日本版モノづくり革新”Industry4.1J” VEC事務局長兼ソリューションアドバイザー村上正志 (下)

世界中の工場をセキュアにつなげることができるプライベートクラウドを利用したIndustry4.1Jのユースケースを、いくつか挙げてみる。

工場の設備や装置の消耗部品をTBM(時間計画保全)とCBMの両方を組み合わせて、もしくはCBM単独で予知保全を行う。それと設備保全履歴管理データと消耗部品在庫管理データ、要所要所の監視カメラ映像データを時間軸や修繕記録の紐付などの情報で管理することで、消耗部品の生産情報を集めることができる。それらの情報を発注先別に振り分けて、現場の保全作業で使用する消耗部品や交換部品が切れないように生産ベンダーへ発注する。それを受けた部品生産メーカーは、信頼度の高い生産計画が立てられる。それによって、生産そのものの平準度が上がる。また、労働力確保が見えて雇用の安定経営が可能となる。

TBMやCBM技術も統括で見ていくことができるので、各工場単位で分散していた予算を集中させることで、設備保全技術研究も効率的に進められる。

現場の機械や装置、ロボットを納めているベンダーにとっては、現場の機械や装置やロボットのデバイスの状態情報をユーザーとの信頼関係で入手した情報を基に、不具合の調査や故障原因の調査などのリモートサービスを提供するだけでなく、故障診断予知の技術研究や高度制御技術研究につながる情報を入手することができる。さらに、ユーザーが求める生産技術を高める研究が可能となる。

安全操業及び製品品質維持のために、熟練者のノウハウは、データベースにしようと研究されて一定の成果を挙げるまでになったが、非定常の現象は無数にあるため、全てをデータベース化することができていないのが実状である。さらに、それを現場に活かす技術もまだまだ研究の余地が多い。制御装置の故障を診断するために必要なデータを収集する高速故障診断装置やプラントシミュレータを応用した制御の先読みによるオペレーションナビゲーションは、まだまだ研究が必要である。しかし、できている分から現場に活用していくことで更に熟練者のノウハウが活かされる場面は多くなると考えられる。高度制御技術を活かしたプラント制御も、しかりである。

プラント制御のリアルなデータを取り込んで制御要素をシミュレータと比較することや、制御装置の制御演算の周期に同期させて同定モニタを行ったり、オペレータの動きの研究は、扱える情報の範囲と密度で、できたりできなかったりする。プライベートクラウドにIP-VPNでつながることでどこまで可能となるかは課題にもよるが、今まで以上の集中研究が安価で可能となる。

プラントシミュレータの使い方として、メンテナンス管理に活用する課題もあれば、オペレーション監視の課題もある。さらに、プロセス制御の管理を目的とした用途にも活用できる。パイプやタンクやバルブなどに付着するドレーン量を計測するには、実測は難しい。制御反応の制御性時定数がどう変わっているか?
チューニング作業を行った時の制御効率の数値がどう変化しているか?
特定の計測点の値が制御操作変化に対してどう変化しているのかを見ることや、バルブの後に泡ができていたり、ドレーンの付着度合いが判ったりすることで、定期点検の時期を見直すことができる。こういった計装制御エンジニアリングの技術もセキュアな環境でプラントのいろいろなデータを見ることで可能となる。

現場で起きる故障や事故への対処技術は、現場技術の熟練度によって大きく左右されることが多い。ましてやサイバー攻撃によるインシデント対応は、インシデント検知技術そのものが現場にあって、ログ収集機能を持ってデータ再生しても、解析や判断ができる能力を持つ人を現場に配置することは維持コストが大変になる。また、現場の人をインシデント解析ができる人材に教育することも現実問題として難しい。Stuxnetレベルになると警報そのものが怪しくなる。Ransomewareにおいては、アクセス不能ファイルが増えて、警報の洪水になる。Shamoonにおいては、再稼働時に起動しないので操業はできない。DCOMのセキュリティホールへのDOS攻撃であれば、通信のメモリオーバーフローどころか、制御コードが出せなくなるし、受け取れなくなる。制御データも上がってこない。つまり、侵入したマルウェアが動き出したら、安全停止さえできるかどうか分からなくなる。だから、インシデント検知できる段階で分かるようにしなければならないし、侵入してきたマルウェアは封じ込めて動かないようにすることが重要である。その認識がほとんどないと言うのが現実問題である。

だとすれば、インシデント対応の専門知識を持つ計装制御エンジニアを養育して、現場の制御装置をセキュア改善して、サーベイランスシステムをプライベートクラウドの上に構築して、監視体制を実現しておくことも重要検討項目ではないだろうか。

2020年には、東京オリンピック/パラリンピック大会がある。その会場となる施設にも制御装置は多くある。また、その会場に供給されるエネルギーや上下水道施設、通信施設や交通機関も多くかかわっている。ロンドン大会の時も数百万件のサイバー攻撃があった中で、施設の制御監視システムネットワークにつながったコンピュータなどに侵入したワームやマルウェアもあった。ソチ大会もしかり。オリンピック/パラリンピック大会を狙ったサイバー攻撃のレベルも高度化している。アセットオーナーの立場にある設備管理者のサイバー攻撃対策マネージメントを主にしたCSMS(Cyber Security Management System)認証制度が、2014年度に経済産業省の支援により世界に先駆けて実現した。CSMS認証は、IEC62443に対応している認証制度である。世界初のCSMS認証取得企業2社も日本企業である。日本発の世界初となるCSMS認証だ。これも日本の強みの一つである。

それから、VEC会員企業による制御システムセキュリティ対策のビデオE-learning教育システムが2015年度にスタートする。講師は、IEC62443の内容を参考に、14年間の電力業界の制御装置設計システムエンジニア経験と4年間の機械業界の制御構造設計の経験、20年間の事業戦略の仕事をしながら、経済産業省の制御システムセキュリティ検討タスクフォースの委員や日本電気制御機器工業会の制御システムセキュリティ研究会の主査経験を活かし、国内における昨今の重大事故報告書なども知見の一部として、16年間のVEC会員のPA、FA、BA業界の現場コンサル経験を活かした講座内容になっている。

これらの日本の強みを活かしたモノづくり革新“Industry4.1J”を現実のものとするための取り組みは、既に始まっている。

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