流通業界の巨人、アマゾンが日本市場で産業用資材や研究開発用品などの通信販売に参入。6月末から「産業・研究開発用品ストア」をオープンした。ネット通販大手の参入で、製造現場で使われる装置部品などの間接資材(最終製品になる部品・材料以外)の流通構造が大きく変わる可能性が出てきた。製造業の製販需では、その動向を注視している。
ネット通販大手のアマゾンジャパン(東京都目黒区下目黒1-8-1、TEL0120-999-373、ジャスパー・チャン社長)が6月29日、産業用資材や研究開発用品など間接資材の取り扱いを開始した。すでにアメリカでは2012年に「アマゾンサプライ」としてサービスを提供し、今年4月には「アマゾンビジネス」として代理店にも適したプラットフォームを構築。法人向けビジネスの強化を進めている。
アマゾンジャパンでは以前から間接資材を取り扱ってきたが、顧客からの要望の高まりを受け、このほど同ストアをオープン。企業や教育・研究機関など幅広い法人ニーズに応えていくとしている。
これまで製造現場向け間接資材は、一部の直販専門メーカー製品を除き、メーカーの販売店・代理店から購入する場合が主流だった。電子部品商社、制御機器商社、機械工具商社、電設資材商社、計測機器商社、といったように製品ジャンルごとの専門商社による棲み分けが存在し、商社は製造業の設備投資と連動して売り上げを伸ばしてきた。
こうした中1998年2月、英国に本社を置く産業機器通販大手のRSコンポーネンツが日本市場でも事業を開始、大きな話題を集めた。その後、2000年にMonotaRO(モノタロウ)が、10年にミスミがメーカーブランド品の「VONA」を、さらに、12年には事務用品の通販で業績を伸ばしてきたアスクルも「現場のチカラ」カタログを発行して販売を開始し、間接材事業に再び本格参入。「価格」「納期」「品ぞろえ」を武器に法人向け販売を強化して、消耗品や選定サポートの必要がない部品を中心に業績を急激に伸ばしてきている。今回そこにネット通販最大手のアマゾンが参入してきたという構図になる。
アマゾンの産業機器ネット通販参入に対し、専門商社も「提案力強化」や「商材の多角化」「エンジニアリング部門の強化」など、元々持っていた強みを磨きながら対応。インターネットを使った受発注の効率化や、自社でもネット通販サイトを運営するなど、顧客開拓を進めている。東京・秋葉原では、商社間の共同配送を実施することで、在庫の効率活用と配送コスト削減と人員の有効活用、などを目指している。産業機器での通販増加は、「既存商社VSネット通販」の対立構造かというと、実はそうとも限られていない。ネット通販各社はそれぞれビジネスモデルが異なり、既存の流通に対するスタンスも違っている。
アマゾンジャパンは、メーカー・商社にアマゾンの仕組みを提供するプラットフォームビジネスと、自社で仕入れ・販売をするビジネスの両輪を基本としている。メーカー・商社は、同社のプラットフォームを利用することで、月間4000万人が訪れるというアマゾンの圧倒的な知名度とアクセスを有効活用でき、販路の拡大を見込める。
また、アスクルは「エージェント制度」と呼ぶ独自のビジネスモデルを構築。カタログ発送、受注、配送、問い合わせ対応などはアスクルが行い、新規顧客開拓、債権管理、代金回収は全国1400社のエージェント(販売店)が行う。流通にとって必要不可欠な機能を、エージェントと分担することで、流通システムの簡素化を実現している。
一方、モノタロウは既存の「購買活動の無駄」をなくすことにこだわる。取り扱い製品数の強化とビックデータを活用し、「よい製品を適正価格で届け」「購買活動に関する工数を削減する」ことで顧客に利便性を提供している。
ミスミはVONAブランドのラインアップ強化はもちろん、タッチパネル、モーションコントローラをはじめとした自社ブランド製品のラインアップも強化、さらに受注製作品も標準納期2日目に出荷するなど、メーカーとしての強みを磨いている。
通販会社のこうした展開に対し、専門商社の立場も複雑だ。例えば販売価格の設定で、通販会社は一部を除いて全般的に高めに設定している。通販の特徴の一つは納期が速いことで、多少高い価格でもすぐに入手できることで、機械などのダウンタイム短縮や、販売機会損失を防げることになる。産業機器メーカーや1次卸の販売店にとっても、これらの専門商社との価格競争が抑えられ、通販と共存していく道も開ける。一部の専門商社ではユーザーからの少量の注文を通販から調達するといったケースも起こっている。
流通に新たなプレイヤーが参入してくることで、産業機器メーカーにとっては販売ルートの多様化、ユーザーにとっては製品購買方法の選択肢が増えるというメリットが生まれ、さらには価格や納期などが分かりやすくなったと歓迎の声も聞こえる。日本の商流は海外から難しいという声が従来から聞かれていたが、アマゾンの日本市場参入はこうした課題解消につながるのか、国内製造業の成熟化と海外市場の拡大とも絡み、大きなうねりとなってきそうだ。