インダストリー4.0は、ドイツ政府が提唱している製造業高度化に向けたイニシアチブです。そこでは原料、部品、機器、プロセスなどの状況が常に把握でき、工場は無駄のない革新的な生産の場へと生まれ変わります。倉庫、物流、店舗、サービス事業者、顧客など、工場の外部とリアルタイムでつながり、製品開発やデリバリー、在庫調整、値付け、メンテナンスなど、ビジネスに関わるあらゆる要素に変化をもたらします。
インダストリー4.0では、各プロセスでリアルタイムに状況を把握し、計画からの乖離(かいり)や需要変動、市場の変化、顧客満足度などを、即座にフィードバックできます。その結果、市場の意向を反映した柔軟な製造システムが実現できます。ただし、適切にフィードバックするためには的確な予測が不可欠であり、予測精度をいかに高められるかが競争優位性を左右することになります。
■記録から売り上げ拡大へ、IT活用の目的が変わる
これまで、ITの活用目的は、主に記録や確認でした。しかし、これからは売り上げ拡大という「攻めのビジネス」に貢献し、事前予見や「予測」を精度よく行うことが期待されています。
そのためには、十分な選択肢(量と種類)と柔軟性を持つシステムを整備しなければなりません。例えば、需要や供給部品の状況に合わせて生産品種の調整を即座に行ったり、生産プロセスを柔軟に変更できたりするようなシステムが必要です。
■部品表(BOM)も変わらなければならない
製造業において柔軟な生産を行うためには、BOM(部品表)も変化を余儀なくされます。例えばBOMには、設計・開発段階におけるE-BOM(設計部品表)と、製造段階におけるM-BOM(製造部品表)があります。しかし、これからは、市場の動きや顧客の意向を容易に反映させるため、販売やサービス(メンテナンスなど)を行う際のS-BOM(販売部品表)などを加えて、業務プロセス横断で各BOMを活用できる取り組みが必要でしょう。
■事前予見や予測活用の事例
3万機の風力発電設備の運用監視では、発電量を保証するため、問題のある機器の検知や、風量や風向きの予測に基づく設備の最適化を行っています。新たな発電設備の設置に際しても、実データのリアルタイム解析から発電力量のシミュレーションを実施しています。これらを行うにあたり、リモートサイトではSAP
ESPを、データセンター側ではSAP HANAを活用しています。
ある重機メーカーでは、重機の車両や機器からのテレマティクス情報とその履歴データ、車両情報、ワランティ情報を取得、組み合わせて分析することで、将来の故障予測を行っています。実際のオペレーションはSAP
HANAを活用しています。
ワランティ負担と業務コストの削減、サービス利益率の向上、保守部品の生産量や在庫などの最適化とコスト削減、サービスレベル契約の高度化と顧客満足度の向上、車両・機器稼働時間の向上、お客さまにおける保守コストの低減などを実現し、非常に有益な結果となっています。
そのほかにも、フィールドサービスマネジメント、調達、ドキュメント管理、保守部品管理、チームワークアクセスなどにおいて、IoTによりビジネスプロセスの改善をしたり予測を活用したりすることで、すでに大きな成果を上げている企業が少なくありません。
■日本企業は危機感を持つべき
このようにインダストリー4.0時代の到来により、製造に関わるあらゆるパラダイムが変わっていくことが予想されます。生き残るために、企業はその方向性を先取りしていかなければなりません。そのなかで競争優位性を左右するのが、事前予見あるいは予測の精度です。海外の産業用機械メーカーでは、すでにこのような動きを取り入れ、予測をビジネスやサービスに積極的に活用しているところが多くなってきています。こういった取り組みを大いに参考にすべきでしょう。
翻って、日本の産業用機械業界はどうでしょう。多くの企業が従前と変わらないオペレーションを行っているのではないでしょうか。工場の生産ラインにおける先進性では群を抜く日本企業ですが、このままでは後れを取ることは必至です。
このような問題意識に基づき、次回は、「変わるために必要なこと」というテーマでお話ししたいと思います。
(SAPジャパン 原田茂樹)
SAPジャパン「超リアルタイムビジネスが変える常識」
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