「近頃の営業マンは現場に行かなくなった」などという声がよく聞こえてくる。
現場という概念は人によっても違うし、立場によってもさまざまである。顧客や見込み客を指して現場という場合もあるだろうし、顧客の中のそれぞれの部署を指す場合もある。立場によっては機械や機器を作っているメーカーを顧客と言って、機械や機器を使ってものづくりをする製造工場を現場と言っている場合もある。電気部品や機器商品を扱う営業マンが日頃、納期や価格、時々商品紹介をするために訪問活動をしているのは昔も今も変わりはない。
それなのに、近頃の営業マンは現場に行かなくなったという感覚が何となくあるのはなぜなのか。
顧客と営業の間には各種の用件が発生する。昨今ではメールやファクスを使って用件を手際よく片づける。用件の中には営業が扱う商品に絡んだ新規のテーマがある。新規に出てきたテーマを俗に「案件」と言っている。案件の多くは顧客が新しいことを始めようとして詳しい資料が欲しかったり、大体の価格が知りたかったりした時などに発生する。また、何かの打ち合わせの時や新商品の紹介を兼ねた訪問時などに、競合商品が採用されていることを知った時にも発生する。案件の発生は一般的には通常取引している顧客で起こるものだが、時々ホームページなどを見た見込み客からの問い合わせ時に発生する。
顧客にしても見込み客にしても案件が発生すれば発生した場所に訪問して打ち合わせを行う。この案件の発生が成長期と比べると少なくなっている。理由は二つある。
一つは、新しい製品が次々と世に出てきた成長期とは違い、新しく設計される製品はシリーズ化が多くなっている。その際に使用する部品や機器商品は同じものを採用するので営業に問い合わせなしに勝手に選定している。
二つ目は、製造工程の省力自動化が進み、新たに取り組む自動化設備は少なくなっている。自動化設備がほぼ終わっている成熟産業が増えているのに比べると、自動化設備のいる新しい産業が増えていない。そのため製造技術者と営業が打ち合わせを要する案件が少なくなっている。
営業が顧客を訪問するのは案件だけではない。他の用件も多々あるが、以前に比べるとメールや携帯電話などの通信手段で事足りてしまう。したがって、どうしても訪問しなければならない用件も減っている。
案件や訪問しなければならない用件が減ると、社内に滞在する時間は多くなる。社内滞在時間が多いからと言って部品や機器商品の売り上げが大きく落ち込むことがないのは、営業効率が上がっているからだ。
客先滞在時間が売り上げに直結していた時代とは違うと分かっていても「近頃の営業マンは現場に行かなくなった」という声が半ば不満げに聞こえるのはなぜだろうか。理由はいくつかあるだろうが、やはり客先滞在時間は売り上げを上げるためにどうしても欠かせない指標だからである。
営業には「攻め」と「守り」がある。用件の処理のために客先滞在をするのは守りである。多くの案件は客先側から自発的に発生した件名だから守りである。また昨今の新商品の売り込み活動も、とりあえず新商品が発売になったという顧客サービスの一環的なものだから守りである。攻めの営業とは、客先側から投げかけられる用件や案件の背後にある情報や横手の方に見える情報入手活動である。つまり与えられる前に何かを探す活動のことである。
「現場に行かなくなった」というのは、攻めの営業で行かなくなったということなのだ。言い換えれば「近頃の営業は現場を知らなくなった」ということなのだ。