2.無線ネットワーク(wireless network)産業
(1)無線ネットワーク市場動向
2013年の国内ネットワーク市場は約1.6兆円で、無線ネットワーク関連は約800億円となっており、まだ6%であるが、イーサネットスイッチと共に最近の伸びは他を圧倒している。M2Mネットワークなどの世界も間違いなく無線化の方向に向かっている。(図12)
携帯電話やタブレット端末などのモバイル機器は屋内で用いることが多く、壁や備品のある空間対応や自動車などの電気ノイズに対応しなければならない。これに向いているのが、700Mヘルツ~900Mヘルツを用いる無線である。NTTは900Mバンドでビルの12階を超えての通話に成功したと発表した。日本ではプラチナバンドといっており、すでに800M~900M帯は許可されていて、2015年には700Mも許可される。
3.ZigBee関連産業
(1)ZigBeeとは?
ミツバチ(Bee)は蜜が取れる花を見つけた時に巣にサンプルを持ち帰り、尻をジグザグ(Zigzag)に振って花のある方向と距離を仲間に知らせる。ZigBee無線で構築するセンサーネットワークは、ものすごい数の働きバチが伝達する様になぞられている。
2002年にカリフォルニアのNPO:ZigBee Allianceが世界の近距離無線ネットワークに興味のある企業を会員にして、国際仕様をつくり、2005年に公表して開発が始まった。仕様のコンセプトは、LSIの単価は2ドル、単三電池3個で数年動作の省電力、接続ノード数は限りなく多く、標準暗号内蔵オプションなどであった。
当初はセンサーネットワークやスマートハウスがターゲット市場であったが、屋内什器対応、ビルや施設内PAN構築などの要求から700M~900M帯のプラチナバンドが許可され、通信距離も数100メートルと伸び、スマートメーター、センサーネットワーク接続の各種センサー、タイマー/スイッチ、LED機器などの標準無線インタフェースになってきた。
しかし日本での許可は遅く、2013年である。ただ欧米の800M帯ZigBee内蔵のスマートメーターやセンサーは日本製が多い。
(2)ZigBeeの市場
最も市場性のある920Mヘルツの認可が遅れた日本のZigBee市場ターゲットは、国内と中国市場のスマートシティ市場である。世界市場は2011年≒2兆円、2020年予測≒8兆円(このうちスマートメーター約1兆1500億円)と大きく成長している。これはZigBeeデバイスの市場であるが、関連サービス市場は2020年に約200兆円と膨大である。(図14)
また、高齢者の見守りに極少電力ZigBeeをウェアラブル化した発信機を用いるなどの福祉・介護サービス市場にも注力したい。
(3)ZigBee無線(電波)とは
ZigBeeはSS(Spread Spectrum)無線方式といい、キャリア周波数をフーリエ展開により拡散させ空間の電波ノイズレベルの無線強度でも通信できる優れもので、ZigBeeだけでなく、無線LAN、NFC、CDMAなどもすべてこのSS方式である。図15は防害電波をこの拡散法で除去したイメージ図である。CDMAなどもすべてこのSS方式である。
(4)ZigBeeは省電力無線
ZigBeeデバイスのスリープ機能で、送信時と受信時は20mA~30mAで、これ以外の通電中は10分の1強の1.6mAで、さらに同時間程度のSleep時間があり1μAという微小電流で通信を安定させている。送受信時間は通常の無線通信の約50%である。しかも送受信時の電力も他の無線通信より極端に小さい。従って通信モデルも工夫され、Skyley Support Wikiと言われている。
・送りっぱなし(受信確認なし)。
・相手に届いたかわからない。
・パケット単位での送受信:1パケット=127バイト
・パケット内のデータの一部がビット化けしないのでチェックサムがいらない。
(5)ZigBee無線PAN(Personal Area Network) ZigBeeの物理デバイスはFFD(Full-Function Device)とRD(Reduced-Function Device)の2種類、論理デバイスは3種類あり、スター、メッシュ、ツリーのネットワークを構築する。(図16)
・ZigBeeコーディネータ(FFD):PAN立ち上がり、PANセキュリティ/認証などの全ノード管理機能を持ち、PANに一つ存在する。
・ZigBeeエンドデバイス(RFD):ルータ、コーディネータと接続不可であり、端末のスリープも出来る。
・ZigBeeルータ(FFD):コーディネータと同じ機能だが、PAN構築の子ノード経路選択(ルーティング)機能に特化し、経路選択アルゴリズムはAODV(Ad hoc On-Demand Distance Vector)である。 4.無線USB(Wireless USB)産業 USBの無線化市場が大きく期待されていたが、ローカル製品ばかりで低迷した。2004年2月に無線USB(WUSB)規格を策定するための推進団体としてWireless USB Promoter Groupeが発足した。同グループは、LSIコーポレーション、ヒューレット・パッカード(HP)、インテル、マイクロソフト、日本電気、フィリップス、サムスン電子など。
ホスト、デバイス間の初期接続手順に標準化で難航し、公開されたのは2006年3月であった。仕様の概要は、(1)480Mbpsで約3m、110Mbpsで約10m、127台の伝送(2)S/N向上のための繰り返し送受信機能である。
5.光(Light、Optical)産業
(1)光(産業)の市場
2012年度の光産業の出荷額は約15兆7000億円(国内生産分は約8兆円)で、2013年度は微増であった。図19は光産業分野別市場動向(光産業振興協会:http://www.oitda.or.jp)である。特に我が国で光産業分野を重視している東北のプロジェクト“TOHOKUものづくりコリドー(回廊)仙台”(http://san-cluster.icr-eq.co.jp/index.html)に注視したい。
(2)太陽光発電市場
福島の原発が津波でほぼ全壊した。これをきっかけに日本の太陽光発電量はドイツ、米国を抜き世界一になった。2012年は約110億ドル(約14%/世界≒800億ドル)、2013年は約200億ドル(24%/世界≒830億ドル)である。2012~2013年の日本の伸びは8.2%あったが、世界はヨーロッパや中国市場の落ち込みなどで4%に満たなかった。しかし太陽光発電設備費用は約60万円/1kWで高止まり、ドイツの3倍である。これは技術の差ではなく、設備規模の差(日本は10kW規模で、ドイツは100kW規模)である。
(3)太陽電池(ソーラセル)
太陽電池の材料は図20のようにシリコン半導体が10~15%と主流であるが、発電効率が40%強の可能性があり、最近量産化されてきたガリウムやヒ素、カドミウムなどの化合物系と低コスト化が見込める有機系が将来有望である。
太陽電池の原理は、P型半導体(+荷電)とN型半導体(荷電)の接合面に光があたると、発光する発光ダイオードと逆に電流が流れる。
(4)FTTH(Fiber To The Home)一時代前まで注目された宅内ブロードバンド光ファイバ通信サービスで、ISDNやADSLに代わって普及すると言われていた。2014年になっても、電話網経由のインターネットと放送網は充実したが、FTTHは世界的にもほとんど普及していない。爆発的に普及したスマホ(ネットワーク)のWi-Fiでの画像、家電操作と核家族が進んだ現状では宅内ネットワークは必要がなく、大きな誤算だったといえる。
(5)可視光線通信
LED機器の普及により宅内ネットワークとして注目されたのが可視光線通信(ネットワーク)である。FTTHの一つとして普及すると考えられたが、普及しなかった。しかしLEDの高機能変調や3色分割変調、5Mbps~数100Mbps程度の高信頼性通信、省電力、長寿命などは道路交通情報&指示、中規模ネットワーク、最先端広告“デジタルサイネージ”などに用いられている。LEDの赤外線、紫外線発光はさらに多くの光通信に大きな進化を期待できる。
(6)光の色を変換するプラステック
光の色を変えることができるプラステックは2013年8月に京都大学で発見された。光の屈折、干渉、分光など光の色(波長)は変化していなかった。光の色を変えることができれば、肌に悪い紫外線の遮断、作物栽培に最適な光に変更することによる大幅な増産、光伝送の低雑音化による長距離、高品質通信などの可能性が見えて来た。(つづく)
松本重治(まつもと・しげはる)=FAラボ代表。
1941年8月24日生まれ。1966年3月電気通信大学卒。
1971年東京アプリケーションを設立し社長就任。81年アマダに入社し、研究部長、常務取締役を歴任。96年山洋電気執行役員コントロール事業部長、2003年光洋電子工業顧問。10年FAラボ設立。
モータ/モーション制御、およびコンピュータ技術に精通し、近接センサやUSBネットワークなどの特許35件を取得している。