不二電機工業みなみ草津工場に見る 景気や政情に左右されない”ものづくり” 「日本でしかできない」を徹底

ロボット導入自動化ライン ※企業秘密も含むため遠景にて撮影
ロボット導入自動化ライン
※企業秘密も含むため遠景にて撮影
製造業の国内回帰が進んでいると言われている。要因として「円安」「新興国の人件費高騰」「品質維持」などが挙げられるが、実感がわかないという人も多いのではないだろうか。そこで、実際に国内に積極投資を行っている不二電機工業みなみ草津工場(滋賀県草津市)を取材した。

同社は2014年に東証一部上場(指定替)を果たし、「品質(Quality)」「価格(Cost)」「納期(Delivery Time)」という、一見相反する要素を国内投資により、高い次元で達成できているという。主力製品は電力、鉄道など重要インフラ向けのスイッチ、リレー、表示器など。万が一の故障による社会的影響が大きいため、製品には非常に高い信頼性が求められる。同時に、生産ロットが少なく、多品種少量になりがちなため、従来は自動化による作りこみが難しく、手作業に頼らざるを得なかった。

■新興国に工場持たず
手作業が多いと、人件費が安い新興国で製造した方が良いと思われがちだが、同社は新興国には工場を持たず、国内生産を主力としている。小西正社長に理由を聞くと「中国などの新興国で作らない」のではなく、「日本でしか作れない」製品が多数あるからだという。

前述の通り、同社の製品は非常に高い信頼性が求められる。実績がある同社製品とはいえ、形がある以上、いつかは破損してしまう。

藤居和義上席執行役員・みなみ草津工場長によると、同社では大手電力会社などと「どうすれば安全な製品ができるか」「どうすれば良くなるか」を徹底的に話し合い、ユーザー、開発、製造現場が協力しながら現在の製品を一緒に作り上げてきたという。

工場が海外にあったのでは、このように改善を繰り返しながら一緒になって作り上げるようなことはまずできない。品質の維持管理上からも高度な技術が要求されるため、「国内でしか作れない」のだという。

■作業現場がきれい
工場を見学した印象は「作業現場が非常にきれい」に尽きる。組立工程、検査、調整工程は、工具、部品、半製品がきれいに並べられ、作業がしやすい状態に維持されている。驚いたことに、成形工程にいたってもごみや油が全く落ちていない。通常ペレット(樹脂原料)や、切り落とされたランナーなどが多少は落ちているものだが、隅まで見渡しても一切見あたらない。

小西社長は「工場はもちろん、事務所や通路まで清掃を徹底している」と言う。きれいにしているからこそ、高い品質と高い生産効率が維持できるという。ものづくりにおいてはよく言われることではあるが、ここまで徹底している企業は極めて少ないと思われる。

高い品質を維持するための、自動化を中心とした設備・人的投資も積極的だ。樹脂成型においては、温度、湿度、原料、金型の状態などにより、装置の微妙な調整が必要とされる。協力企業を含めた金型の設計力はもちろん、成形機のオペレーションにも高い技術が必要である。同社では金型管理と成形機の稼働状態管理を、この道数十年の技術者2人を迎えることで実現している。成形機の自動運転はもちろん、取り出しロボットとストッカーを併設することで、長時間の無人運転も実現。

■安定供給とコスト削減
また、樹脂成型品自体を内製化することで、需要の変動に伴っての生産調整が柔軟にできるようになるとともに、自社で責任をもった安定供給とコストダウンも実現している。ランナーレス方式の金型を活用することで、原材料の無駄も同時になくしているという。

さらに、不具合の原因となる製品へのごみ混入の可能性を少しでも排除するために、組み立て、検査、調整などの工程はクリーンルーム内で行われている。

特に高いクリーン度が求められる接点カシメなどの工程は、さらに局所クリーンブースを運用している。協力企業から納入された際の通い箱なども、クリーンルーム専用のものに乗せ換える必要があるため、当初は現場の反対もあったというが、今では現場の理解も得られ、当たり前の作業として行われているという。

■FA化へ積極取り組み
FA化への取り組みも積極的に推進している。例えば、ユニットレベルの自動組み立てはもちろん、複雑な製品本体の組み立てから、性能、仕様検査までを自動化するセル生産ロボットを導入し、1ラインで20機種もの生産に対応。もちろん装置は完全オリジナル。ロボット設備に強い装置メーカーと共同開発を行い、世界で1台しかない設備を稼働させている。

製造業においては、「コスト」の視点が注目されすぎ、「人件費」「為替」の影響による生産拠点の移転がメディアをにぎわせてきた。今後はそのような短期的な視点ではなく、小西社長の言う「日本でしかできない」ものづくりを徹底的に磨きあげ、新興国の景気や政情に左右されない「ものづくり」を始めるタイミングにきているのかもしれない。

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