2016年、日本は戦後最大の名目GDP600兆円を目指してスタートを切った。製造業はその中核となり、リードする役割を担う。15年の製造業はIoTやインダストリー4.0という言葉で盛り上がり、新たな時代の到来を感じさせた。16年はそれを具体化し、第4次産業革命がスタートする年になる。また20年の東京オリンピックに合わせたインフラ整備、TPP大筋合意による工業製品の輸出機会の拡大など、16年は日本の製造業の追い風となる好材料がそろっている。
15年、IoTとインダストリー4.0は日本の製造業における一大トレンドとなった。センサで集めたデータをクラウドに上げ、ビッグデータを解析する。それにより生産性の向上やビジネスモデルの変革など自社の利益につなげる。その概念は製造業に新たな可能性を示し、ある種のバズワードとして業界内外に浸透していった。
16年は、いよいよ「実践」という次のステージに突入する。
これまでIoTやインダストリー4.0といえば、インダストリー4.0を初めに提唱したドイツや、航空機のエンジンにセンサを搭載し、そのビジネスモデルの変革に成功したGEなど海外の事例がほとんどだった。そのため日本では遠い異国の話として実感が湧きづらく、海外に比べて取り組みが遅れていた。
しかし今は、先進的な企業ではIoT化を推進する部門を組織し、すでに活動を開始。また多くのメーカーからIoTに対応した製品やソリューションが発売されており、IoTの実現に向けた環境が整い始めている。
16年は、先進的な企業がどう取り組み、どれだけの利益を生むことができたのかという事例が生まれ、それを見て多くの企業が後に続いていく。IoTやインダストリー4.0に取り組む意味やメリットを理解し、自社に合ったモデルの構築を目指して本格的な普及がスタートする“第4次産業革命元年”になると期待されている。
■続々と新市場が萌芽するロボット
15年、日本のロボット産業は大きな転換期を迎えた。新たな市場の萌芽(ほうが)がみられ、裾野が一気に広がった。16年はその土台を作る年になる。
15年2月のロボット新戦略にともない、5月にロボット革命イニシアティブ協議会が発足。政府はロボット産業を国家の重点産業として推進することを決定した。その追い風を受けるように少子高齢化社会に対応するための医療介護分野やサービス分野向けのアシストロボットが製品化。ソフトバンクのPepperが一般販売され即売り切れるなど関心は高く、いよいよサービスロボット市場がビジネスとして立ち上がるチャンスを迎えている。
産業用ロボットに関しても、新たな時代が到来しつつある。
15年3月に産業用ロボットの安全基準が改正。リスクアセスメントが整っていれば安全柵が不要になり、人と並んで作業ができる“協働ロボット”の市場が誕生した。
当初ロボットは、危険・汚い・キツイ3K作業を人に代わって行うものとして始まり、人よりも早く正確に動き、効率を上げるために人の代替となってきた。協働ロボットは“人のパートナー”として人の作業をサポートし、生産性を上げる役割を担う。これまで自動車や電気電子業界、大手企業が中心だった産業用ロボットの市場に対し、協働ロボットはあらゆる分野の中小企業で使うことができる。人手不足、生産性向上のキーデバイスとして今後広がると期待されている。
■IoTやセンシング、需要高まるインフラ
20年の東京オリンピック開催を控え、各地で鉄道や道路、上下水道といったインフラの整備が急ピッチで進む。また老朽化したインフラの補修などの需要も増加している。そこでは成熟社会かつ労働力不足を背景に、監視や稼働管理、保守などに対しIoTや自動化技術で解決する潮流ができつつある。
内閣府による日本再興戦略にも「安全・便利で経済的な次世代インフラの構築」が掲げられており、そこでは20年までに国内の重要インフラ・老朽化インフラの20%はセンサとロボット、非破壊検査技術などを活用して点検・補修を高効率化し、これらに関わるセンサ・ロボットで世界市場の30%を獲得するという目標が掲げられている。16年のインフラ市場はIoTやロボット、センサなどの有望市場のひとつとして挙げられる。
円安傾向や、中国やASEAN地域の人件費高騰などを背景に、生産拠点を国内に回帰する動きも出ている。特に生産性の向上や技術力の強化・継承のために国内工場の重要性が再評価され始めている。
国内工場は、生産の中核というよりも、次を見据えた製品や技術の開発、最適化・効率化した製造ラインの検討、一品ものやカスタムなど高度な技術が必要なケースへの対応などの役割が求められる。海外事業の強化、IoTやインダストリー4.0など最新トレンドを実現するフィールドとしても不可欠であり、景気回復の後押しを受けて設備投資の増加が期待される。
■TPP大筋合意で輸出産業に追い風
15年10月にTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の大筋合意が行われた。工業製品は最終的に99.9%の品目で関税が撤廃され、輸出産業にとって大きな追い風になるのは間違いない。
TPP参加11カ国に輸出している工業製品は、19兆円(10年)に上る。
今回の大筋合意により、全体で86.9%の品目が協定発効後、すぐに関税が撤廃され、以後も段階的に引き下げられて最終的に99.9%の品目で関税がなくなる。
自動車や二輪車、それの部品を始め、NC旋盤やマシニングセンター、エアコンや電動機といった産業機械、ベアリングなどは輸出に適した環境が整えられることになる。
また、輸入品との競争環境が厳しくなる農業分野においては“スマートアグリ”と呼ばれる農業の高度化によって作業効率と品質を強化する動きが目立つ。植物工場、1次・2次・3次産業を合わせた第6次産業、トレーサビリティ、農業ロボットなど製造業にとってはチャンスが広がっている。