【バンコク週報特約】タイでは、今年1月1日から新投資奨励策が施行されているが、旧制度からの変化の大きさに戸惑う日系企業も少なくない。このなかで、3月6日に開催された信用金庫取引先在タイ企業の交流「バンコク信金会」の講演会で、商工中金からタイ投資委員会(BOI)に出向している原田朝善・投資アドバイザーが新制度の留意点や活用法などを説明した。
新投資奨励策では、事業地域によって恩典に差をつけるゾーン制が廃止され、業種別基礎恩典とタイ経済への貢献度などにより追加されるメリット恩典とが組み合わされることになった。
このため現在、基礎恩典とメリット恩典をうまく組み合わせて最大限の投資恩典を得る方法についての相談が増えつつあるという。「基礎恩典のみに着目し一喜一憂している企業も多いが、メリット恩典を有効に活用することで投資恩典を拡大することができる」と原田氏は指摘する。
例えば、投資奨励地域である地方20県に進出する、奨励された工業団地もしくは工業地区に立地する―ことなどで法人税免除・減免の追加を受けることができる。
さらに原田アドバイザーは、新規もしくは追加申請をする場合、「何のためにBOI恩典を取得するのか」を改めて見直すよう呼びかける。BOI取得自体が目的となっているケースもあるためだ。実際、銀行やコンサルティング会社に勧められBOI恩典を申請したものの、取得後に何のメリットもないことが分かったとして、恩典のキャンセル方法についての質問を受けることも複数あるとのことだ。
それでは、すでに恩典を受けているプロジェクトの内容を変更する場合、新投資奨励制度の下で改めて申請するのか、それとも旧恩典を維持したままプロジェクト内容を変更することができるのか。
■変更前の3割以下
昨年12月から行われている新投資奨励策の説明会で頻繁に出ている質問であるが、これについて原田氏は、既存プロジェクトの生産能力を拡大する場合、生産量増加分が変更前の3割以下であるなら、新規申請ではなくプロジェクト変更で対応が可能と説明する。さらに、追加投資のケースでは既存プロジェクトの申請金額の3割を超えない範囲であれば、やはりプロジェクト変更で対応できるとのことだ。ただし、変更できる業種は新投資奨励策で認められている業種に限られる。
新投資奨励策で最大の論点となっているのは、10年を超えた中古機械がBOIプロジェクトで使用できなくなった点だ。
日本の生産ラインのタイへの移転を検討している企業の場合、現時点で使用されている機械は製造時より10年以上経過していることが多い。
このため、日本側は新政策発表当初からBOIに見直しを求めており、BOI側も同件についての検討を重ねてきた。
■コスト全体を分析
また、BOIは2月18日から20日まで日本国内でロードショーを行ったが、ここでも中古機械の扱いについては見直すことを示唆している。「タイからの周辺国への事業展開の相談も増えている」と話す原田アドバイザー。ただ、安価な人件費のみに目を奪われるのではなく、輸送費や電気代・水道代などのコスト全体を分析するよう呼びかける。たとえ人件費が安くても輸送費がかさめば、総コストはタイと変わらないことになるからだ。
さらに、役所での手続きの容易さ、現地政府のバックアップ体制など非コスト面のチェックも必要不可欠という。
最近では、タイの小売大手がタイ国内の国境エリアに進出し、周辺諸国との事業展開を模索している。国境を越えないというのも、ひとつの選択肢となるようだ。
なお最近、原田アドバイザーが受けた投資相談では農業関係が増えているという。このほか、デザインや設計に関するR&D部門の日本からタイへの移転、廃棄物処理とリサイクルをキーワードとした環境関連事業および人材育成事業の立ち上げなども目立つという。