ビッグデータ グローバル競争に勝ち抜く技術として製造業にこそ導入メリット

「ビッグデータ」というキーワードが最近様々なところに登場し、注目を集めている。ところが製造業に携わる多くの人が「ビッグデータと言われても、自分には関係がない」と感じているのではないだろうか。実際、各種メディアで取り上げられる内容としては、スマートフォンが収集する位置情報や、Web閲覧履歴情報を使ったマーケティングなど、製造業とは少し遠い内容がクローズアップされがちである。しかし、製造業においてもローコストに導入ができ、メリットも享受しやすいサービスが多数登場してきている。むしろ、日本の製造業こそ、多国間競争に勝ち抜くために取り入れるべき技術でもある。

「インダストリー4・0(ドイツ)」「インダストリアル・インターネット(アメリカ)」など先進国の政府は、大手メーカーと連携して情報技術を現場に取り入れ、競争力強化に本腰を入れている。

■中小企業こそ導入
新興国でも人件費の高騰や労働人口の流動化で現場の情報化が進められており、ある調査機関によると、最も情報技術で先端技術が活用されている工場は中国にあるとさえ言われている。

実は、現場のIT化は大企業の話だけではなく、中小企業だからこそ差別化のために導入すべきという意見もある。かつての日本は、現場の技術が競争力の源泉となり、大企業や新興メーカーと渡り合うことができたが、労働人口の減少と、定年による技術者の引退により、その強みが失われている。それをIT技術による技術の伝承や、現場の効率化に生かし、競争力を強化しようというのだ。

■3日でデータ収集
とはいえ、現場のIT化は従来、膨大な費用がネックとなっていた。情報活用のためには、まずはデータを集める必要がある。規模にもよるが、システムの要件定義(情報収集の方法などに関する設計図作成)、サーバー構築、テスト運用などで最低1年程度の時間と、数千万円のコストが必要だった。

ところが、今はその気になれば3日でデータ収集が始められる。多くの企業で光回線などのブロードバンド環境が整っているため、クラウドサービスとパッケージ化されたデータ収集サービスを用いることで、ローコストに現場のIT化が始められるのだ。

具体的な情報活用事例として「予防保全」が挙げられる。壊れてしまうとラインが動かないような部品の監視はメリットが分かりやすい。例えば製造ラインのメインモーターが故障するとする。もちろん生産が直ちに停止してしまう。しかし、大型のモーターは高額な部品でもあり、さらに交換にも専門的な技術が必要なため、実際は目に見える異常が発生してから業者にメンテナンスを依頼しているのが多くの企業の実情である。

しかし、故障の予兆をキャッチし、その日の稼働が終わった後メンテナンスをすることで、製造中に装置を停止する必要がなくなる。これは、モーターが破損する前に、固有の振動や電流の変化があることを活用し、センサで監視することで予知保全を行う分かりやすい事例の一つだ。

ビッグデータは品質管理にも使える。製造工程から検査工程までの各種データをすべて集めることで、同じ良品でも、「検査の中央値にある製品」と「較差ぎりぎりの製品」が作られた製造条件を分析し、製造工程にフィードバックすることができるようになる。そうすることで、品質の向上はもちろん、歩留まりの向上にも寄与し、最終的には製造コストの低減が実現できる。生産数や稼働状態をデータ化することで、生産計画の適正化、人員配置の適正化にも使える。

ビッグデータサービスを提供している企業としては「トレジャーデータ社」が挙げられる。同社のサービスを用いると、様々なデータを即座に収集・保管・分析できる。250種類以上ものデータソース、フォーマットをサポートしているため、専用のカスタマイズがほぼ必要なく、数日で導入ができる。

製造業でも実際に導入事例がある。同社が協業しているアットマークテクノ社の「Armadillo―IoT」は、各種機器・センサとインターネットの接続を仲介する「ゲートウェイ」を中心に、IoTシステムの構築を支える組み込みプラットフォームとして提供されている。両社のサービスを組み合わせることで、導入企業は工作機械や事務機器、各種センサデータを、クラウド上で収集・保管し、分析することが可能になる。

実際に3Dプリンターの稼働状況をモニタリングし、故障の予兆を分析してメンテナンスのタイミングを図るサービスを提供しているJBアドバンスト・テクノロジー社で、先行的に採用されている。

■予防保守を実現
今回の採用により、稼働状況のログが可視化され、これまで現場に到着してから確認していた情報を訪問前に把握することができ、作業の効率化を図れる。将来的には、障害予兆を検知し、造形不良や機器故障が起こる前に予防保守の実現が期待されている。

収集した後のデータ分析に対しても様々なサービスが提供されている。例えば国内IT大手の電通国際情報サービス(ISID)と資本・業務提携している米・ベンチャー企業「プレディクトロニクス社」では、予知保全分野において、「Intelligent Maintenance(知的保全)」のコンセプトのもと、高度なデータ解析技術を駆使した先進サービスを提供している。

現場にあふれている情報をどのように活用するかが、今後の製造業において非常に重要になってくると考えられる。しかしながら、せっかくあるデータを収集しないことには、宝の持ち腐れになってしまう。

■経営層が積極的
製造業においては、IT投資を行ったからといって、すぐに生産数が増えたり、原価が低減できたりはしない。しかしながら、競争力がある企業の共通点を見てみると、経営層が積極的なIT投資を行い、現場の見える化を推進している企業が間違いなく多い。実際に数千万円の装置を買うよりも、既に稼働している数億円の装置を効率よく稼働させる方が先決ではないだろうか。

まずは、現場のデータ収集から始めてみる必要がある。

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