■世界で3750社が参加 電子機器・基板の全工程を最適化
日本の製造業の課題と言われるのが「国際標準への対応」。グローバル市場に歩調を合わせ、存在感を発揮していくことが重要となる。電子機器、電子基板の設計・製造における全工程の標準化に取り組み、いまやエレクトロニクス業界の国際標準となっているIPC。その最新動向と日本での活動状況について、IPCアジアのフィリップ・S・カーマイケルプレジデントに話を聞いた。
-IPCとは?
IPCは、電子機器の基板設計から材料選定、組み立て、最終製品まで全工程に対して標準化を進めている業界団体。電子基板に関するあらゆる産業から企業が集まり、現在、世界で3750社が会員として活動している。
アメリカでスタートしたが、いまでは半分以上がアメリカ以外の企業が占める。アジア地域は800社が参加し、日本企業も30社ほど会員となっている。
IPCの目的は、会員企業を支援し、成功のためのサポートをすることだ。そのために各種の情報提供やセミナー、展示会なども開催している。
-他の標準化団体との違いは?
IECやISO、ULなどと違うのは、IPCは会員企業自らが運営し、標準化の内容を決定するという点だ。
同じような課題を持つ企業が集まって議論し、ベストプラクティスを導き出す。
それを全体に提案し、75%の賛成を得て初めて標準として認められる仕組みとなっている。現在、220ほどの標準が決まり、日本語を含む30の言語に翻訳されて配布されている。
-日本の現状は?
日本での活動はまだ始まったばかり。ジャパンユニックスをパートナーに迎え、IPCの活動を紹介してもらっている。
-日本企業がIPCを活用した方が良い理由、使うメリットは?
これまで日本の製造業は日本のサプライヤを頼りに強い製品を作り、品質は世界一だと認められてきた。しかし、いま世界ではサプライチェーンの大変革が起き、さまざまな課題が出てきている。
企業が製品を作る時、調達先、生産拠点が複数の国・企業にまたがるケースはよくある。例えば、基板はタイ、ハーネスはインドネシアから調達し、ベトナムで組み立てて中国で販売するなどのパターンだ。しかしこの場合、企業は品質を保つためにすべてのステップをチェックしなければならず、それには大きな手間と費用がかかる。それに対しIPC標準を採用していればその手間はいらず、品質は安定し、管理工数が必要なくなる。
欧米では納入先が、製品の製造にあたってIPCを使っているかどうかを求めるケースも多い。
サプライヤ側にとってもIPCを使うメリットは大きい。3500を超えるトップメーカーが参加し、彼ら自身がベストプラクティス、標準を作っている。そのためサプライヤはユーザーが求める標準、ベストプラクティスにアクセスし、工程の最適化が容易にできる。
この先、サプライチェーンはもっと複雑化していく。各国、各拠点、パートナー企業の品質と安全、効率を担保するには共通言語が必要になる。
-そのほかのメリットは?
技術的な面だけでなく、営業やマーケティング、経営的な側面からも参加する利点がある。
IPC内ではIPCトレーニングを受けた人同士の交流が盛んに行われている。日本の中小企業の技術者が、世界的な大企業の技術者に直接コンタクトし、コミュニケーションを取ることができる。通常では接点が作れない、会いたくても会えないような人ともコミュニケーションできるのもIPCの特徴だ。
IPC会員になるメリットは、国際標準にのっとった製品が作れる、世界で認められた品質の担保が得られる、製造技術を効率化できる、世界トップクラスの製造技術を学べるといった技術的優位性だけでなく、マーケティングや経営戦略にもメリットをもたらし、単なる業界団体とは全く異なる。
IPCは特定の国や企業を支援するのではなく、業界全体を盛り上げていきたいと考えている。アジア地域は成長著しく、日本もこれからの地域として会員を増やしていきたい。