どの製造業の会社においても問題になっている設計変更について、今回は触れてみたいと思う。すり合わせを得意とする日本の製造業は、この変更対応力こそ企業競争力の源泉となる。日本の製造業の戦略的手法と認識し、積極的に変更対応の仕組み構築に取り組むことが重要である。変更管理を臭いものとして蓋をしたり、避けたりしてはならない。なぜならば、変更情報は製品の開発設計のナレッジとなる重要な情報だからだ。
ECO(Engineering Change Order)は設計変更命令のことで、ECR(Engineering Change Request)の設計変更依頼のことだ。また、設計変更に類するものとして、顧客要望による仕様変更もあるが、これについては別途、述べることにしたい。
ここでいう変更情報とはどんなもので、どのように処理されるのか具体的に見ていきたい。例えば、協力会社が品質向上のため、改善提案をしてきたとする。自社の製造部門を通じて設計部門は、そのECRを受け当該部品を使う製品への影響がないことを確認し、即時実施を決める。設計は該当部品の図面とその部品を組み付ける組み立て図を修正し、関連部門の承認を得てECOを発行した。製造部門および協力会社ではそのECOを受け、即時実施する、というのがECOとECRの関係だ。
このECOとECRの情報は、ワークフローの仕組みで管理することが一般的だ。そのため、変更管理は「トランザクションの仕組み」と考えてしまうことが多い。しかし、変更管理の管理対象は、品目情報(P/N)と製品構成情報(P/S)であり、あくまで製品情報変更を管理する「マスターの仕組み」と理解するべきだ。その仕組みはマスターの整備とメンテナンスを行うというものである。そして、変更管理は、製品のQCDを良くするのが目的である以上、Industry4.0のキラーアプリケーション(組織強化につながる仕組み)として取り扱う必要がある。
特にECRについてきちんとナレッジとして蓄積している会社は少ない。先ほどの改善提案でいえば、同じナレッジを他の部品に横展開したり、次製品にそれを生かしたりしていくためには、単なる紙ではなく、きちんとナレッジとして蓄積しておく必要がある。また、この一連の設計変更管理は自社内だけではなく、協力会社を含めて考え、ECOに付随する変更ロット情報や互換情報、識別の要否なども含めて部品情報としたBOMを構築する必要がある。
このECOとECRをワークフローの「トランザクションの仕組み」ではなく、部品情報の「マスターの仕組み」と考えBOMを構築した会社の事例を紹介しよう。当初はプロセスと部品情報との違いを現場が理解することにハードルがあったが、導入して数年が経つとその点の理解も深まり、今はメリットの方が大きくなったという。特に一つの部品の履歴を調べたり、類似機種の特定部位での事故情報の検索をしたり、機種の生産が終了しプロジェクトを振り返るといった際にBOMを見るだけで簡単に情報を得られるため業務上、非常に役立っていると聞いている。
この会社では「マスター管理部」を立ち上げ、都度発生するデータについて意味のあるデータになるよう業務部門を統制していることも参考になる。また、顧客都合で要求変更を受けやすい箇所を特定し、あらかじめ販売オプションとして定義することや、各DR(デザインレビュー)での細かい技術的な確認チェックリストを全機種横断して作成し、随時メンテナンスする体制を構築することなどに取り組んでいるとのことである。
Industry4.0の目的を製品のQCDの向上に置くのであれば、変更対応を個別の一時的な変更通知とするのではなく、変更情報の履歴を部品情報として管理することが重要だろう。自社で行われている設計変更情報が協力会社も含めて再活用されるような状況になっているかについて調査を行い、十分に再活用されていないのであれば、製品のQCD向上のために、設計変更情報を再活用できるようにするべきである。
山田太郎(やまだ・たろう)
参議院議員
慶大経済卒、早大院博士課程単位取得。外資系コンサルティング会社を経て製造業専門のコンサルティング会社を創業、3年半で東証マザーズに上場。東工大特任教授、早大客員准教授、東大非常勤講師、清華大講師など歴任。これまでの経験を生かしステーツマン(政治家)として活躍中。