山田太郎の製造業生き残りのためのスペックマネジメント術(1)

「モノ作り企業の経営の本質とは何か?」-これまで、国内外大小300以上の製造業のコンサルティングを行っていて多くの経営者に聞かれることだ。私は必ず「スペック(仕様)をマネジメントすることだ」と答えている。顧客はスペック(製品の仕様や機能)を買っている。だからこそ、売れるスペックの製品を作ることがモノ作り企業の経営の本質だ。

儲けるためには当然だが、「回収-投資」(注:「売上-コスト」ではない。理由は後述)を最大化する必要がある。顧客は仕様(機能)を買っているという基本的事実に立ち返れば、回収額を上げるためには、顧客が買う仕様(機能)を作ることでのみ最大化することができる。

製造業の収益モデルを単純化してしまえば、開発や設計段階で投資するリソース、生産段階での材料の直接費、人材や設備の間接費をキャッシュ(現金)として投入し、顧客がその製品仕様を買い、その売掛金を回収した段階で、キャッシュ(現金)が回収されるというものだ。このモデルが、回収-投資のモデルとなる。

従来型の期間損益的な考え方である「売上-コスト」では、こういった本質が見えてこない。売れないものはいつまでたっても売れないし、コスト削減のために在庫を削減しても売り上げが上がることはない。

モノ作りは1年などの期間において全製品トータルで儲かったかを管理する連続生産の時代は終わり、一つ一つの製品が「回収-投資」で成功しているかを管理するプロジェクト型の生産に移ったので、それにあわせて考えを変えていくべきだ。

話を戻そう。この製造業の単純化された収益モデルを考えれば、マネジメントの仕事は、どんなQCDの製品をどの値段、タイミングで市場に投入し、退くかを決定することが最も重要な仕事ということになる。

当然、QとCとDには相反関係があり、売値はCに、投入タイミングはDに大きな影響を受ける。これらの関係を紐解いた上で、売れる製品を作っていくのがマネジメントの役割である。経営の本質である「売れるスペックの製品を作る」ということは、まさにこのことなのだ。

売れる製品と一口に言っても、今の製品ラインアップを分析しても、将来売れるかどうかは分からない。過去情報はあくまでも参考情報であり、決してそれだけで売れる製品を作れる訳ではない。また、顧客視点の要求スペックも時間とともに動的に変化する。一度作り上げた製品スペックも次々と変更し新製品を投入しない限り、売り続けることはできない。

では、それを実現するためにはどうしたらよいのか。以下のスペックマネジメントの全体像を見てほしい。

スペックマネジメント体系
スペックマネジメント体系
重要なのは白抜きのシミュレーションの部分だ。実物である「生産」「製品」そのものをマネジメントしていくのは非常に難しい。QCDをコントロールするためには、シミュレーションの部分、つまり情報でコントロールしていくことが重要だ。この点、筆者が、モノ作りは情報産業と呼んでいる理由だ。

また、注目すべきが、転写とフィードバックの関係である。この転写の精度が高ければ高いほど、スペックマネジメントを活用した、売れる製品を作れるようになるはずだ。また今、巷で騒がれているインダストリー4.0は、このフィードバックの仕組みが実態であるモノからコントロールしやすい情報側に移ってきた。フィードバックの内容も高度に、そしてリアルタイムに行われるようになっている点が特徴的だ。

今回はスペックマネジメントの概要について触れたが、この連載では、1面で連載中「【インダストリー4.0】山田太郎の製造業は高度な情報産業だ!」と並行して、さらに具体的な技術論について述べていく。

参議院議員 山田太郎
参議院議員 山田太郎
山田太郎(やまだ・たろう)

参議院議員、日本を元気にする会 政策調査会長。慶応義塾大学経済学部卒、早稲田大学大学院博士課程単位取得。外資系コンサルティング会社を経て製造業専門のコンサルティング会社ネクステック社を創業、3年半で東証マザーズに上場。国内外大小300社以上の製造業を支援。国内・海外企業を買収、中国を含むアジア各国に積極展開した。その後、日本企業の海外進出支援会社を創業。東京工業大学特任教授、早稲田大学客員准教授、東京大学工学部非常勤講師、清華大学講師など歴任。参議院議員に当選。これまでの事業家・起業家の経験を活かすステーツマン(政治家)として活躍している。

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