産業用ロボットの世界的なトップメーカーであるKUKAロボティクスの次世代協調型ロボット「LBR iiwa」を取り上げ、ロボット技術の最新動向を探る。前回は、ロボット産業は変革の時期を迎え、人とロボットの協調作業が重要となっていることと、KUKA LBR iiwaの概要について説明した。2回目となる今回は、協調作業を可能にするテクノロジーについて解説する。
[3]繊細で複雑な動作現在、工場では多くの作業が自動化されつつあるが、はめ込み作業やコネクターの接続など、ロボットで置き換えることが困難な作業工程が存在する。こうした作業の多くは、人間の手の繊細な感覚や複雑な動きを必要としている場合が多い。KUKA LBR iiwaは(1)7つの軸と(2)全ての軸に搭載されたトルクセンサーにより、従来困難であった作業を可能にしている。
(1)軸多関節ロボット
現在主流となっている多くの多関節ロボットは6軸以下のものである。基本的に、3次元空間におけるロボット先端の位置と姿勢を任意に動かす場合、6つの軸があれば可能である。しかし、LBR
iiwaは7つの軸を持つことで、さらに自由度が高く、人間の腕に近い動作が可能となる。この自由度の高さから、限定されたスペースでの運用を可能とする。
(2)高感度トルクセンサーによる繊細・柔軟な動作
人間が物体のはめ込みなどの作業を行う場合、視覚情報のみを使っているわけではない。例えば、視覚情報から大体の穴の位置に物体を移動させ、後は手の感覚、つまり「触覚」で物体を押しつけながらはめ込む方が楽な場合がある。それに対しロボットの基本的な動作は、指示された位置に正確に移動することである。隙間の狭いはめこみ作業では、ロボットには高い位置決め精度が必要となる上、目標との位置の差分を正確に補正するための高精度の視覚センサーも必要となる。
LBR iiwaは全ての軸にトルクセンサーを搭載し、人間の「触覚」を獲得している。これにより、以下のような動作が可能である。
(1)力、トルクの計測および制御
(2)衝突検知
(3)コンプライアンス制御
(4)重力補償
(5)ハンドガイド
(3)の「コンプライアンス制御」は、位置、速度および力を同時に制御する方式で、「しなやかさ」を意味する。コンプライアンス制御では、ロボットの「かたさ」を任意に設定できる。このとき外力が加わると、ロボットは事前に設定された「かたさ」に応じて「ばね」のように変位する。この「触覚」の獲得により、人間の作業のように力をかけながらの目標位置の探索や、柔軟な物体のはめ込み、といった作業が可能になる。
■長所を生かし作業効率向上
[4]人との協調
ロボットは進化し続けているが、理解力や認識能力の観点では人間に劣る。
一方、ロボットは単純な繰り返し作業を得意とする。現在、手作業で行っている作業工程にロボットを導入し、ロボットの長所を生かすことができれば、人間の負担の軽減や、作業効率の向上に大きく貢献する可能性がある。ここで最も重視すべき点は人の安全である。
基本的に、ロボットの安全性はロボット単体では成り立たず、システム全体として設計する必要がある。LBR
iiwaでは安全監視機能をユーザーが自由に追加、設定、組み合わせることができ、危険領域となった場合のアクションも選択できる。
制御システムの安全管理部に関しては、ISO
13849-1で規定されている安全カテゴリー3、パフォーマンスレベル(PL)“d”に準拠している。主な監視項目を以下に示す。
(1)速度監視
(2)ワークスペース監視
(3)衝突検知
(4)力・トルク監視
(5)入力信号
例えば一つの作業場に、フェンスやセンサーを用いて人とロボットの共有領域、ロボットのみ入れる領域を作った場合を想定する。
この場合、領域Aでは安全のために速度を制限する必要があるが、領域Bでは逆に、時間短縮のために速度の制限を高く設定することが可能である。このような場合は、上記の監視項目(1)、(2)を組み合わせて指定することで、領域毎に監視速度を設定できる。