不連続戦線に異状なし 黒川想介 (18)

日本人は自らを揶揄する意味で時折、島国根生という言葉を使う。世界がまだ蒸気船や大砲を持たなかった頃、島国日本は海という防壁があったから他国からの侵略もなく、日本独得の文化が醸成し、日本文明というものを作り上げたという誇りをもっている。その誇りと裏腹に、島国根生と揶揄するのは自信がなくなっている時である。日本は島国だから島国根生的に内気な国であるわけではない。

同じ島国でも英国は島国根生という表現は似合わないであろう。英国は紀元前にローマのカエサルに侵攻された。以降、ローマ帝国は現在のイングランドをローマ帝国の属州ブリタニアとした。スコットランドとの境に長城のようなハドリアヌスの壁やアントニヌスの壁をつくって、いわゆる当時のスコットランドの蛮族の進攻を防いだ。ブリタニアはコスモポリタン帝国ローマの一員となってローマ文明に浴した。5世紀、ローマ帝国は滅びても、ローマ帝国に代わってキリスト教がコスモポリタン的な役割を果たした。十字軍遠征やジャンヌダルクで有名なフランスとの百年戦争などで、英国は常に大陸との協同や抗争に明け暮れた。18世紀~19世紀には産業革命を成し遂げて、世界の海を支配したと言われてきた。英国は日本より13万平方キロメートルほど小さい島国であるが、歴史が始まって以来、海という防壁に守られず、自らも海を防壁と考えずに海を陸上の高速道路の如く思って活用してきたため、矮小な島国根生意識がないと言える。

日本も、英国と同様の島国である。したがって元来は海を道路代わりに使う海洋民族である。歴史が始まって秀吉政権までは英国と同様、海は防壁ではなく、外国との接触に積極的であった。秀吉は唐入りと称して大陸に積極的に関与した。戦国の世が終わってはいたが、元気はつらつで矮小な島国根生という意識はなかったはずだ。明が満州族の清に滅ぼされて、明の残党が徳川政権に援助の依頼をしてきた時、徳川政権は色めき立ったが結局は大陸に侵攻しなかった。以来、日本は島にとじこもり、聞きたくない外国からの情報を遮断した。幕末まで二百数十年間に、国内での戦いはなく、海外の国との余計な摩擦を拒否してきた。そして独得の日本文明を築いた。日本人は元気に満ち自信のある時はそれを誇りとしているが一端元気をなくすと、進取の気持ちが薄れ、いわゆる島国根生と自らを揶揄する。

近年、マーケットインと唱えながらプロダクトアウトになってしまうことが多かった。積極的に最終ユーザーと係わらなくなったからだ。元気のない時の島国根生になっている。営業は設計者や製造現場とのコンタクトが薄くなり、メーカーの営業も販売店の営業も都合のよい現場に顔を出すが、関係ないと思っている現場を素通りする。内気な営業が多くなっている。積極的に他部門の人に会いに行こうとする営業マンは少ない。

現状、係わりがある技術者とのコンタクトにとどまって、現状の案件が他の技術者を巻き込む時のみ未知の技術者に広げる結果となっている。これでは不連続の先に来る市場とは何かを考える余裕はない。現状の部品やコンポ商品をより機能アップすることや、より安価な提安品となるのが関の山である。

これこそプロダクトアウトそのものである。不連続の時代には官僚的頭脳の良さより、次の市場で芽吹くものを想定する力が大事である。その力の源泉は、ユーザーの現場といかに多くの接触をするかにかかっている。
(次回は4月8日付掲載)

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