製造業の労働災害が依然として起こっている。生産活動の活発化で機械などの稼働が増加していることに加え、熟練作業者の減少なども背景にある。法制面での整備も進み、安全対策機器の普及も進展していることから、その効果が期待されている。
国内における製造業の労働災害死傷者数(死亡・休業4日以上)は、厚生労働省の統計(速報)によると、2014年(1~12月)は2万4910人で、このうち死亡者は171人であった。
全産業での14年の労働災害死傷者は10万6674人。
■食料品製造業で増加
製造業の死傷事故の発生状況は、機械への「はさまれ・巻き込まれ」と「切れ・こすれ」が約40%を占める。これは、経験が十分でない労働者の増加も背景にある。最近多いのは食料品製造業における労働災害で、特に食品加工用機械によるものが増えている。
このため、13年10月に労働安全衛生規則が改正され、食品加工用切断機・切削機の刃の切断などに必要な部分以外に覆いなどを設けているか、機械の調整などを行う場合に機械の運転を停止しているか、などが追加された。
加工産業だけでなく、素材加工産業での爆発事故も増えている。危険物の製造といった火災の発生しやすい環境のため、爆発事故などの対策は取られているが、発生は防げていない。熟練技術者の不足や、外部への管理依存が高まっていることで、社内の設備保全が疎かになってきている。今後の国内市場の動向とも絡み、国内での新規投資や補修投資を抑える傾向が、こうした事故の誘発要因にもなっている。
安全対策機器の市場規模は、日本電気制御機器工業会(NECA)の出荷統計によると、13年度は前年度比9・9%増の271億円と、3年連続で過去最高額を更新している。国内が2・7%増の193億円となって4年連続で伸長し、海外も33・0%増の78億円となり、いずれも過去最高となっている。
NECAでは14年度の全体出荷額を6・9%増の6850億円と過去最高を予測しており、安全制御機器もこれに比例して伸長するものと期待されている。
■駐車設備の対策強化
安全対策機器を取り巻く環境として、最近のトピックスは自動車駐車設備の安全対策の強化だ。駐車場や駐車設備での死亡事故が増加しているためで、国土交通省がこのほどまとめた「機械式立体駐車場の安全対策に関するガイドライン」で、製造者、設置者、管理者がそれぞれ守るべき事項を示し、事故の発生防止を図ろうとしている。
また、13年12月には安衛則のロボット使用時の柵囲いについての解釈が見直され、従来80W超の産業用ロボット使用時については柵囲いが義務付けられていたが、80Wであるかどうかに関係なく、リスクアセスメントを行って安全確保が確認できていれば柵囲いは不要ということになった。使用者にとっては安全対策が軽減できることになるが、一部には事故対策に懸念が生じるという声もある。
ロボット規制では、生活支援ロボットの国際規格が14年2月に発効し、日本からの提案が採用された。生活支援ロボットについても、安全対策の不明確さが普及のネックの一つと言われていたことから、今後の普及に向けて弾みがつくことが期待されている。
安全対策機器は多岐にわたるが、主なものとして安全リレー、安全リレーユニット、セフティドアスイッチ、セフティリミットスイッチ、非常停止用スイッチ、ソレノイド付き安全スイッチ、エリアセンサー/ラインセンサー、フットスイッチ、マットスイッチ、テープスイッチ、ロープスイッチ、プログラマブル安全コントローラ、安全プラグ、安全確認型回転停止センサ、非通電電流センサなどがある。これら各種安全対策機器を用途に合わせて、機械本体や機械周辺に装備して安全を確保する。
安全を確保する手法もここ数年で大きく変化してきている。例えば信号の伝送はハードワイヤから安全バスライン、そしてワイヤレス化へ進もうとしている。
人の存在検知方法も、光カーテンからレーザスキャナが主流になり、今後画像センサの導入が進むことが見込まれている。
■制御・安全用が混在
メカニカル機構の安全対策機器が多かった中で、最近は電子技術を応用した安全対策機器が増加しているのも特徴だ。PLCやサーボモータ、インバータなども安全対策を内蔵した製品が増加してきており、制御用と安全用が分かれていたフィールドネットワークでも、混在した形で構築できるようになってきており、ユーザーの負担を軽減している。
NECAや日本認証(JC)などが中心となって展開している「セーフティアセッサ認定制度」はアジアを中心に海外でも取得者が増加しており、14年4月からは新たに、「機械譲渡における危険性等の通知作成者の要件」を満足する内容を追加した。
■電気安全ガイドを発行
NECAでは安全関連思想の普及の一環として、『電気安全ガイドブック』の発行を進めている。直流給電機器の普及が増加するなかで、受配電盤、制御盤などでの操作事故を防ぐための注意を喚起するのが狙いだ。
ただ依然、労働災害が減少しない背景には、エンドユーザーの安全意識の薄さが挙げられており、ボトムアップによる安全思想が必要だという声が増えている。そこで安全対策機器の販売の前に、安全思想や安全ソリューションの提案を行うことで、市場を広げることがますます重要になっている。