前回の連載では、ドイツ視察においてBMW、ダイムラー、ジーメンス、ボッシュ、SAPなどの民間各企業から見えてくる今後のIndustry4.0の方向性について触れてきた。本稿では、特にドイツ全体でのIndustry4.0への取り組みについて、日本との違いも含めて指摘・提言していきたい。
ドイツでは、メルケル首相が議長を務めるITサミットの中の一つのプロジェクトとしてIndustry4.0が位置づけられている。ITサミット自体が面白い実用的な試みであり、ここで政治家や政府機関、経営者、労働団体、教育・研究機関などが一堂に会し、ドイツの課題に即したITのあり方についての方向性を共有している。日本も少子高齢化など同様の課題を抱える中で参考にしてもよい仕組みではないか。
そのITサミットの中での「Platform Industry4.0」がドイツのIndustry4.0を推進する上での中核的な役割を担っている。これには、特徴的な点が三つある。1点目は政治がコミットしているという点だ。連邦教育研究省、連邦経済エネルギー省の両大臣がこの組織のトップに就いている。これはドイツが政府としてIndustry4.0に対して本気で取り組んでいることの証しと見ることができよう。
2点目が、幅広い関係者を巻き込んでプロジェクトを進めていることである。ステアリングコミッティー、戦略グループ、ワーキンググループなど各レイヤーにおいて、産学官が一体となって取り組んでいる。特筆すべきは労働組合の代表がこのプロジェクトの中に入っているということである。日本のコンソーシアムなどではまず考えづらい形態だ。
Industry4.0は人々の働き方を大きく変える。今までラインで組み立てを行っていた従業員は、ラインのカイゼンに目を向けなければならなくなるだろうし、今まで鉛筆をなめながら生産計画を立案していた従業員は、需要予測のファクターを洗い出し、その精度を高めていく仕事を行わなければならなくなる。つまり、生産がより高度化するに従い、従業員の仕事の質やITリテラシーも高度化しなければならなくなるのだ。
プロジェクトを多く抱える製造業の皆さんであれば、プロジェクトを進める上での阻害要因の多くは、技術的なものではなく人の感情や気持ちによるものであることは熟知しているだろう。ドイツでは、あらかじめ労働組合をこのプロジェクトの中に参画させることによって、社員教育や社員の働き方についての議論も同時に進めていることが特徴的だ。いずれ、プロジェクトの進め方については触れるが、大いに参考になる手法である。
最後の3点目として、中小企業にいかにIndustry4.0を導入させるかに目が向いているということだ。VDMA(ドイツ機械工業連盟)の調査によると、ドイツでもIndustry4.0に具体的に取り組んでいる中小企業はまだ3割ということで、この点は今後の課題として認めている。
中堅・大企業であればある程度自立的にIndustry4.0の概念を自社のものづくりの仕組みに組み込むことは可能であるが、中小企業になると顧客企業からの仕様要求を待っている状況に陥りがちだ。ところがIndustry4.0を実現するためには、例えばサプライチェーンで言えば、上流から下流までがIT化を進めなければ本当の意味での改革は実現しない。ドイツでは、この点を理解し、早いうちから中小企業へのIndustry4.0の導入を考えて活動を行っている。
以上挙げた3点、包括的なドイツでいうところのIndustry4.0に対する取り組みは、日本では立ち遅れている。これまで日本の製造業の現場に入り改革を進めてきた国会議員として、この点は強く日本政府に対して主張をしていきたい。
更に、Platform Industry4.0のプロジェクトでのワーキンググループは三つが技術的なもので、残り二つが法的なものであることなど、興味深い点も多くある。機会があれば、Industry4.0の労働法制的な論点、相互にやりとりするデータの財産権、道路を自動運転車が走るときの法的な論点などについても触れていきたい。
(参議院議員)
山田太郎(やまだ・たろう)
参議院議員
慶大経済卒、早大院博士課程単位取得。外資系コンサルティング会社を経て製造業専門のコンサルティング会社を創業、3年半で東証マザーズに上場。東工大特任教授、早大客員准教授、東大非常勤講師、清華大講師など歴任。これまでの経験を生かしステーツマン(政治家)として活躍中。