革新的な物づくりに挑戦したコンパクトラインという生産方式がある。生産ラインを短くするための従来の改善の概念とは違い、大幅にコンパクトにして、生産コストダウンを狙った方式である。
もともとコンパクトにした背景は、日本国内において少量多様生産の時代に入り、従来から使ってきた大型設備では製造コストが割高になるということがあった。そこで、少量多種の生産に合ったコンパクトな設備で生産をするというものだ。それを発展させて、日本産業の稼ぎ頭である自動車産業や電子・半導体産業などの分野を中心に中種量産の工場に広がっている。
自動車を構成する部品は膨大であり、自動車産業には広い裾野を持つ富士山のように多くの中間材メーカーを包含して激しい戦いが世界的規模で繰り広げられている。そのグローバルな戦いに打ち勝つために各工程をぎりぎりのコンパクトにするということは、設備の規模を極小にまとめることだ。従来からある生産工程の概念を破って、ある工程を削減してしまったり、複数ある工程を集約したりしてラインの長さや面積を革新的に極小にしたラインである。それでも、品質や生産力には影響がないというのがコンパクトラインだ。
そのためには装置、設備の革新性はもとより、製品の材料もコンパクトラインに合わせて変更したり、製品の設計思想を大胆に変えている。
半導体産業に関して言えば、これまで大型の設備で大量に生産してコストを極限まで下げてきた。低コストが実現したので、買いやすくなった家電や電子機器が次々と生まれた。そのためグローバルで量産・低コストの戦いになった。大量に生産される半導体の製造装置では、日本に一日の長があるが、半導体の生産では新興国に一歩も二歩も譲ってしまった。その上、日本は量産型の半導体を志向していたから多種の半導体開発においてアメリカに大きな差をつけられている。
半導体をつくる設備には多額の投資がかかる。医療をはじめとして先端産業では必要な半導体があっても、大量の需要はない、少量の生産であれば半導体1個あたりのコストは目の玉がとび出るほどになってしまう。そこで先端産業のような、まだ少ない需要に対する半導体生産のコンパクトライン化が必要になる。
日本の産業技術総合研究所が開発を進めているミニマムファイブと言われるコンパクトラインは、少量に特化した半導体設備ラインである。投資額も従来に比べ1000分の1になると言われている。あと数年で実用化するだろう。そうなれば極小額の設備投資で半導体がつくれるから新しい半導体の開発が進み、新しい半導体が増えてくる。それらの半導体を使った新製品の出現で、新たな需要が増える。半導体製造装置で一日の長を保っているが、半導体産業においても復活の日は遠くないということになり、内需拡大に大きく貢献するだろう。
自動車産業や半導体のミニマムファイブのような思い切ったコンパクトラインへの革新ではないが、コンパクトラインという言葉の流行で色々な物づくりのラインをコンパクトにまとめようとする動きは各工場で広がっている。
国内での地産地消となれば、多種少量生産が今後ますます主流となるだろうから、負担の重い設備で減価償却に苦しむよりは設備コストをいかに安くするかにかかってくる。
営業マンは、いかに機能の良い商品を売り込むかだけではなく、ユーザーに適した商品をいかに素速く売り込むかに軸足を移すべきだろう。
(つづく)
(次回は9月24日付掲載)