温度調節器(計)市場の堅調な拡大が続いている。半導体、食品の二つの大きな分野の需要が伸長していることが大きい。中国をはじめとした輸出も、為替の円安基調で競争力と利益確保の両面で追い風になっている。製品の小型・短胴化、取り付けの工夫、視認性の向上などの基調は大きく変化していないが、新たな用途の開拓に向けて、規格の取得や無線技術の応用などに取り組んでいる。
■海外市場の伸びに期待
温度調節器(計)は、温度・湿度・圧力など各種センサから取り込んだ測定値を、あらかじめプログラムした設定値と比較し、その差を修正する信号をリレーやアクチュエータなどへ出力することで、対象物の温度や湿度を調節する制御機器・システムとして使用されている。
温度の調節管理は、ものの製造だけでなく、そのものの品質にも大きな影響を与える。中でも半導体や液晶パネル、小型成型部品などの製造では、温度制御が求める機能として製品の歩留まり率に大きく影響する。
また、食品では求める味覚を出すために温度調整を微妙にコントロールすることで最適な味を生み出す点からも重要となっている。
現在の温度調節器(計)は、半導体技術を利用した電子式が主流で、高い温度精度ときめ細かな制御が可能になっている。しかも、高機能でありながら、価格は半導体の量産効果もあって一時よりは大きく下がっており、ユーザーも装置のコストを下げることを可能にしている。
温度調節器(計)の市場規模は、現在日本メーカーだけで360億~370億円と推定され、前年比5~6%増加している。小型機種の増加や量産化によるコストダウンで、台数ではもっと高い伸びになっているものと見られる。
グローバルでもアジア市場で、円安の追い風もあって日本メーカーは強い競争力を発揮し、推定シェアは50%前後となっており、グローバルの市場規模750億円前後の約半分を占めていると推定されている。中国や韓国メーカーも単機能ニーズでシェアを伸ばしており、新興国を中心に日本メーカーとの競争が激化している。
温度調節器(計)市場は、国内外でスマートフォンやタブレットPC、自動車などの需要が拡大していることで、半導体・液晶、電子部品・機器の生産が増加、温度調節器(計)が必要な機械装置の需要増につながっている。
国内では、PV(ソーラ発電)システムのパネルの生産が一時に比べると落ちているものの、依然PV関連需要は継続しており、温度調節器(計)にもプラス効果をもたらしている。
さらに、電池関連も2次電池に対する需要が拡大傾向となっており、温度調節器(計)市場の新たな分野として期待されている。
温度調節器(計)のもう一つの大きな市場である食品機械、包装機械関連も堅調だ。温度をコントロールすることが多い用途だけに、温度調節器(計)の果たす役割は大きい。しかも、「食」という最も基本の部分だけに、他の市場に比べ景気の動向に左右されづらく、大きな変動がない安定した市場が継続している。日本の食品機械はまだ国内市場中心に販売しているところが多く、海外市場は未開拓となっている。海外で日本食の需要が拡大していることもあり、日本の繊細な味を演出する食品機械の需要はさらに拡大することは間違いなく、現在10%前後の輸出比率が今後大きく高まることが期待されている。
■軽薄短小化がトレンド
最近の温度調節器(計)の製品傾向は、高速・高機能化が一段落し、軽薄短小化、視認性や操作性の向上、ネットワーク化対応などが開発のポイントになっている。外形寸法は、DINサイズを基本に96ミリ角から48×24ミリなど、搭載機器・装置に合わせて選択されている。小型・薄型化傾向もほぼ終息しつつあり、薄型(短胴)化については、最近は60ミリ前後の製品が増えており、機器の省スペース化に貢献している。
視認性では、文字が遠くからでもハッキリ確認できるように10ミリ前後の大型化傾向が目立つ。文字色も赤、緑、白などを使い分けている。制御の状態を、測定値表示部の色変化をさせることにより一目で分かるようにしている機種もある。
表示素子はLEDとLCD(液晶)表示が多いが、LCDはグラフやアルファベット表示機能、制御設定値やパラメータ設定、出力値アナログバー、偏差値トレンド記録表示、偏差アナログバー表示、5桁3段表示など、情報量の増大にも対応できる。機能的にもかなり高いレベルに達しており、温度調節器(計)メーカー各社とも、独自のアルゴリズム技術をアピールしている。
例えば「RSS(ランプ・ソーク・スタビライザー)機能」は、ランプ制御開始時の追従性向上とソーク制御移行時のオーバーシュート抑制を同時に行うことで、プログラムの制御性を一段と向上させている。また、植物のザゼンソウが有するフィードバック形発熱制御の特性などを応用し、省エネ化につながる制御アルゴリズムも開発されている。
温度調節器(計)にラダーシーケンス制御機能を内蔵している機種では、タイマーやリレーなどの動作を温度調節器(計)のラダープログラムで実現でき、機器や配線工数の削減に加え、スペースの削減にもつながる。
操作性では、操作するスイッチを4方向で指示してくれる案内機能を装備したものや、ファンクションスイッチによく使用する機能やパラメータ設定画面を割り付けることで、呼び出しがワンタッチで行えるスイッチを装備した製品も販売されている。
■ネットワーク性を向上
このところ、節電・省エネ対応が各方面で求められているが、温度調節器(計)をよく使用する工業炉や食品機械などでは、遠隔監視、銘柄監視、予熱管理、待機電力削減などの対策から通信ネットワークの利用が増えている。各種のフィールドバスを経由してプログラムレスでPLCなどと簡単に接続できることで、オープンなネットワーク環境で、温度調節器(計)間の通信や協調運転などが容易に実現できる。最適なタイミングでの温度調節が可能となり、余分な電力消費などを防ぐ取り組みが行われているが、こうした動きをさらに加速させることにつながる。
さらにワイヤレスで温度情報を交換できるように、ブルートゥースや電磁誘導などの方法も増えている。配線や配線工事なども不要。
PLCなど他の機器と盤内に取り付け使用されることを考慮して、表示機能を省いたモジュールタイプの機種も販売されている。DINレールへの取り付けも可能にしており、他の機器と一体で収納できる。
フィールドバスは、省エネ対策にも貢献するとして注目されている。夜間や昼間など、機械・装置が休んでいる時の待機電力の削減にも効果が期待できるからだ。さらに、赤外線通信で簡単にセットアップでき、各種パラメータの読み書きやCAV形式でファイルの保存などが可能なタイプや、光通信タイプ、温調ボードとシーケンス制御・プロセス制御を組み合わせたシステムボードなどもあり、温度調節器(計)のパラメータ設定や管理などをパソコンで行うことも一般化している。
サポートソフトウエアの充実が進んでいる。保守作業の簡略化のために、長寿命のリレー出力により、メンテナンスサイクルの長期化や、予防保全をサポートする制御出力のON/OFF回数のカウント機能などを備えている。
温度調節器(計)の選定を容易にするために、アプリケーションの違いで入力センサが異なる場合でも対応が容易なマルチ入力機能や、各国の船舶規格を取得するなど、より幅広い用途を狙った取り組みも目立つ。
安定した市場が継続する中で、温度調節器(計)各社は自社の強みの分野のさらなる拡大を進めるとともに、弱い分野の開拓にも取り組んでいる。とりわけ、アジアを中心とした海外市場に重点を置いて、展示会の開催やサポート体制の充実を進めている。TPPなど、貿易の自由化なども追い風となることが見込まれており、当面安定した需要が継続しそうだ。”