操作用スイッチの市場が堅調に拡大している。特に海外市場向けの伸びが高く、全体を底上げしている。日本電気制御機器工業会(NECA)の2014年度(14年4月~15年3月)出荷額は400億円(前年度比4・7%増)になる見込みで、15年度も微増の見通し。製造業を中心に設備投資が堅調に拡大していることに加え、通信、医療、ビル、インフラ関連の投資などから活発な需要となっている。製品傾向も小型・薄型化に加え、省配線化や省工数化、DC機器用高電流対応、デザインなどが重視される傾向にある。インターフェイスを担う機器として、今後も安定した伸びが続きそうだ。
電気が使用される機器・装置には必ず必要となる操作用スイッチは、インターフェイスを担う重要な部品となっている。NECAは、産業用や業務民生機器用を中心に使用されるスイッチの出荷統計をまとめているが、14年度の操作用スイッチ出荷額は、前年度比4・7%増の400億円となる見込みである。国内外とも堅調に拡大しているが、海外向けの輸出の伸びが高く推移している。為替が円安基調で推移していることも追い風になっている。
14年度上期(14年4~9月)の出荷額は、前年同期比105・4%の約200億円。国内は0・9%減の139億円となっているが、輸出が22・9%増の61億円と大きく増加し、その後も輸出の伸びが国内の伸びを上回る形で来ている。
操作用スイッチの統計は、NECA以外でも、電子情報技術産業協会(JEITA)が、家電など民生機器用や車載用などの統計をまとめている。これらの生産を加えると操作用スイッチとしての市場はさらに大きくなる。
操作用スイッチ市場が好調な要因としては、国内外の民間設備投資の拡大が大きい。
■半導体関連が堅調
半導体製造装置とFPD(フラットパネルディスプレイ)の国内出荷額が、14年で1兆5786億円(前年度比6・9%増)、15年度は1兆6935億円(同7・3%増と堅調な見通しとなっており、グローバルでも14年の世界の半導体製造装置販売額が375億ドルで、前年比18%増と大幅な伸長を見せている。
工作機械の14年受注額は1兆5094億円(前年比35・0%増)と大幅増になり、07年に次ぐ史上2番目の受注額を示している。今年に入っても毎月2桁増で推移していることから、15年は過去最高になることが期待されている。
円安基調が続いていることもあり、海外シフトしていた生産を国内に戻す動きも出始めており、新設やリニューアルに向けた設備投資の動きも活発化している。
自動車の生産も国内は増加していないものの、既存の生産ラインが古くなっていることなどから、リニューアル投資に向けた取り組みが検討され始めている。
自動車は、電気や水素、ハイブリッドといった将来の新しいコンセプトに向けて開発を続けているが、こういった周辺インフラ整備の需要も大きい。充電スタンド、水素スタンド、バッテリといった関連需要がスイッチ市場に大きな波及効果を生み出している。
■インフラ関連需要が活発
そして、もうひとつ大きな追い風は、社会インフラ整備に向けた需要だ。
東日本大震災以降、原発が停止し、ソーラーや風力といった自然エネルギーを利用した発電が増えつつある。こうした発電システム周辺でも、操作用スイッチの市場が形成されている。
いま、東京では20年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた鉄道、道路、上下水道、各種施設の新設やリニューアルの投資が継続して行われている。一部の施設はプレオリンピック開催の前年である18年頃までが完成のリミットとしており、集中的な投資が継続する。
ビルや工場も省エネや効率化に向けた設備更新を継続して行っており、これに加え、東北地区の震災からの復興に向けた投資が進められていることから、受配電や制御関連の機器は無限に近い形で必要とされている。
■医療・農業分野に注目
NECAでは、これからの制御機器需要の期待市場として医療機器、農業分野などをウオッチしている。高齢化社会の進展やヘルスケアへの関心の高まりなどもあり、医療機器周辺は次世代の有望産業としての期待が高まっている。介護・福祉機器などとも合わさった形で、操作用スイッチの需要増が見込まれる。
農業分野も、農作業の自動化はもちろんであるが、農業工場として新たな需要が生まれようとしている。コンピュータとセンサを駆使した建物の中から、農作物を生み出す。作っているものは異なっても、製造工場と変わりない農業の新しいスタイルが定着しようとしている。
■使用用途で使い分け
操作用スイッチは、押しボタン、照光式押しボタン、セレクタ、カム、トグル、ロッカー、フット、多方向、デジタル・DIP、シートキーボード、タクティルのほか、イネーブルやセーフティなど安全関連で、多種多様なスイッチが使用用途によって使い分けされている。
こうした中で、小型・薄型・短胴化傾向はほぼ一巡し、現在は安全性、信頼性、保護構造、デザイン性などをポイントに開発が進んでいる。
なかでもデザインと保護構造の進展は著しい。機能を果たせば良いとされていた操作用スイッチであるが、最近は搭載機器とのマッチングを重視する傾向が強まってきている。
スイッチ筐体をメタル調の素材にしたり、本体の色合いを一般的に黒が多い中で、赤や橙といった目立つスイッチも増えている。こうしたデザインはスイッチの機能を果たせば良いという従来の考えから、スイッチも目立たせることで、機器全体のイメージが上がるという設計コンセプトが大きく影響している。目立つスイッチのためにはデザイン性も重視され、機械・装置が稼働していない時のデザイン、稼働している時のデザインといったように、使用している周囲環境に配慮した製品も発売されている。
押しボタンスイッチでは、操作部分の高さを抑えた薄型タイプが浸透している。薄いことによるデザイン性の良さだけでなく、凸凹の少ない操作パネル面は、食品機械や半導体製造装置においてゴミや埃の付着を防ぐとともに、パネル面の突起部分を抑えることで誤操作などの危険性を低くする目的もある。
表示灯とスイッチが一体化した照光式スイッチは、スペース性の良さから操作用スイッチの中で最も使用されているが、ここで使用されるLEDの高輝度化も著しい。LEDは高輝度、長寿命、低消費電力が大きな特徴であるが、特に低消費電力は大きな魅力で、装置全体でスイッチを多数使用する場合、メリットが大きい。高輝度LEDの開発で視認性が向上し、また、少ないLEDチップ数でも輝度を確保できることに伴い、スイッチの薄型化や小型化をさらに進める効果につながっている。
光源はLEDだけでなく、液晶や有機ELなども使用されている。
タクティルスイッチは、プリント基板に直付けし、シートキーボードスイッチやパネルスイッチなどと組み合わせて使用することが多く、特に携帯電話の多機能化に伴い、需要が拡大している。低背化、インチピッチを採用した端子が特徴で、丸洗い可能な密閉構造や照光タイプなどもあり、確実な操作感が得られる。
DIPスイッチやデジタルスイッチは、OA・情報・通信機器などで数多く使用されている。中でもDIPスイッチは、一般的に一度設定するとその後はあまり操作しないことから、接触信頼性の確保が求められる。ナイフエッジ構造などにより、フラックスなどの浸入による接触不良の解消を図るとともに、プリント基板実装後の洗浄もシールテープなしで可能である。
ロッカースイッチは、電源のON・OFFなどによく使われる最も一般的なスイッチ。比較的大電流の入り・切りを行うため、操作時の突入電流による接点やハウジング対策が重要となっている。機器の小型化が進む中で、シーソースイッチの小型化も進んでいる。同時に、屋外や環境の悪いところでの使用に対応して、防塵・防水対策を施した製品も増えている。
ソーラー発電や充電スタンドなどではDC(直流)機器が使用されることが多いことから、DCの高電流対応品の開発も進んでいる。シーソースイッチでDC400Vや600V、さらには1000Vといった高圧なDC機器のスイッチ開閉が必要となる。大きなアークの発生など接点への負荷が大きくスイッチの構造に高度な技術が求められることから、材質や回路設計など、各社が工夫を凝らし開発に取り組んでいる。
トグルスイッチは、IP67相当の保護構造を実現しており、水のかかる用途でも高い信頼性で使用できる。
操作レバーを全面照光式にした製品もあり、暗い場所でもON・OFFが操作レバーの位置で確認できる。一部のトグルスイッチやスライドスイッチでは、スナップアクション方式を採用。クイックな動作で出力の安定を図り、接触信頼性を高めると同時に長寿命化を実現。
多方向スイッチは、1本のレバーで多くの開閉が可能で、細かな操作を行う用途に最適である。
カムスイッチは、多くの回路とノッチが得られるため、複雑な開閉などに対応できる。用途によって操作開閉頻度に大きな差があるため、接触信頼性の確保が最優先で求められている。
フットスイッチは防浸・防水性能が向上しており、水中での使用や医療分野、食品分野でも安心して使用できる。安全操作の面でも、同時にBluetoothなどを使用したワイヤレスタイプは、配線がないことで、医療現場などたくさんの機器が使用されている中で、ケーブルがあることによるトラブルを防ぐことができる。
■技術蓄積して差別化
操作用スイッチは、プラグラマブル表示器などと一部で競合する面もあるが、操作がメカニカル動作であることなどから確実性が高いとして、安定した採用が継続している。海外メーカーとの競争も激しいが、高輝度化、接触信頼性、操作感触など、各社が特徴を発揮しながら差別化に取り組んでいる。円高対応で海外生産を強めていたメーカーが多いが、地産地消も考慮しながら、最適地生産と国内での集中生産のバランスを見ながら戦略を進めている。
成熟市場と言われながらも、電気の用途拡大と共に新市場は生まれるだけに、技術蓄積を進めながらそれに備えた開発が必要となる。