私が世界を渡り歩く中で感じてきたのは「中小製造業や町工場」の強みである。今回は、その発祥を江戸時代の歴史から探ってみたい。
江戸時代は士農工商の時代である。江戸の町では、武士と町人の居住区が定められ、農民は地方にしか住めなかった。しかし、工=職人の居住区は不明確で、町にも地方にも職人が住みついた。職住近接と世襲によって腕を磨いた職人によって、都市部にも農村部にも”ものづくり遺伝子”が発祥した。
今日の「中小製造業や町工場」には、江戸時代からの職人遺伝子が流れている。列島津々浦々、熟練工に恵まれたものづくり環境は、歴史の宝物である。地域社会に根を下ろしているローカル製造業の経営者は、地域社会の発展と安定継続を強く望んでいる。世界に類を見ない日本製造業の強みがここにもある。
江戸時代から続く「職住近接と世襲制度」や、地域貢献を願う経営者の思いが、国際競争力の源泉となっていることに気がつく人は少ない。
高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。
2014年3月まで株式会社アマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。