マイクロソフトは現在、クラウドを使ったビッグデータ、IoTビジネスに注力し、製造業の現場での成功事例が増えているという。同社が何を目指し、どのような技術・サービスを提供しているのか? 日本マイクロソフトインダストリーソリューショングループ濱口猛智本グループマネージャー、クラウド&エンタープライズビジネス本部大谷健エグゼクティブプロダクトマネージャーに聞いた。
これまでビッグデータ、IoTの導入は巨額なコスト、専門的な知識が必要だった。それに対し同社は、この環境を特定企業ではなくだれでも使えるよう「民主化」し、より多くの企業で導入できるような仕組みづくりに力を入れている。
はじめに重要となるのが、その実行環境となるインフラ。IoTは、あらゆるデータを集め、それらを分析・活用して初めて企業にとってメリットとなる。しかし、データを蓄積するだけでも自社でサーバー構築、運用、保守が必要で、分析・活用にも高度なソフトウェアや高速に演算できるハードを使う。それがクラウドであれば、企業はインフラを所有することなく利用した分だけ支払うというメリットを享受できる。
同社はビッグデータ、IoTサービスを提供するにあたり、クラウドに力を入れている。「CEOであるサティア・ナディアは当社のクラウド事業を率いてきた人物。WindowsやOffice出身ではない人間がトップになり、社内にも“クラウドファースト””という言葉が浸透している。全社挙げてクラウドビジネスに注力している」という。
また、世界に19のリージョンを持ち、100カ所以上のデータセンターを運用し、ネットワークは世界トップ3に入る。当然、規模が大きいほどコストは下がり、同社のクラウドサービスは世界でもトップクラスの低価格を実現し、IoT導入の大きな問題となる「コスト面」を解決している。
さらに同社は今年1月からクラウドで新サービスを次々に打ち出している。データ可視化をサポートする「Power BI」、機械学習のモデル学習・評価を行う「Azure Machine Learning」、用途別にパッケージ化し、小さくIoTをスタートできる「Azure IoT Suite」など。データ収集や蓄積、分析をはじめ、可視化や機械学習、用途や工程に合わせた各ツールなどIoTに必要なアプリケーションをクラウドで提供。「Power BI」をフリーミアム(無料)で提供するなど、導入コストやリスクを最小限にし、現場の情報活用のスタートをサポートし、データ収集やデータ活用、分析など、各ツールでそれぞれの民主化を実現している。
具体的な活用事例として、独・ティッセンクルップ社のエレベータ事業の事例がある。同社は急成長するアジア市場での保守技術者の大量育成が課題だったが、問題発生時の対処方法のノウハウなどを機械学習で世界中に展開。
エレベータの稼働データをリアルタイムに監視・見える化し、PCやモバイルでどこでも活用できるようにした。予測モデルの精度向上と、新興市場の未熟な保守技術者の活用で、より高い稼働時間の確保と保守技術者の大量育成を両立させることに成功した。
また、産業用ロボット大手の独・KUKA社はインダストリー4.0の取り組みに、同社のクラウドサービスを活用。モーションセンサ「Kinect」を用い、人の動きを見ながらロボットが協調動作したり、ウェアラブル端末で現場の状況をリアルタイムに技術者に知らせたりするなどの取り組みを行っている。通信の標準規格である「OPC UA」を使ったコントローラと上位システムの通信なども組み合わせ、複合的な情報をリアルタイムに活用しているという。
こうした予防保全や協調作業に機械学習を応用するには、モデルづくりが大切で、同社は実際にエラーを発生させ、場合によっては製品を壊すまでテストを行い、データ分析に必要な基準を作るという。
今後について濱口グループマネージャーは「日本が得意とする現場の制御運用技術“OT(オペレーションテクノロジー)””と、“IT””に立ちはだかる壁を取り除きたい」「プロジェクトを実行するパートナーとしてビジネスのエコシステムを構築し、顧客が持つ情報から価値を産み出していきたい」と語った。