幅広い用途で使用される産業用(FA)コンピュータ 海外市場にもアプローチ 連続稼働に耐える高信頼性設計

24時間連続して安定稼働し、長期間の保守と製品供給を大きな特徴とする産業用(FA)コンピュータ/コントローラは、工場だけでなく、社会インフラ分野や医療機器など幅広い用途で使用されている。CPUの高性能化や多機能化なども進み、一層利用領域を広げている。従来は国内市場を中心に販売を展開してきた日本メーカーも、このところ海外市場へのアプローチを強めており、市場拡大が見込める中国などへの展開を図りつつある。第4次産業革命とも言われる「インダストリ4・0」や、IoTが進展するなかで、産業用(FA)コンピュータ/コントローラの活用が見込まれており、さらなる飛躍が期待されている。

工場など振動が多く、使用周囲環境も事務所などに比べ温度や湿度などで厳しい用途が多い産業用(FA)コンピュータ/コントローラは、産業機器の制御用として様々な生産現場で使用されている。こうした厳しい使用環境でも長期的に安定稼働することから、ユーザーから信頼も高く用途を拡大させている。

市場規模は、産業用(FA)コンピュータ/コントローラの範疇をどこまで含めるかで捉え方に大きな違いがある。特にパネルコンピュータで産業用(FA)コンピュータ/コントローラやボードコンピュータの捉え方がメーカーによって異なることが多い。メーカーや調査会社などの見方を擦り合わせると、日本の市場規模は約300億円、グローバル市場規模は約2300億円と推定されている。汎用パソコンとは異なり、長期間の安定した供給体制や、連続稼働に耐える信頼性の高い設計などから用途は広がりつつある。一般的に産業用(FA)コンピュータ/コントローラの半分は工場などの製造現場で使用され、残りが非製造分野の交通や公共分野となっている。

■需要大きい半導体関連
製造分野でも大きな用途となっているのが、半導体やFPD(フラットパネルディスプレイ)製造分野。半導体、液晶、基板検査装置、各種搬送装置など半導体製造周辺での用途は広く大きい。

日本半導体製造装置協会(SEAJ)の調べによると、2014年の半導体とFPDの出荷額は1兆5786億円(前年度比6・9%増)、15年度は1兆6935億円(同7・3%増)と堅調な見通しとなっている。また、SEMIがまとめた14年の世界の半導体製造装置販売額は375億ドルで、13年比18%増と大幅な伸長を見せた。この好調な動きは産業用(FA)コンピュータ/コントローラ各社の売り上げに増に大きく繋がっている。工作機械の好調な動きもプラス効果になっている。日本工作機械工業会(JMTBA)の14年受注額は1兆5094億円(前年比35・0%増)と大幅増になっており、07年の1兆5899億円に次ぐ過去2番目の受注。製造業では、他に化学プラントシステムなどの制御や監視用途でも数多く使われている。

一方、非製造分野では下水道設備や変電設備、風力や太陽光発電などの公共設備の監視制御、電車、船舶、高速道路などの交通システム、放送・通信設備、コールセンターやデータセンターなどの情報端末、医療機器などが主な用途として挙げられる。

一般的に産業用(FA)コンピュータ/コントローラは、工場の製造現場や重要な設備の制御装置など、長期間稼働を停止することができないシステムに利用されることを前提に設計されている。このため、マザーボードや電源などの重要なパーツには、より高い信頼性と耐久性に優れた部品などが使用されている。例えば温度特性もマイナス25℃~プラス60℃ぐらいの範囲に耐え得る設計で、ファンなどの冷却や加温機器などを使用しないでも安定した信頼性を発揮できる設計となっている。また、制御機能も、生産ラインでの一体化処理や並行処理ができることで、処理時間の短縮やスループットの向上が図られている。半導体製造関連装置やFPD(フラットパネルディスプレイ)製造関連装置分野においては、より複雑なプロセスを短時間で高速処理することが求められており、1つの装置に複数の制御コントローラとFA用コンピュータが使用されているケースが多い。

このような場合、最先端のCPUや、メモリー2GBクラス以上のハイスペックな製品が要求される。インターフェイスについても増設コストを少しでも減らすため、豊富なシリアルやUSB、拡張スロットを持つことが要求されている。

拡張スロットは、画像処理ボードやモーションコントロールボード、各種フィールドバスボード、GP/IB通信ボード、AD変換ボードなど、用途別に応じたボードを使用する。シリアルやUSBには、各種ホストコントローラやUPS、計測装置などの周辺装置を接続することが多い。CPUは、インテルなどの最新プロセッサを搭載することで、演算能力やグラフィック機能の性能が大幅にアップするとともに、消費電力の削減にも貢献している。インテルのBay Trailプロセッサを搭載した最新の機種では、演算能力が従来機種の約2倍となり、より高速な演算処理が可能になっている。グラフィック機能も従来の約3倍となり、これまで難しかった高精細の動画再生も容易に実現できるようになり、使用分野の拡大が期待されている。一方、消費電力は従来の約半分になるなど省エネ化が進み、高いバリューパフォーマンスを顧客に提案できるようになっている。

産業用(FA)コンピュータ/コントローラには様々な仕様が要求されるが、中でも最重視されるのが信頼性で、メモリーエラーの検出・訂正などが可能なECCメモリー機能、ハードウェア内部を監視するRAS機能、ハードディスクを切り離すホットスワップ対応ミラーリングディスク機能などがほとんどの製品に搭載されている。

■セキュリティ対策重要
最近はコピー防止機能も重視されている。特に受託開発の分野では、技術が企業外に流出することを防ぐために、ハードとソフト両面でコピー防止を行うケースや不正な形での機密情報の流出・持ち込みを防ぐ取り組みを行っている。同時に制御セキュリティ面での対応も進んでいる。いわゆる「ホワイトリスト制御」である。マルウェア情報を検知する。

「ブラックリスト制御」に対し、動作して良いと判断した「良いもの(ホワイト)リスト」のみを決め、これ以外には動かないように制限を設けるもの。ネットワークと繋がる用途が多い産業用(FA)コンピュータ/コントローラでは、ますます制御セキュリティへの対策が重要になっている。

24時間連続的に稼働する厳しい現場では、「いかにダウンタイムを削減できるか」という点も大きな開発テーマになっている。こうした状況を背景に、最近ではWindowsだけでは難しいリアルタイムな制御を実現するため、リアルタイムOSを併用することが増えている。PLCでは実現できない処理の領域、例えばプロセス処理用の学術計算や、高級言語によるプログラミングなどを実現するため、制御部分はリアルタイムOSで処理、制御以外の部分はWindows OSで処理を行うなど、1台のPCで制御から処理までを行っている。

数年前まで、Windows OSとリアルタイムOSを同時に走らせることは難しかったが、近年はコンピュータの高性能化により、簡単に実現できる。特に最新のプロセッサとリアルタイムOSを有機的に連携することで、リアルタイムによる処理性能も大きく向上、42μ秒で2万ステップの高速処理が可能になっている。ハードウェアだけでなく、ソフトウェアでも長期のサポートを求めるニーズは高い。特に通信分野ではLinux OSの採用が多くなっている。

さらに、複数台のPCや周辺装置、それらを連携する通信部分を、コンパクトに集約することが進み、1台で操作から制御までを可能にし、高効率・高速のマシン制御が行えるようになった。こうしたシステムは、HMIから同期制御、画像処理まで対応でき、装置の小型化や処理能力の向上、保守部品・運用コストの低減など、様々なメリットがある。

自動認識の分野でも、産業用コンピュータ1台で画像処理からモーションの実行、HMI処理まで可能で、Windowsを介入することなく、リアルタイムOS上での高速画像処理が可能になっている。1万分の1秒というリアルタイム化の実現で、タクト時間が要求されるシビアな用途にも対応する。ユーザーのニーズに応じた拡張やカスタマイズも進んでおり、プログラムレスによる画像処理アルゴリズム構築が可能になっている。

産業用(FA)コンピュータ/コントローラでも、HMI端末や生産ラインの情報収集端末として使用される機種は、コンパクトな筐体、ファンレス対応、低コスト化などが著しい。組み込みニーズに対応し、上位サーバからの製造指示を確認し、それに基づく作業内容をPLCや温度調節計などの各種コントローラに指示し、その結果を収集する用途などに使用されている。この場合、端末で複雑なデータ処理をすることは少ない。逆に、信頼性向上への要求度は強く、寿命部品を減らすためのファンレス対応や、Windows XP EmbeddedによるHDDトラブル回避、バッテリユニットによる瞬停対策などが進んでいる。コンパクト形状にUPS(無停電電源)機能を内蔵した機種では、CPUの低消費電力化もあり、停電などがあってもデータを保護・診断して信頼性を確保している。UPSの内蔵化は今後も進みそうだ。言語もPLCなどで主流のラダープログラム世代が少なくなり、再利用性の高いC言語などの高級言語(HLL)世代への世代交代が進んでいる。

■独自技術で差別化
産業用コンピュータメーカー各社は、他社との差別化を図るための独自技術として、汎用アーキテクチャを選択するケースが増えている。GUI構築などについては、HMIソフトウェアなどを導入し、画面の見栄えや、PDFなどのドキュメント閲覧機能、リモートモニタ機能などを構築することで、アプリケーションとしての付加価値を高めている。

国内の産業用(FA)コンピュータ/コントローラ各社は、このところ海外販売に注力し始めている。日本メーカーの海外への生産シフト傾向もあり、海外の日系企業を中心に採用が増えつつある。産業用(FA)コンピュータ/コントローラの特性上、連続稼働を前提としていることから、保守などの体制が重要となってくる。保守は基本センドバック修理で対応している。当然のことながら、海外規格の取得を進めており。UL、CSA、CEをはじめ、韓国のKC、中国のCCC、台湾のBSMIなどへ対応している機種が増加している。

同時に、海外規格モデルでは仕向け先に合わせて、OS言語を選択できるようにしており、英語、中国語、タイ語、ポルトガル語などが多いようだ。

産業用(FA)コンピュータ/コントローラを使用するユーザーの大きな採用ポイントは、長期間の安定した製品供給と保守メンテナンスである。産業用(FA)コンピュータ/コントローラ各社は、5~7年間の長期製品供給、7~12年間の保守メンテナンス対応といった点をアピールしながら、汎用パソコンとの差別化を行っている。

こうした動きの中で産業用(FA)コンピュータ/コントローラのモジュール化をコンセプトにした製品も発売されている。産業用(FA)コンピュータ/コントローラのパネルとコンポーネントを分離し、必要に応じてプロセッサ、メモリなどのコンポーネントを選ぶ。これによって、装置メーカーは、最初に組み込んだパネルをそのまま使用しながら、CPUやネットワークをアップグレードすることが可能になる。長期間同じ装置を使用しながら、アップグレードできるというコンセプトは、今後の産業用(FA)コンピュータ/コントローラにとっては新しい流れになることが予想される。

超高速フィールドネットワークなどへの接続や、タブレットPCなどが製造現場に利用される状況下、産業用(FA)コンピュータ/コントローラも新たな時代に入って来そうだ。

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