重要性増す熱対策機器 電子機器の小型・高集積化が背景 信頼性や寿命にも影響

電子機器の高集積化や小型化で、そこから発生する「熱対策」が重要になっている。高温や極端な低温は電子機器の信頼性や寿命に影響を与える。熱対策の方法は発生する熱の度合いや場所に応じて各種あり、使い分けされている。エネルギーの効率的な活用が求められているだけに、この面からも熱対策が重要性を増している。

制御機器、電子機器などを収納し、屋内や屋外での外部の環境から内部機器を保護するとともに、内部機器への直接接触に対する保護を行うキャビネット、ラックは、工場、事務所、店舗などの設備に必要不可欠なものとなっている。また、IT関連でデータセンター、社会インフラ分野で太陽光発電システムやスマートグリッド機器、FA分野で省エネ関連機器、ホーム分野で分電盤、計測器などに関する投資が増えて、拡大が進んでいる。最近はデータセンターや工場内で、サーバ機器の高集積化、CPUの高性能化による発熱量の増加に伴い、空調設備で消費される電力量が急増しており、温暖化やエネルギー問題を助長することが懸念されている。また、制御盤に収納される機器の小型・高機能化に伴い、小型キャビネットや樹脂ボックスでも内部の高温化が問題になっている。盤やラックシステム内の温度上昇は、電子機器・装置の寿命を短くするばかりでなく誤動作を引き起こす原因になっており、温度上昇によるトラブルを未然に防ぐ熱交換器、ファン、クーラー、ルーバーなどの熱対策機器が求められている。

■屋内用は高温対策が重要
熱対策機器は、工場、オフィス、店舗などの屋内で使用か、屋外で使用されるかで異なってくる。

屋内用の場合、温度障害、結露・高湿度などの問題があるが、最も重要なのは高温対策だ。この対策としては、自然換気、強制換気、強制放熱、強制冷却、局所冷却などが考えられる。

通風型キャビネットでは、自然換気にはルーバー、フィルターカセットなどが、強制換気には盤用換気扇、換気扇付きルーバー、換気扇付きフィルターカセットなどが使われる。密閉型キャビネットの強制放熱には盤用熱交換器が、強制冷却には水冷熱交換器などが、局所冷却には電子クーラーなどが使用される。

また、低温対策としては盤用ヒーターが、湿度対策としては盤用除湿器が、温湿度管理としては盤用温度調節器、可変式湿度センサーなどがある。

■屋外用には遮光板が有効
屋外用も同様で、温度障害、結露・高湿度などの問題があり、高温対策には、自然換気、強制換気、強制放熱、強制冷却、局所冷却などが考えられる。

通風型キャビネットの自然換気には、遮光板付きキャビネット、フード付きルーバーが、密閉型キャビネットの自然換気には遮光板付きキャビネットが、通風型キャビネットの強制換気には換気扇付きルーバーがある。

強制放熱としては、屋外盤用熱交換器が、強制冷却としては屋外用クーラーが用意されている。屋内用と同じく、低温対策としては盤用ヒーターが、湿度対策としては盤用除湿器が、温湿度管理としては盤用温度調節器、可変式湿度センサーなどがある。

こうした対策の効果を実証したデータがある。これによるとキャビネット本体に、直接日射が当たることを防ぎ、キャビネット内の温度上昇を抑える遮光板を付けると、約4℃下がったという。

また、フィルター付きルーバーから外気を吸入し、キャビネット内の熱を換気扇付きルーバーから排気する強制換気タイプの換気扇仕様では約13℃下がり、外気を吸入することなく、キャビネット内の熱を熱交換効率の良いアルミ製放熱ユニットにより放出する密閉放熱タイプの熱交換器仕様では、約11℃下がった。
さらに、外気を吸入することなく高性能ペルチェユニットにより、キャビネット内の熱を放出し、キャビネット内に冷風を送風する密閉冷却タイプの電子クーラー仕様では、冷却能力300Wの電子クーラーユニットで、最大23℃下がるという大きな効果が得られている。

ルーバーは、細長い板を、枠組みに隙間をあけて平行に組んだもので、羽板の取り付け角度によって、風・光・埃などを、選択的に遮断できる。換気扇は、盤内を強制的に換気し、効率の良い熱対策が行える。熱交換器は、密閉状態の盤内の熱を効率的に放熱し、電子装置を熱、埃による障害から守る。

■水冷式クーラーに注目
クーラーについては、様々なタイプのものがあるが、冷媒を使わずに低コスト・省エネ・省メンテナンスを実現した水冷式のものが注目を集めている。

コンプレッサクーラーは、高温の工場環境では使用に限界があるが、水冷式の場合、周囲温度に関係なく安定した冷却が行える。キャビネット内の空気を冷却ファンでラジエーターに送風し、低温空気としてキャビネット内に戻す仕組みで、キャビネット内の熱がラジエーターによって冷却水に伝達され、水と共に外部に移動する。

もともと冷却水を使っている工場だと、水をそのまま使用でき、地下水なども利用できるので省エネ・コストダウンにつながる。地下水を利用する場合、腐食を防ぐため、オールステンレス製のものもあり、長期間にわたって使用できる。

また、クーラーは、制御機器の小型高密度化に対応して、より小型・高効率のタイプが増えている。クーラー自体は専用メーカーのものがよく使用されているが、キャビネット・ラックメーカーでは、FA機器などに特化した小型でCOP(成績係数、冷却能力/消費電力)が高い製品を発売している。

これらクーラーなどの熱対策機器を設置するときの注意としては、熱対策機器をキャビネットに設置する場所は、周囲の壁、その他障害物などから200~300ミリ離さなくてはならない点がある。キャビネット内側の内部機器からも同様に離す必要がある。距離が近いと空気循環が悪くなり、冷却能力が低下する。ファン、フィルター、端子などのメンテナンスが出来る位置に設置することも重要。

設置の際には、空気循環がショートサーキットしないように注意する。ショートサーキットとは、通風を妨げる障害物などにより、熱対策機器の吹出口から出た風がそのまま吸気口に吸い込まれる現象で、これにより盤外側では吸気温度が上昇し、盤内側では吹出口から出た冷風が盤内全体を循環できず、結果として十分な冷却能力が得られなくなる。

盤用クーラーは、密閉型のキャビネットに設置しなければならない。換気口や電線引込口が開いているような密閉性の悪いキャビネットで運転を続けると、冷却能力の低下や結露によるトラブルとなる。また、盤用クーラーの天井取付型は水平に、側面取付型は垂直に取り付ける必要がある。水平、垂直が保たれないとキャビネット内への漏水、コンプレッサの寿命低下など故障の原因になる。

■メンテナンスが不可欠
熱対策機器は、日常点検や定期点検でのメンテナンスが重要。日常点検においては、フィルターの状態を確認し、汚れが目立つ場合は清掃を行う。定期点検においては、ファンモータの異音発生や停止、熱交換フィンの目詰まり、ドレンパイプの目詰まりなどが発生していないか確認し、必要に応じて修理、交換や清掃を行わなければならない。メンテナンスを行わないと冷却能力の低下や故障の原因となる。河川、道路などを監視したり、犯罪を防止したりするため、屋外ではカメラなどの防犯・監視システムが各所に設置され、防災無線、太陽光発電関連の施設もあり、携帯電話の小規模基地局の数も増えている。こうしたシステムに対応する屋外用の熱対策通信キャビネットの市場が着実に拡大している。通信設備の機器は熱に弱く、50~55℃ぐらいの高温になると使用できなくなる。

また、容量の大きな電子クーラー付きのタイプはコスト的に高くなるが、冷却能力が高く需要が伸びている。クーラーは暖房能力もあるため、そのまま寒冷地でも使用できる。屋外用なので防塵・防水・耐風性能なども高い。

今後は屋外の大型スクリーン・広告塔などの映像システム、太陽光発電システムなどの制御機器のキャビネットの需要が見込まれている。

■大規模システムの導入も
IT関連企業などの超大型のデータセンターでは、熱対策がより重要になってくるため、センター全体の空調を効率的に行う大規模な熱対策システムが導入されている。ラック列間の冷却用通路を、ドアや天井パネルで密閉して床下空調の冷気とIT機器からの排熱を物理的に分離し、床下空調の冷気の損失を低減すると共に、ラック内への排熱の回り込みを防止することにより、効率的な空調環境を実現するシステムが開発され、引き合いが増えている。さらにラックの下から空気を取り込み、床下空調の冷風をラックの前面、上部などに送風し、熱溜まりを解消するシステムもある。

今後の熱対策機器の課題としては、効率化すると共に、温度上昇試験、荷重試験、防塵試験などの性能評価試験を重ねて行い、さらに信頼性を高めていく必要が求められている。また、顧客のメーカーの海外進出に合わせて、海外規格の認証取得などグローバル化も欠かせない。特に中国では、現地メーカー、ヨーロッパメーカーが強いが、省エネ・塗装・品質などを重視しているため、高性能の日本製品は採用される余地がある。

熱対策機器を取り入れたキャビネット、ラックは、顧客のニーズに合うように、様々なタイプが考案されており、今後も小型化、高効率化を主要テーマに新製品の開発が進むであろう。

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