汎用インバーターは、国内外の省エネや新エネルギー・再生可能エネルギー活用に向けた強力な取り組み気運を背景に堅調な需要を見せている。今年4月からのモータのトップランナー基準の適用開始も加わり、インバーターと一体となって使われることが多いことで、さらに需要増が加速している。一方、省エネ化という効果と高調波対策が不要であることからマトリックスコンバータも評価を高めている。製品は使いやすさの向上を基本に、小型化や操作性の向上、用途専用機種の開発などに加え、モータの高効率規制とも歩調を合わせた開発を進めており、今後も安定した伸長が続きそうだ。
■円安進展で輸出好調
直流電流を交流電流に変換することができるインバーターは、モータの最適化ができる装置として利用されている。
汎用インバーターの市場は、経済産業省の機械統計をベースにまとめている日本電機工業会(JEMA)の生産統計によると、2014年度実績は612億円と、前年度91・1%となっている。15年度の生産見通しは、同104・0%の636億円としている。今年1月~5月の出荷額は298億円、前年同期比106・1%と見通しを2・1ポイント上回っている。国内は前年を下回っているが、輸出は116・1%の2桁の伸びと好調を維持している。経済産業省機械統計のその他インバーターも加えた14年の生産額は1394億円で、前年比112・5%の2桁伸長となっている。
省エネニーズに対応して、ビルや空調のリニューアル化が各方面で進んでいる。電力消費におけるモータの占める割合は非常に高く、国内の電力消費の半分と言われている。逆に言えば、モータの電力消費をいかに削減するかで大きな省エネ効果が生まれる。インバーターはこのニーズを背景に需要を拡大している。モータへのインバーター装着率は年々上昇し、現在は30%程度にまで高まっている。誘導モーター(IM)や同期モーター(PM)にインバーターを装着することで、インバーターが自動的に最大効率運転を行ってくれるという省エネ・省力化などの効果が、徐々に評価・浸透しつつある結果といえる。モータの高効率化規制は海外で先行して進められて来たが、日本でも今年4月から「エネルギー使用の合理化に関する法律(省エネ法)」でトップランナー基準が設けられ、IE3規制が開始された。IEC60034-30では、モータの効率クラスが規定され、効率の低い順に、IE1(標準効率)、IE2(高効率)、IE3(プレミアム効率)、IE4(スーパープレミアム効率)となっている。日本は今まで、電圧幅や電流サイクルの違い、特注品モータの使用比率が海外に比べ高いことなどから、こうした高効率モータの採用が法的にも遅れていた。高効率モータとインバーターを組み合わせることでさらなる省エネ効果が期待できる。
省エネ化需要に加え、インバーター需要を大きく牽引してきた再生可能エネルギーに絡んだPV(太陽光発電)システムによるPCS(パワーコンディショナー)も大きな波及効果を生み出している。PV電力の買い取り価格の低下や、電力会社の買い取り制限などもあり、一時に比べPCSの需要は落ち着きを見せているものの、まだ着工していない、いわゆるメガソーラーが相当数残っていることに加え、家庭用PVは制約がないことから今後も継続した需要が見込める。
PVだけでなく、再生可能エネルギーは、発電する電力が不安定になるのが課題で、インバーターはそれを安定した交流電力に変換するという役割も果たしている。PV、風力、地熱など再生可能エネルギーの利用拡大、さらには送電の最適化など、インバーターの果たす役割はこの先ますます大きくなりそうだ。
さらに、為替の円安進展で輸出環境は大きく変化しており、追い風になっている。中国をはじめとしたアジア市場は懸念材料を抱えながらも比較的堅調に推移しており、加えて米国市場の好調、欧州市場の回復基調などから、総じて明るい状況が生まれている。
最近のインバーターは、性能の向上とともに誰でも扱える操作の簡便性や小型・軽量化、低騒音化、安全性、ネットワーク対応があげられ、使い易さと省エネ性の向上が重視されている。
周波数やパラメーター設定がジョグダイヤル式コントローラーを回すだけでできる機種が一般化しているが、一方でこうした複雑で面倒なパラメーター設定を不要にしようと、ファン、ポンプ、コンベア、昇降機などの用途を選択するだけで、自動的に最適なパラメーターに設定できる製品もある。また、配線を簡単にするための着脱式制御端子台の採用も一般的になっているが、最近はパラメーターバックアップ機能付きの端子台を採用する製品もあり、ユニット交換時に制御配線とパラメーター設定が不要になることで、作業工数が従来品比で約5分の1になるといわれ、メンテナンスの省力化などに大きくつながる。端子台も、日本はねじ式が一般的であったが、最近は欧州方式と言われている圧着端子を使わないスプリング式が増えている。
インバーター各社とも良好なトルク特性をアピールしており、短時間最大トルクを3・7kW以下で、駆動周波数1Hz150%から0・5Hz200%が増えている。短時間過負荷耐量も200%で0・5秒から3秒にアップさせ、過電流トリップになりにくくねばり強い運転を可能にしている。しかし、こうしたなかで過負荷定格を、軽負荷と重負荷に分けることで定格出力電流を調整し、最大適用モータ容量の拡大によるインバーターサイズの小型化を可能にしている。
インバーターとモータの関係も変化している。インバーターで駆動するモータも、標準三相モータ、高性能省エネモータ、回転子に強力な磁石を埋め込んだIPMモータなどがある。特に、永久磁石埋め込み形同期モータ(IPM)や表面永久磁石形同期モータ(SPM)を使った製品が市場に投入されてきており、誘導モータに比べ7~10%効率が良くなるといわれている。しかし従来、こうした高効率モータの駆動には専用のアンプが必要であったが、これをインバーターのアンプを使い、誘導モータと同期モータのどちらでも駆動できるインバーターが各社から発売され始めた。設定の切り替えで両方のモータに対応できることで、インバーターが1台で済み、導入にあたっても予算に応じてモータを段階的に購入していくことも可能になる。チューニングの技術も進んでいる。
■省エネ効果が一目瞭然
省電力率、省電力量、省電力平均値などの省エネ関係の数値が、インバーターの操作パネル上のほか、出力端子やネットワーク経由でも確認でき、省エネの効果が一目瞭然となる。設備メンテナンスの点から、モータ累積運転時間やインバーターの運転・停止などの起動回数を自動的に積算できる機能を内蔵している。インバーターは、セットメーカーの機械に組み込まれて海外で利用されることも多いが、制御ロジックのシンク/ソースの切り替えができ、グローバル対応が可能な機種も数社から発売されている。
小型・軽量という面では、盤や機械の省スペース化に対応した小型機種が、各社から豊富にラインアップされている。
シンプル構造の名刺サイズのものもあり、スピードコントローラーの置き換え需要としての搬送用途などが増加している。異なる容量でも高さ・寸法を統一することにより、盤内のレイアウトの容易さを図った機種や、取り付け場所に合わせて「サイド・バイ・サイド」で密着して取り付け設置が可能な製品も一般化している。
需要が拡大している空調用途では、不可欠である力率改善DCリアクトルや零相リアクトルと容量性フィルターを一つのユニットにしてフィルターパック化して標準で装備し、配線工数と配線数の削減、省スペース化の実現を図っている機種もある。特に今後の期待市場である海外向けでは、グローバルスタンダードともいえる縦長スリム形状で、保護構造を重視した機種開発を進める傾向が強い。
ユーザープログラム機能を搭載したオプションカードや、簡易PLC機能を内蔵することで、パソコンを使ってインバーターのカスタマイズ化が図れる製品も登場し注目されている。インバーターを含めた、機械・装置の付加価値向上と周辺機器の簡略化にもつながる。
最近は、USBコネクタをインターフェイスに採用したインバーターが増えている。パソコンからインバーターのセットアップソフトウェアを起動させて設定の支援を行ったり、高速グラフ機能によるサンプリング、ユーザープログラムのコピーユニット機能などが活用できる。さらに、ラインシステムなどでベクトルインバーターとシステムコントローラーの演算制御部分を統合化した新コンセプトの商品も登場した。
インバーターの長寿命化に向けて、コンデンサーや冷却ファンなどの部品寿命の長時間化設計も進んでいる。特に空調ファン、ポンプなどに使うインバーターは設置するとリニューアルするまでの期間が長く、より一層の長寿命製品を求めている。各メーカーとも主回路のコンデンサー寿命は10年前後を目安にしているが、15年の長寿命をアピールしているメーカーや、インバーター劣化診断システムサービスをビジネスとして展開しているメーカーもある。
■セーフティ機能の搭載も
セーフティ機能の搭載も大きなセールスポイントになってきている。従来、地絡保護や瞬時停電時の自動再始動などに対して、コンタクターなどを周辺配置して対応するのが一般的であったが、この機能をハードワイヤベースブロック内蔵で、安全規格のEN954-1のカテゴリー3などに対応させた。誤操作などを防ぐためにインバーターにパスワードを設定して、パラメーターの読み出し・書き換えを制限できる製品もある。メーカーが、出荷後の調整をできないようにする狙いもある。
インバーターの効率をさらに高める半導体として、SiC(炭化ケイ素)や窒化ガリウム(GaN)などの利用が進められている。現在のSi(シリコン)半導体に比べ電力消費が約70%減少し、熱量の発生も抑えられる。インバーターの小型化にもつながることから、さらなる用途開拓に貢献することが期待されている。
インバーターでの省エネ、高効率モータでの省エネ加え、次の省エネとして「電源回生による省エネ化」も進んでいる。電源回生には、電源回生コンバーターや電源回生ユニット、マトリックスコンバータなどの機器があり、電力を使用しながらも電力を回生して生み出すという、省エネ効果がある。このうちマトリックスコンバータは高調波対策が不要なことから小型化が可能になり、制御盤の収納スペースを半減できる効果もある。
インバーター技術の応用はモータ応用分野だけでなく、照明器具や家電機器、さらには自動車などにも広がろうとしている。半導体技術の進歩と歩調を合わせ、今後も堅調な市場拡大が期待できる。