スイッチング電源は直流安定化電源などとも呼ばれ、用途はパソコンなどの情報機器、センサ用電源・ロボット用電源などのFA用制御機器、アナライザ・オシロスコープなどの計測機器、各種医療機器などに活用されており、情報機器の普及や、工場の自動化などに伴い、市場は堅調な成長が続いている。これらの機器に使用されている部品は主にDC(直流)電源を必要とするものが多く、商用(交流)電源(AC電源)をDC5V(情報機器に多い)、DC24V(制御機器に多い)などに変換するために、スイッチング電源が使われている。
スイッチング電源は、AC電源から安定的に直流電源を作りだす方式としては、トランスを用い、「大きい」「重い」「効率が悪い」といったデメリットの代わりに「低ノイズ」「壊れにくい」といったメリットがある「ドロッパ方式」と、半導体素子を用い「ノイズが発生する」というデメリットの代わりに「小さい」「軽い」「高効率」といったメリットがある「スイッチング方式」があり、機器に組み込まれる場合は「スイッチング方式」が主流となっている。
ほとんどの電源は「スイッチング方式」の製品を指す。
■国内2500億円市場
スイッチング電源の市場規模は国内で約2500億円前後と言われており、国内景気の回復や、工作機械、半導体・液晶製造装置市場の回復により、今後も堅調に伸びるとみられている。その中でも標準品といわれる型式・仕様が既に決まっている製品と、カスタム品といわれるそのつど顧客仕様にあわせて開発する製品と大きく2種類があり、標準品は市場の約20%強を占めているといわれている。標準品の小型化や、コスト対応力の強化により、今後標準品が増えていくとみられている。
■標準品だけで数百機種
スイッチング電源選定の要素としては「入力電圧」「出力電圧・出力電流(出力電力)」などの基本要素の他に、「ケース有無」「取り付け方法」「(警報などの)出力有無」などが挙げられる。基本スペックとしては「変換効率」「仕様周囲温度」など多数の条件があり、全部を数えると、標準品だけで数百機種をそろえるメーカーもある。
国内で販売されるスイッチング電源も、制御盤や機器に組み込まれた状態で海外に輸出されるケースが年々増えている。そのため、電気的仕様に関する規格や、安全に関する規格などを各メーカーが積極的に取得している。北米向け規格の「UL」、欧州向規格の「CE」などをはじめ、中国向規格の「CCC」などもある。他にも欧州の環境影響物質に関する規格である「RoHS」など多数の規格があるため、輸出する装置に採用する場合は、各メーカーHPなどの確認が必要だ。
新製品開発の方向性としては「多機能化」と「ローコスト化」の二極化が進んでいる。多機能化の例としては、「電流表示」「メンテナンス時期のお知らせ」「耐久性アップ」「端子台の工夫」「小型化」などが挙げられる。
特に耐久性アップについては、熱に関する要因が強い。一般的には主要部品である「アルミ電解コンデンサ」の仕様により大きく左右される。アレニウスの法則といい、使用周囲温度が10℃上がると、寿命が半減するといわれており、各社ハイエンド品を中心に、耐熱温度が高いコンデンサを採用している。この仕様は主に「使用周囲温度」のスペックを左右し、現在では+70℃まで耐えられることを表示する製品も発売されてきている。
変換効率も各社技術開発を競っており、最近では90%を超える製品も出てきた。効率が良いと、省エネにつながるばかりか、エネルギーロス(=ほぼ熱に変換)による部品(コンデンサ)へのダメージが少なくなり、製品の安定化(長寿命化)にもつながる。電源がダウンしてしまうと装置全体が停止してしまうため、重要なスペックでもある。
ローコスト化については、大手メーカーがラインナップを追加して価格を見直す例や、取付金具などをオプション扱いにして本体価格を抑える例などの他に、新規メーカーが価格を武器に参入する事例も増えてきた。特に台湾メーカーなど海外メーカーが日本市場に参入し、シェアを伸ばしている。また、ケースに入っていない基盤タイプのラインナップも年々増えており、ローコスト製品に関するニーズにも各社対応している。
■流通方法も多様化
流通方法も多様化している。従来は各地の制御機器を扱う専門商社が、各ユーザーから受注し、メーカーからの納入価格を基に、価格・納期を調整し、回答・販売するケースがほとんどを占めていたが、仕様が決まっている汎用標準品については、WEBを使った販売が年々増えてきている。多くの場合、WEBによる販売は納入価格が明示されており、納期も最速即日出荷と、ユーザーにとっては部品の納期管理を含めた購入に関する工数を大幅に削減できる。
一方で、特注仕様やハイエンド製品に関しては専門商社やメーカー技術営業スタッフによるサポートを受けながらの仕様決定が必要なため、仕様によって今後も流通方法の棲み分けが進んでいくと思われる。