安全性が非常に高く、人と一緒に作業できる協調(協働)ロボットが各社から登場するなど、ここにきて産業用ロボットは急速な進化を遂げている。そこで2回にわたって、産業用ロボットの世界的トップメーカーであるKUKAロボティクスの次世代協調型ロボット「LBR iiwa」を取り上げ、ロボット技術の最新動向を探る。
■はじめに
KUKAロボットグループは、1898年にドイツのアウグスブルクで創業された産業用ロボットメーカーである。1973年に電動式モータで駆動する産業用ロボットを開発して以来、可搬重量5キロから1300キロまで幅広い用途の産業用ロボットを市場に提供している。
近年産業用ロボットの利用は増加傾向にあり、ロボットメーカーには追い風となっている。しかし、自動化する対象は複雑化し、かつ多品種少量生産のための柔軟性も求められており、従来の技術では対応しきれなくなってきている。
また、さらなるロボットの活用のため、人とロボットがスペースを共有し、協調して作業することも注目されており、世界中でロボット産業の変革の時期に突入している。日本でも、人とロボットの協調作業を後押しする環境が整ってきている。
こうした時代のニーズに応えるためには、即応性、複雑な動作を可能にする機構制御、さらに安全機能を備えた新しいソリューションが必要であり、KUKAでは早くからこのような新しいコンセプトのロボット開発を進めてきた。KUKA LBR iiwaはこれらの特徴を備えた新世代のロボットである。
■LBR
LBRはドイツ語で「Leichtbauroboter」の3文字を取ったもので、軽量ロボットを意味する。iiwaは「intelligent industrial work assistant」の頭文字であり、知的な産業用作業アシスタントを意味する。LBR iiwaは7軸の垂直多関節ロボットに分類される。
外観は流線型であり、一般の産業用ロボットと比べ大きく異なる。このデザインは人間工学に基づいたもので、人とロボットが協調作業する際の安全性が考慮されている。ロボットの先端部には電源やI/O制御などのためのコネクター、エアーを通す接続口がついており、ロボット先端に取り付けるツールへの電源やエアーの供給、I/O制御などに用いることができる。
これらのケーブルは、ロボットの内部を通り、下部まで通じているため、周囲で作業する人や周辺機器に引っかけるという危険を防止できる。可搬重量は7キロと14キロの2種類が存在する。
■繊細で複雑な動作
現在、工場では多くの作業が自動化されつつあるが、はめ込み作業やコネクターの接続など、ロボットで置き換えることが困難な作業工程が存在する。こうした作業の多くは、人間の手の繊細な感覚や複雑な動きを必要としている場合が多い。KUKA LBR iiwaは(1)七つの軸と、(2)全ての軸に搭載されたトルクセンサにより、従来困難であった作業を可能にしている。
(1)7軸多関節ロボット
現在主流となっている多くの多関節ロボットは6軸以下のものである。基本的に、3次元空間におけるロボット先端の位置と姿勢を任意に動かす場合、六つの軸があれば可能である。
しかし、LBR iiwaは七つの軸を持つことで、さらに自由度が高く、人間の腕に近い動作が可能となる。この自由度の高さから、限定されたスペースでの運用を可能とする。
(2)高感度トルクセンサによる繊細・柔軟な動作
人間が物体のはめ込みなどの作業を行う場合、視覚情報のみを使っているわけではない。たとえば、視覚情報から大体の穴の位置に物体を移動させ、後は手の感覚、つまり「触覚」で物体を押しつけながらはめ込む方が楽な場合がある。それに対しロボットの基本的な動作は、指示された位置に正確に移動することである。隙間の狭いはめこみ作業では、ロボットには高い位置決め精度が必要となる上、目標との位置の差分を正確に補正するための高精度の視覚センサも必要となる。
LBR iiwaは全ての軸にトルクセンサを搭載し、人間の「触覚」を獲得している。これにより、以下のような動作が可能である。
(1)力、トルクの計測および制御(2)衝突検知(3)コンプライアンス制御(4)重力補償(5)ハンドガイド。
(3)の「コンプライアンス制御」は、位置、速度および力を同時に制御する方式で、「しなやかさ」を意味する。コンプライアンス制御では、ロボットの「かたさ」を任意に設定できる。このとき外力が加わると、ロボットは事前に設定された「かたさ」に応じて「ばね」のように変位する。この「触覚」の獲得により、人間の作業のように力をかけながらの目標位置の探索や、柔軟な物体のはめ込み、といった作業が可能になる。