一般個人向けの商品を販売している営業と、産業系の部品やコンポ商品を販売している営業に本質的な違いはないが、大きく違う点がある。例えば、保険関係を扱う営業マンと商談に入り保険契約が済んだ後にどなたか紹介してもらえたら幸せです、などと紹介依頼をするケースは多い。一方、部品やコンポの営業では他の見込み客を紹介して下さいと積極的に依頼するケースは希である。いったん商談締結すればリピート商談がない個人消費向け営業では、次の人の紹介が欲しいというのは切実な問題である。だから他の人を紹介して下さい、という言葉は癖になっているのだ。部品やコンポ商品の営業では顧客との商談が締結した後もリピート注文は入るし、継続して次の案件が出てくる。それで誰か他の人を紹介してもらおうとする切実さに欠けるのである。
部品やコンポ商品の営業でも、創業期には顧客からのリピート受注は少なかったため、顧客を増やそうという活動を常に意識していた。最終ユーザーと仲良くなっていくと盤などのメーカーの紹介依頼をし、盤メーカーと仲良くなっていくと納め先のユーザーの紹介依頼を積極的に行っていた。しかし、昨今の事情では他の企業の紹介はかなり困難である。面倒くさがる顧客は個人情報云々ということを持ち出して紹介を断ってくるからだ。そうなることを想定して現在の営業は紹介して下さいという言葉が出なくなり、いつしか紹介して下さいという言葉をなくしてしまった。
現在でも新規顧客の開拓はかなり重要な活動である。顧客を増やしている会社の中には、積極的にネット情報により電話でアポイントを取って訪問している会社はあるが、非常に希である。一般的には自社のホームページを見て連絡してくる見込み客を訪問し、うまくいけば顧客化をしているケースである。それでも、ほんの少しずつ顧客が増えているので、新規顧客を増やそうという切実さは個人消費向け営業のようにはいかない。したがって、産業向け部品やコンポ商品営業の売上総額は数年の間にダイナミックに変化することはない。その代わり景気の落ち込み以上の落ち込みもない。それぞれの営業部は安定的な顧客の上に成り立ってきたからだ。もちろん、幸運にも顧客が大きく伸びた結果、売上げが大きく伸びた営業部はあるだろう。しかし、それはあくまで幸運だったからである。自分達の営業が積極的に幸運を呼び込むためには、新しい顧客を開拓しつづけるしかない。
ネット情報により電話でアポイントを取ってというのが困難なら、産業向け部品やコンポ商品営業も創業期にやってきたように紹介営業を徹底して行うべきである。しかし、いきなり紹介依頼活動を始めても、これまでと同様に失敗するだろう。人が人を紹介するということは大変なことなのだ。責任が発生するからだ。責任を持てるだけの力量がなければ紹介をしない。力量のある人でも営業マンとの係わりあいを基準にして紹介をする。したがって顧客との関係はどの程度なのかということになる。日頃のビジネスを通して、営業マンの人物像がどれだけ信頼の評価を得ているかなのだ。
昨今の営業は案件を第一義に考えるのはいいとしても、それしかないような営業活動に終始する傾向がある。人が人に物を売るためには根底に信頼関係がいる。顧客と営業会社との信頼で取引しているため、人との信頼を意識せずとも日常が回っている。しかし顧客開拓は営業マンがやらねばならない。それには紹介営業に注目する必要がある。顧客外が無理なら顧客内で新たな部門やP/Jあるいは他部門や上層部を覗いてみると、何かが動き出している時代に入っていることがわかる。
(次回は9月2日付掲載)