6.放射能(RadioWave)産業
放射線産業は、エネルギー(現在はほとんど原子力発電)と医学や工業、農業業界などへの放射線(能)応用で、両者の経済規模は同程度(図21)であるが、拡大傾向にある。潜在的な関連産業はさらに多く、重要産業である。しかし安全、安心及び廃棄時の膨大な費用(コスト)対策が必須となっている。
日本人は原爆投下、ビキニ環礁被爆、福島の原子力発電所事故で放射線恐怖症が染みついていて、2013年の日本の原子力発電はゼロであるが、間違いなく放射線関連産業は日本に向いている。
【放射線応用産業例】
(工業):耐熱電線や強化タイヤ(ラジアルタイヤ)や高温状態やテッシュなどの困難な測定など。
(農業):ほぞの殺菌、殺虫、発芽止や保存期間の長期化、農薬減などを人体への影響なしに可能。
(生活):蛍光灯のグローランプ、煙探知機、発光塗料や風呂マットなど。
(減菌):加熱や有毒ガスを使用しない減菌で医療機器などの減菌に最適。
7.ワイヤレス給電(WirelessPower)
(1)ワイヤレス給電とは
ワイヤレス給電には次の3つの方法がある。特に共鳴(磁界or電界)方式が、高効率で大容量給電のため注目されている。
・電磁誘導方式:コイルとコイルを空芯や鉄心経由で磁気結合(トランス)して信号や電力を伝送する。
空芯は磁気抵抗が大きいので距離の二乗に反比例し、減衰する。したがって、接触から数ミリと実用範囲が短いが、安定しているので、無線信号伝達に良く用いられる。
・電波方式:電磁誘導方式に比べて距離による減衰は一乗に反比例で少ないが、全方向伝達による低効率伝達やアンテナなどの問題で電力伝送には向かない。
・共鳴(磁界or電界)方式:2006年にマサチューセッツのMarin Soljacsis博士が「大電力を数メートル以上高効率で伝送できる」と発表し、2007年には2メートルの60W送電に成功した。
日本では2009年にソニーが50センチの60W送電に成功し、2011年6月には長野日本無線が自動車バッテリの無線充電用に30センチで1kWを高効率(60~88%)で成功した。
(2)ワイヤレス給電がM2M市場を牽引
ワイヤレス給電は個人所有のスマートフォンとM2M(Machine to Machine)センサーの急激な普及によって市場が急拡大し、ワイヤレス給電市場は急伸している。
小電力無線給電はスマートフォンの爆発的な普及により、駅構内、コーヒーショップ、ファストフード店で無線充電コーナーとして2013年後半から産業化されてきた。(図22)
Ⅲ近距離無線
1.近距離無線(NFC/NearFieldCommnication)とは?
広義には到達距離の短い無線通信のことで、狭義には近距離場型の無線通信でWi-SUN(ZigBeeベースの国際規格)、Bluetooth、無線LAN(Wi-Fi)などがある。通信エリアは数センチからおよそ10メートル(無線LANの到達距離は条件により300メートルにもなり近距離無線に入れない人もいる)程度で、非接触無線と呼ばれる。Felica、ISO/IEC(MIFARE)、ISO/IEC18092などがある。
2.近距離無線を使用するメリット
☆かざすという簡単な操作で利用可能。
☆応答速度が速くリードタイムや工数の削減ができる。
☆非接触のため摩耗による製品故障が少ない。
☆ICカードの規格(Felica、MIFAREなど)に依存しない通信規格でのアプリケーション構築が可能。
☆磁気カードやプラスチックカードの窓口認証端末から認証サーバに直結でき、セキュリティの認証が強化される。
3.近距離無線技術の比較
DSRC(Dedicated Short Range Communication):距離に対する厳密な規定(郵政省)はないが、近距離無線、無線PANは10メートル~20メートルの範囲をいう場合が多い。無線基地局と車載機間のカーナビ・ETC(Eletronic Toilcollection System)などの5.8MHz帯の小電力、簡易無線システムなど出力が1W(日本の場合)までで免許の必要はない。また0.01W以下の無線通信を小電力データ通信という。カーナビのITSスポット通信(図23)などがある。
4.各種近距離無線の特徴と用途
(1)NFCとFelica
ICカードやタグは端末に直接かざして用いるので、安全確実性の必須なSuica、電子マネー(Felica/ソニーなど)はNFCをベースにしているが、暗号化による認証や決済のセキュリティとスピードは国際規格のNFCに比べてFelicaが圧倒的に優れている。(図24)
SuicaやPasmo(Felica準拠)の改札認証処理速度は0.1~0.2秒。ロンドン、モスクワの交通機関で用いられている改札認証処理速度は1秒前後。
FelicaはセキュリティもスピードもNFC比べてはるかに優れているが、NFCが原則公開に対して非公開部分が多く、国際規格になれない。
(2)Bluetooth
免許なしに自由に使える無線で、10メートル以内ならば障害物があっても通信可。携帯電話、スマホ、周辺機器などで機器間接続する。約6.5平方センチで赤外線通信(IrDA/Infrared DATA Association)より消費電力、価格ともに低い。
(3)ZigBee(Wi‐SUN)
日本では920M及び2.4Gが許可(要技術適合証明)されている。スリープ時の待機電力が極端に少なく(軍事設置用に開発された)復帰時間が短い。また中継機能がある。
(4)無線LAN
現在はWi‐Fiと無線LANは同義語である。無線通信を利用してデータの送受信を行うLANシステムのことで、ワイヤレスLAN(Wireless LAN、WaveLAN)、もしくはそれを略してWLANともいう。
最近では、無線LANは、パソコンやスマートフォン、タブレットなどの機器をワイヤレスでインターネットに接続するための環境作りが多い。
Ⅳ
近距離無線市場
1.近距離無線関連サービス市場動向…
NFC導入により拡大が見込まれるサービス
国内の非接触ICカードはこれまではほぼFelicaが採用されており、公共交通機関利用を中心に発達してきている。
特に電子マネーは公共交通に加え、コンビニエンスストアや小売店、アミューズメント施設などの多くの小売店舗や娯楽施設で決済可能となっている。
Felicaは高セキュリティと処理能力の高さを特徴としている一方で、高コストであることも問題視されてきたが、今後TypeA、TypeBの導入によりコスト低減による市場拡大が期待される。(図25)
TypeA、TypeBについては世界標準規格であることから、サービス範囲が拡大され、ユーザーの使い勝手の向上も期待されている。主な拡大サービスとしては国際クレジットサービス、スマートポスター(データ通信型広告)、身分証明書(住民基本台帳、IC運転免許証、ICパスポート)などがある。
2.M2M向け無線モジュールの世界市場
世界のM2M向け(近距離)無線モジュール市場は、2020年には980億円で、出荷台数は、4295万台になると予測される。(図26)
HEMSをはじめとするエネルギー監視分野での伸長が市場を牽引する。東京電力による低圧顧客向けスマートメーターの導入が2014年より本格化。
エネルギー監視分野の無線モジュール市場は、2020年に444.7億円となり、2013年(80.7億円)から5倍近い規模になる。エネルギー監視分野の無線モジュール市場が国内の全無線モジュール市場に占める割合は、2020年には45%と半分近くになる見込み。
セキュリティ分野では、2020年の東京オリンピックに向けて施設の建設が本格化するのに合わせて、セキュリティシステム、商業施設監視システムなどの需要が増加する。介護・ヘルスケア分野では、高齢者人口の増加により、見守りシステム、緊急通報装置の需要増が見込める。
(おわり)
松本重治(まつもと・しげはる)=FAラボ代表。
1941年8月24日生まれ。1966年3月電気通信大学卒。
1971年東京アプリケーションを設立し社長就任。81年アマダに入社し、研究部長、常務取締役を歴任。96年山洋電気執行役員コントロール事業部長、2003年光洋電子工業顧問。10年FAラボ設立。
モータ/モーション制御、およびコンピュータ技術に精通し、近接センサやUSBネットワークなどの特許35件を取得している。