■創業時の技術に“加える”新しい製品は先端技術だけでない
経済大国である日本には、多くの業界がある。それぞれの業界には正会員法人と賛助会員法人で構成する業界団体がある。
業界団体ができる背景の一つには、業界の市場規模がある。小さな市場規模では業界団体はできにくい。したがってGDPが29兆円であった東京オリンピックの頃には、産業界でもそれほど多くの業界団体はなかったが、GDP500兆円の現在では、多くのさまざまな業界団体がある。
部品や機器商品営業が主として販売先にしている機械関連や電気機器関連の業界団体も、60以上の業界団体に分かれるほどの盛況ぶりである。成熟社会にある日本では、GDPの増大と共に市場はこれからもさらに分化し、新たな業界団体ができるであろう。
GDPが29兆円であった頃、部品や機器商品が売れる業界は少なく、部品や機器商品の種類も少なかった。GDPの増大は、各種の製品を生み、いろいろな市場ができて、それぞれの業界が形成された。そして新たにできた業界向けの部品や機器商品が開発された。開発された部品や機器商品は、他の業界にも使われて広がっていくと商品のシリーズ化が進んだ。
日本のGDPが500兆円に達したのは1995年であった。その後、今年に至るまで500兆円を境に上がったり下がったりで、ほとんど横ばい状態で推移してきた。その間、新しい製品は作られているのだが、業界が新たにできるほどの市場規模にはなっていない。
GDPという付加価値総額は横ばいであるが、その付加価値を生む技術は年々進歩している。製造業は海外への投資を続けて、海外生産比率を上げてきた。加えて、海外にある日本企業への部品輸出も現地調達率が上がっている。それでも日本の輸出額は95年に比べて、2013年は1.6倍強伸びている。
製造業の海外投資の増加や、国内の少子高齢化という問題を抱えながらGDPを維持しているのは技術である。成熟市場が生き生きとする要因は、技術によって作り出される新しい製品であり、またその製品で新しい市場ができる。先端技術力で強い日本は、その技術で新しい製品を生み出しているが、日本には先端技術だけではなく、幅広く多くの技術がある。これらの技術の組み合わせで新しい製品が生み出される。新しい製品は先端技術で生み出されるとは限らない。
新しい製品を生み出すには意識を変える必要がある。それまで培ってきた技術に固執するのではなく、だからと言ってそれを古いといって捨て去ることではない。意識が変われば、それまで培ってきた技術の使い方が変わる。結果的に培ってきた技術に何かを加えて新しい製品が生まれる。
製造技術においても同じことが言える。昨今、コンパクトラインという言葉が普通に使われるようになった。先端技術を開発して作られるコンパクトラインは世にもてはやされ、各種の紙上を賑わしている。しかし、開発された先端の技術で作られる製造工程のみがコンパクトラインではない。
マッカーサーは「いまだ硝煙が消えない戦史を見て明日の戦術を学ぶものは勝利を失う。ほこりにまみれた古代の戦史から歴史をたどって考えるのが戦術を知る唯一の方法だ」と言った。直前のやり方を参考にして発展させようと思えば、それに捉われてしまう。創業時からの製造技術は古いと言って顧みないのではなく、新しい製品づくりには創業時からの製造技術に何かを加えて、現状よりコスト、面積、生産数量をコンパクトにするようなこともコンパクトラインの面目躍如たるものである。