力市場の設備投資増が継続していることが大きい。為替も、海外メーカーとの販売競争を優位に進められる水準であることも温度調節器(計)市場に活気を与えている。製品は小型・短胴化傾向が依然継続し、表示の見やすさ、高速処理、ネットワーク化対応など、使いやすさの向上を目指した取り組みが行われている。
温度調節器(計)は、製品品質を確保する上でも大きな役割を果たしている。微妙な温度管理で、製品の機能や味覚などに大きな影響を与え、企業の命運を握っているともいえる。
■製品の歩留まりを左右
温度調節器(計)は、温度・湿度・圧力など各種センサから取り込んだ測定値を必要とする設定値と比較して、その差を修正する信号をリレーやアクチュエータなどへ出力することで、対象物の温度や湿度を調節する制御機器・システムとして使用されている。製品の品質や歩留まり率は生産コストにも影響してくる。
中でも半導体や液晶パネル製造では、温度計測精度の向上など高性能の温度調節器が求められており、温度調節器の性能次第で製品の歩留まりが大きく左右される。食品関連では味覚や品質管理上から温度調整を頻繁に行うことで最もおいしく、安全・安心な食べものをつくりだすことにつながってくる。
現在の温度調節器(計)は、半導体技術を利用した電子式が主流になっている。メカ式などに比べ、温度精度が格段に向上し、より緻密な温度制御を可能にする。同時に半導体の採用で量産化が可能になり、温度調節器(計)の単価は飛躍的に下がった。しかし、逆に使用台数が増加し、結果的に市場の増大につながっている。
■中・韓との販売競争激化
温度調節器(計)の市場規模は、2013年が日本メーカーだけで350億円前後と推定され、前年比微増とみられるが、海外販売比率が年々上昇していることで、中国や韓国メーカーとの販売競争が激しくなっている。
温度調節器(計)のグローバル市場規模は、メーカー筋などの話を総合すると700億円ぐらいと推定され、従って日本メーカーのグローバルシェアも45~50%となって、国際市場でも大きな地位を占めている。最近の為替が円安に振れていることから、海外メーカーとの競争力も高くなっており、日本メーカーにとっては追い風と言える。
国内外でスマートフォンやタブレットPC、自動車などの生産が拡大していることで、温度調節器(計)が必要な機械装置の需要も伸びている。輸出環境の好転により、日本国内に生産を回帰する製品も増え始めていることから、今後国内での設備投資が増えることも期待されている。
国内市場では、半導体・液晶製造装置、ソーラーパネルなどに加え、有機ELや電池関連なども今後の需要拡大につながる有望市場として期待されている。
温度調節器(計)の大きな市場のひとつである食品機械、包装関連も依然堅調な動きで推移している。食品機械は比較的中小企業が多いこともあり、国内市場中心の展開を行っているところが多いが、日本食への評価が国際的に高まっていることから、食だけでなく、機械も海外で買ってもらおうとする動きが強まっている。食品機械の海外輸出比率はまだ10%前後と他の業種に比べ低く、今後海外市場の開拓が進むことで、温度調節器(計)市場にとっても、弾みがつくことになる。
最近の温度調節器(計)の製品傾向は、軽薄短小化、高速・高機能化、視認性や操作性の向上、ネットワーク化対応などが開発のポイントになっている。
60ミリを切る製品も登場
外形寸法は、DINサイズの96ミリ角から、48×24ミリまで各種あるが、搭載機器・装置の小型化傾向に合わせて小型・薄型化傾向が強まっている。特に薄型(短胴)化については、最近は60ミリを切る製品も増えており、機器の省スペース化につながっている。
視認性では、文字が遠くからでもハッキリ確認できるように10ミリ前後の大型化傾向が目立つ。文字色も赤、緑、白など各社が独自の特色を打ち出している。
表示素子はLED表示が多いが、LCDとバックライトを組み合わせた表示もあり、グラフやメッセージなどの表示も容易になる。
11セグメントのアルファベット表示機能、制御設定値やパラメータ設定、出力値アナログバー、偏差値トレンド記録表示、偏差アナログバー表示などのほか、5桁3段の表示も可能で表示の情報量が増大し、新規の顧客開拓につながっている。表示色も赤、緑、黄などカラフルになっており、状況判断をしやすくしている。この表示色を変化させることで、安全性向上を図るタイプもある。
■独自の制御技術アピール
高速で高精度な処理ニーズに対して、各温度調節器(計)メーカーとも、独自の特徴を出したアルゴリズムで制御技術をアピールしている。
例えば「RSS(ランプ・ソーク・スタビライザー)機能」は、ランプ制御開始時の追従性向上とソーク制御移行時のオーバーシュート抑制を同時に行うことで、プログラムの制御性を一段と向上させている。また、植物のザゼンソウが有するフィードバック形発熱制御の特性などを応用し、省エネ化につながる制御アルゴリズムも開発されている。
操作性でもダイレクト操作が可能なキーの搭載や、サポートソフトウェアの充実などが進んでいる。保守の簡略化のために、長寿命のリレー出力により、メンテナンスサイクルの長期化や、予防保全をサポートする制御出力のON/OFF回数のカウント機能などを備えている。
温度調節器(計)選定を容易にするために、アプリケーションの違いで入力センサが異なる場合でも対応が容易なマルチ入力機能や、各国の船舶規格に対応するなどグローバルなサポートサービス体制の強化などが挙げられる。
最近は、PLC(プログラマブル・コントローラ)のI/Oモジュールのひとつとして温度調節機能内蔵タイプも増加している。既存の温度調節器(計)と競合する面もあるものの、省スペースと省配線、設定ミスを低減する効果などが評価されている。
■温度制御をPLCと連携
多くの場所で温度制御する場合、一つずつ設定していてはミスも発生し、コストもかかる。温度制御をPLCに統合することで、多点での制御状態が一目で確認でき、設定も簡単になる。
ハードウェアとソフトウェア両面でPLCのコストダウンを図ることが可能となり、温調機能の信頼性と機能アップ、部分最適から全体最適へという設計自由度のアップも図られる。さらに、プログラマブル表示器などと組み合わせ使用する表示部のないモジュールタイプやボードタイプなどは、温度制御点数が多い用途では、制御部品の削減と設置スペースを抑えることにつながる。
製造現場の熱処理工程は、工業炉など様々な分野で高度な温度制御が必要とされており、このため温度調節器や周辺機器の用途拡大につながっている。
半導体やFPD(フラットパネルディスプレイ)の製造工程では、ステッパー、コータ・デベロッパーの高安定温度制御、チャンバーの高応答温度制御、ワイヤボンダーの温度制御、FPD焼成炉の多点温度制御、ウエットステーション薬液の温度・レベル管理、拡散炉の温度制御などに温度調節器が使用されている。ステッパー、コータ・デベロッパーには、1000分の1℃の分解能を持ち、電源電圧のわずかな変動にも対応する温度調節器が使用されている。
シリコンウエハの熱処理が可能な拡散炉は、多数枚のウエハを処理容器内に収納し、ヒータで加熱して1000℃前後の熱処理をすることから、炉内の温度分布を均一にする必要があり、高性能の温度制御が必要になっている。
■ものづくりに不可欠
恒温恒湿の状態を保つための温度制御は、こうしたハイテク分野の製造工程だけでなく、あらゆる産業において、品質を向上させながら生産性を高めるものづくりに欠かせない要素になっている。
包装機械では、原料を処理する際にヒータによる加熱温度の調節・管理が重要である。ファジィ制御とPID制御で温度を安定させるため、デジタル入力によるオートチューニングの開始・停止指令のほか、ヒータ断線警報や温度警報機能が付いており、高品位な成形が可能となっている。
このところの節電・省エネ対応から、工業炉や食品機械などで必要な予熱管理や待機電力などの温度調節でも対策が求められ、この面の効率化を図る取り組みも進んでいる。フィールドバスが省エネ対策にも貢献するとして注目されているが、これは夜間や昼間など、機械・装置が休んでいる時の待機電力の使用を削減しようというもの。機械・装置の効率的な運用を図る点からも注目を集めている。すでに、EthernetやModbusなどのネットワークを駆使し、PLCやコントローラなどを介して装置ごと連携制御することで、最適なタイミングでの温度調節が可能となり、余分な電力消費などを防ぐ取り組みが行われているが、こうした動きをさらに加速させることにつながる。
さらに、赤外線通信で簡単にセットアップでき、各種パラメータの読み書きやCAV形式でファイルの保存などが可能なタイプや、光通信タイプ、温調ボードとシーケンス制御・プロセス制御を組み合わせたシステムボードなどもあり、温度調節器(計)のパラメータ設定や管理などをパソコンで行うことも一般化している。
また、熱電対や測温抵抗体などのセンサからマルチ入力による温度制御も増加しており、入力種別によるマルチ化が進んでいる。直流電圧・電流にも対応でき、湿度や圧力のアナログ量の制御を始め、ヒータ断線検知・警報機能、多点制御、カスケード制御、比例制御などが可能で、市場拡大につながっている。
温度調節器(計)各社は、機能の絞り込みや用途対応などで価格を抑えてユーザーへのアピールを行う一方、エンジニアリングと一体となった付加価値を追求した取り組みも進めている。
日本メーカーが国際的に高いシェアを有しているだけに、さらに魅力ある製品とサポート力での取り組みを行っていこうとしている。